超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

背中に生えた剣

 一体、いつの間に?

 俺は、気づかぬ内に構えを解いていた。
 それほどまでの驚き。目の前の光景が信じられなかった。
 今まで戦っていたはずの相手――――クリムの背中に大きな剣が突き刺さっている。
 誰が?無意識に周囲を見渡すが、いるのは俺とクリムの2人だけだ。
 他の誰かが隠れている気配はない。
 そして、もちろん、俺は犯人ではない。

 考えられる可能性は――――

 戦いの最中に、俺にもクリムにも察しられる事もなく近づいた何者かが、剣を突き刺した?

 あるいは―――――

 気づかなかったのは俺だけで、俺と会う前にクリムは何者かに襲われ、すでにダメージを受けてる状態だった?

 どちらにしても、可能なのか?そんな事?
 他には――――

 事故だ。
 誰かが意図的にクリムを攻撃したのではなく、どこかに置いてあった剣が戦いの衝撃だったり、何かのアクシデントでクリムの背中に突く刺さった?

 瞬時に3つの可能性を思い浮かんだが、どれも正解とは思えなかった。

 いや、俺は、こんな時に何を考えているんだ?
 クリムの呼吸は乱れている。その表情は痛みが見て取れる。
 当たり前だ。背中に剣が刺さっているんだぞ。
 何を俺は、悠長に考え事なんか……そんな場合じゃないだろ。
 慌ててクリムに駆け寄る。 
 どうする? 下手に剣を抜いて、出血を増やすくらいなら、このまま安静にさせた方が正しいのか?
 不意にクリムと目があった。 彼女が何を思っているのかわからなかった。
 こんなにも苦しそうなのに……彼女は、彼女の目は訴えかけてくる。
 まだ、勝負はここからだ……と。

 「どうしたのかな? まだ、勝負はここからだよ!」

 実際に言うのかよ。
 思わず、そう言いかけてしまったが、状況を読んで口を出して突っ込むのは控えた。

 「まだ、戦うつもりなのかよ? そんな刺されているんだぞ!」
 「? 刺されている?  何の事かな?」
 「……え?」

 刺されている事に気づいていない。そんな馬鹿な。
 それなら、なんで?そんなに苦しそうなんだ?
 クリムの背中を目を凝らしてみる。
 大きな剣。 見ただけで内包されている魔力量の異常さがわかってしまう。
 間違いない。これは魔剣だ。
 大きすぎる魔力が漏れ出し、刀身の周りでは空気が歪んでいる。

 気づけば、クリムは立ち上がり、今にも俺に向かって飛びかかってきそうだ。
 しかし、俺の方はクリムと戦う心構えが取れないでいた。
 脳裏には、多くの疑問符が飛び交い、とても集中できる状態ではなくなっている。 

 ……おかしい。 なにかが、おかしい。
 戦っていた相手の背中に、気づかぬ間に剣が刺さっていた。
 その異常状態で何かを見落としている。
 その禍々しい魔剣の存在。それに目をやるばかり、見落としている何かが違和感を生じている。
 その違和感は何か?
 その……

 「血が流れていない?」

 そうだ。クリムに近づく事で、その違和感の正体がわかった。
 クリムの背中。剣が生えている部分からクリムの血が流れていない。

 つまりそれは…… 

 クリムは何者かの攻撃によって、背後に剣を刺されたわけではない証拠だった。

 では、この状況は、どういう事なのか?
 それは――――

 僕はある人の話を思い出していた。

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