超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ダンジョンのイレギュラー

 結果から言うと――――
 ビックピックは僕らを襲ってこなかった。
 襲撃ではなかったのだ。
 原因はわからない。よくよく観察すれば、ビックピックの体が小刻みに震えている事がわかった。
 その巨体に外傷は見当たらないが、なんらかのダメージを受けている?

 「いや、しかし… それにしては……」

 考えはまとまらない。不確定要素が多すぎるってやつだ。
 僕は近くにいるクラスメイトに手で合図を飛ばし、避難を促せた。
 いつ、ビックピッグが僕らの集団への攻撃を開始しても対応するため、僕は殿しんがりとして残り、ビックピッグに睨みを利かせる。
 しかし、その心配も不要だった。
 なぜなら、ビックピッグはその場に倒れたからだ。
 僕が倒したわけではない。他の誰かの攻撃によって倒れたのでもない。
 本当に、ただ自然に倒れた。 そのまま、ぴくぴくと痙攣している。 
 病気?あるいは呪い? 突然の地震と何か関係があるのか?
 それまで感じていなかった不安が一気に噴き出てくる感覚。

 「一体、何が起きている?」

 僕は、その感情を誤魔化すように――――
 誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
 その感情――― 恐怖を誤魔化すように……だ。


 ―― 10層 ―――


 先生の予想通り、他の生徒たちも10層に集まっていた。
 歓迎会でクラスメイト全員で集まっていた僕らは幸いだった。
 他の生徒たちは自分のクラスメイトたちの安否が不明だ。不安を取り除くために、情報を求めて動き回っていた。
 だが、地上の情報がないのはどういう事だろうか?
 ただの地震なら、地上からダンジョン内へ情報が送られてくるはず。
 そのためにダンジョンキーパーには特殊な連絡網がある。
 現にダンジョンキーパー達は、この階層に集まってきている。
 しかし、彼らの困惑した表情を見る限り、地上との連絡が途絶えているのがわかる。
 一番、近くにいるダンジョンキーパーは……2人。
 責任者なのだろうか?白髪交じりのダンジョンキーパーが若いダンジョンキーパーに情報を求めている。
 可能な限り、彼らに近づき、会話を盗み聞くと……

 「途中でルートが分断されている。正規ルートから地上への帰還は不可能だ」
 「復興まで予測時間は?」
 「正確な時間は不明だ。どう見ても1週間以上は必要」
 「待て!1週間だと?なぜ、そんなに時間がかかる。分断されたルートは2~3か所ではないのか?」
 「いえ、少なく見積もっても、その10倍はあるかと……」
 「そんな馬鹿な!ありえない!何者かが謀ったか!」
 「いくら、なんでも自然現象を利用するとは……」
 「自然現象ではないとしたら?」
 「そんな、まさか!?」

 若いダンジョンキーパーが悲鳴のような声を上げた。
 責任者が「声が大きい」と咎める。
 2人は、即座に周囲を警戒するように視線を走られる。
 そして、2人は聞き耳を立てている僕に気づき、苦虫を噛み潰したよう顔になった。

 「チッ、行くぞ」
 「は、はい」

 僕に構っている間もないのか、2人はそのまま、どこかに移動していった。
 本当に何が起きている? 僕はそのまま、視線を入口に向けた。
 入り口―――
 上層へ繋がっている通路の事だ。

 

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