超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
真相??? その②
「そんな馬鹿な!」
狭い店内に僕の声が響いた。
反射的だった。不用意に声を荒げて、注目を浴びる事は防がないといけなかったのに。
しかし、周囲を見渡しても、誰もコチラを窺う者はいなかった。
「落ちついて、座ってください。他のお客さんには、聞こえぬように結界は張ってますが……念のために……」
ドラゴンに言われ、初めて僕が勢いのままに立ち上がっていた事に気づく。
静かに椅子へ座り直し、深呼吸を2回。 体から緊張感を取り除き、精神状態をニュートラルに持っていく。
「わかった。もう落ち着いたよ。それじゃ、聞かせてくれ。無根拠でタナカくんを犯人呼ばわりしているわけではないだろ?」
「そうですね。どこから話ましょうか……まず、サクラさんも疑問に思っていたのではないですか?
なぜ、タナカくんは無事だったのか?」
「無事だって? いや、彼は現に、今も……」
「あー違います。今、彼が意識不明の重体という事でありません。最初です。一番最初を思い出してください」
「最初……って言われても……」
それでも、僕は思い出していく。
始まりは……そうだ。クラスで急にタナカくんが大きな声を上げていたんだ。
それから、たまたま、大浴場でタナカくんから話を聞いたんだ。
21層に幽霊が出るって話を。
って、あれ? なにか違和感が……
「サクラさんも気づきましたか? 」
「気づいたって何を? 一体、何を僕は気づいたって言うんだ」
ドラゴンはため息を1つ。
まるで、犯人でもないのに犯行を認めなさいと言われているみたいだった。
「そもそも、彼は幽霊の目撃情報だけ語っていますが、それ以外はどうでしょうか?」
「それ以外だって?」
「彼はの話は、こうですよ。『ある日、幽霊に出会いました。おしまい』……話の情報量はこんなものです」
「そう言われると……そう…だけど」
「ただの学生の怪談話なら、その程度のリアルティで構いません。しかし、相手は幽霊でもなく実在する人間でした。タナカくんは、どうやって逃げたのでしょうか? どうして襲われなかったのでしょうか? あるいは、襲われた事を意図的に話していないのでしょうか?
どうしてこんなに疑問が思い浮かぶのか?、それも、これも、情報量が不自然なくらい少ないのでしょう」
「いや、待てよ。そりゃ、対峙しなかったからだろ。遠くから離れて見た……とか?」
21層に未知の魔物が現れたんだ。
タナカくんは、セオリーに従って直接攻撃の前に観察を行うはずではないだろうか?。
「あんなにも儚げで、存在が希薄だったのに? わかります? 遠くから見て? ハッキリと幽霊だと?」
「いや、いや、わかるかもしれねぇじゃん!」
僕の強めの口調に、ドラゴンは首を振る。
ニュアンスとしては「全く仕方がないですね。サクラさんは」って感じか?
僕としても薄々とは勘付いている。
ドラゴンの口調だと、犯人は―———
タナカくん。
でも、僕にはそれが認められなくて会話をはぐらかしている。
「それでは、別の切り口から攻めてみましょうか?」
「別の切り口?」
「そうです。2人の痕跡が、どうして21層で発見されなかったのか?わかりますか?」
「……」
わからない。
教師の中にも、ダンジョンキーパーの中にも、行方不明者を探す専門の魔法くらい取得していてもおかしくなはい……というよりも、ダンジョンで仲間とはぐれる危険性を考えたら習得して然るべきだとすら思うのだが……
「簡単ですよ。21層に痕跡がないという事そのものが、2人が21層に行っていないという証拠なのですよ」
「そんな、馬鹿な! それじゃ彼らは21層にたどり着けなかったと言うのか!」
「そうですよ。その手前で犯人は――――ぶっちゃけタナカくんはゲンゴロウを殺害したわけです」
僕は天井を見つめて「つまり……暗殺か」と呟いた。
アッサリとタナカくん犯人説を受け入れた自分に少し驚いた。
いくらゲンゴロウさんがベテランのダンジョンキーパーだと言っても、案内役の生徒に襲われるとは夢にも思っていなかっただろう。それに、信用してる状態なら状態異常を起こす毒物を簡単に使用できる。
「まぁ、全ては想像であって、実際はどうだったか、分かりませんがね……
なぜなら、アノ日以来、私の目は21層に向けられていましたからね!」
「なっ!?」
「そうです。サクラさん、私は21層を監視していました。その上でラスボスたる私が絶対なる断言をします。
ゲンゴロウとタナカは21層に来ていない!」
唖然と言うよりも絶句だった。
「いやいや、長々と語っていたけど、『あの日、21層を監視してたけど2人は絶対に来ていなかった』って最初に言えば短く済んだ話なんじゃ?」
「やだなぁ、カッコイイじゃないですか?なんだか、名探偵とワトソンって感じ。サクラさんが会いに来るまで、何度練習したと思ってるんですが?」
あー そう言えば、コイツは説明ベタだったな。
「あと、言うべき事は……動機くらいですかね?」
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