超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

対魔剣戦 終幕

 
  『いくら魔剣と言っても長い間使ってきましたからね。
 武器として寿命は間近だったのを誤魔化し誤魔化し使っていたのですよ』

 ゾクリとした寒気さが背中を通り抜けていった。
 もう既に魔剣ロウ・クリムの寿命は尽きかけている?
 なら、クリムの暴走の原因は……それか?

 一合、二合……とクリムの猛撃を『龍の足枷』の持ち手を使って弾き、受ける。
 一瞬、一瞬の衝撃から伝わってくる情報量。
 もって、あと一撃。
 魔剣ロウ・クリムは、あと一振りを持って破壊される。
 それを受けるわけにはいかない。
 接近してくるクリムを蹴り剥がすように前蹴り。それと同時に自分も後ろへ飛び、間合いを取る。
 どうする?どうすれば、クリムを無効化できる?
 どんな攻撃であれ、魔剣ロウ・クリムは振るえば、崩壊する。いや、既に崩壊は始まっている。
 そうなれば……どうなる? 本体である魔剣が破壊され、クリムが無事に済むとは思えない。
 ならば……死? 馬鹿な。
 俺は彼女を救いに来た……はずだった。
 けど―――――

 極度の緊張感から来るものなのか? それとも死を前にした集中力が原因なのか?
 周囲は音を消し、戦いの速度すら停滞させた。
 まるでスローモーション。 俺に向かって、クリムが剣を走らせる様子が刻まれていく。
 どうする?どうすればいい? 
 頭の中で「どうする?どうすればいい?」と言葉がグルグル回る。
 しかし、この一瞬になっても、答えは―――――出てこなかった。

 絶望。

 全身から力が抜け、気づけば両膝が地面についていた。
 もう何もできない。 彼女を助ける事もできない。
 俺の心は敗北に包まれていた。しかし――――
 体が反応した。

 それは、酷く無様な命乞いだった。
 あるいは神への祈り? そして祈りは――――時として奇蹟を呼ぶ。
 それは一つの技だ。
 その技を俺は知っていた。いや、俺だけではない。
 探索者なら誰もが……いや、探索者じゃなくとも……
 ひょっとしたら、世界で一番有名な技ではないだろうか?

 古き国 日本。
 その日本から伝わる武道武術マーシャルアーツに1つの伝説があった。
 それは、およそ実戦には使用不可能と言われた神技である。

 地面に膝をつけ、頭を垂れ、両手を合わせる動作。

 それは、命乞いにも見え、神への祈りにもよく似ている。
 そして、その技は……必ず、1つの音を持って終わりと告げる。
 古来のサムライが合戦前に神社で勝利を祈る時も同じ音を鳴らしていたそうだ。
 両手で手の平を合わせて音を出す拍手。 意味は神へ感謝と喜び。そして邪を払う動作。

 つまり――――神技。
 この神技の名前は、柳生新陰流奥義 無刀取り――――あるいは――――

 真剣白刃取り 


 パンッと渇いた音が俺の頭上で鳴り響いた。
 その音と共に、時が止まったかのように、戦いも止まっていた。
 見上げれば、自分の両手で止められている魔剣ロウ・クリム。
 さらに、その奥。魔剣を握るクリムが驚きの表情を見せている。
 ……驚きの表情?
 確かに驚きの表情だ。その両目には、知性の光が燈っている。
 どんな奇蹟が起こったのだろうか? クリムの暴走状態は終わっていた。
 俺は、両手を大きく右側へ傾ける。その動きに合わせて、呆けていたクリムが力を入れて抵抗を始める。
 そのタイミング、大きく左へ――――逆に剣を振る。 その動きに合わせるクリム。
 しかし、この動きはフェイント。 柔道でいう崩し。
 素早く、右へ力のベクトルを変える。すると――――
 それだけでクリムの体は大きくバランスを崩して、宙を舞う。

 俺の――――僕の手には魔剣ロウ・クリムが残っていた。
 手から伝わるのは魔力の強い鼓動。 
 何が起きたのか?さっぱりわからない。
 ただ、何かが解決した。その確かな実感だけは―――― 

コメント

  • くあ

    そんな馬鹿な!?

    0
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