超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

幽霊少女の正体みたり?

 
暗闇の中、僕は夢を見ている。

 「―――――さん」

 誰かの声が聞こえてくる。

 「――と――さん」

 その声には悲しみと寂しさと不安さという感情が入り混じっていた。

 この声は…あの幽霊少女か?
 だとすると、これは本当に僕の夢なのだろうか? 
 それとも、彼女の夢なのだろうか?
 彼女は、こんな暗闇の中で、ただ一人の頼れる存在――――父親を呼び、彷徨っていたのだろうか? 

 「お父さん!」
 「いいですよ!もう少し媚びるように!」
 「お父さん!」
 「そう、我が娘ながら、その才能は末恐ろしいですね!大事なのは既成事実です。サクラさんの意識が混濁している今が……今がチャンスなのです!」

 なんの悪夢だこれは!?

 さっきとは、まるで別の恐怖。
 その恐怖に動かされるように体を跳ね起こした。

 「こ、ここはどこだ?」

 辺りを見渡してみる。 そこはダンジョンとは別世界。
 こじゃれたアンテークの家具と小物に囲まれた部屋。 
 僕は天蓋付きのベットに寝かされていた。
 本当に、ここはどこなんだ?

 「あら、あなた。起きたのですか?」
 「おはよう!お父さん!」

 「……なにやってんだ?お前は?」

 現れたのは、ドラ子・オブ・スピリットファイア……
 ドラゴンと、その娘だった。

 「なんだ、もう正気に戻っていたのですか。しかし。相変わらず、連れない返事ですね。サクラさんは。こんな美少女に攻められても袖にするなんて……もしかしてサクラさんはホモなんですか?」

 「いや、お前、子持ちじゃん」

 「ガーン! さ、サクラさんは、子育てに疲れて油断を見てせている若い人妻のエロスを理解していないのですか!高度成長期時代における団地妻の良さがわかるには若過ぎのですか!」

 「いや、お前、爬虫類じゃん」

 「はっ、爬虫類ですとッ!? 爬虫類言うなし! そもそも、心は爬虫類でも、体は人間ですよ!」

 「いや、見た目は人間でも爬虫類の方は……少し…」

 「そもそも、サクラさん。安心してください。ドラゴンは無性生殖なんです」

 「それは?つまり?どういこと?」

 「子供はいても心体共に生娘です! 世にも珍しい、子持ち処じ……」

 「実子の前で何言ってんの? お前?」

 
 そんなやり取りも、宴もたけなわに……

 「それでここは、どこなんだ?僕の最後の記憶はダンジョンで、幽霊みたいな奴に襲われていたはずなんだが……あれもお前の仕業だったのか?」
 「まさか、まさか、あれは私とは無関係ですよ。むしろ、私はサクラさんのピンチに殺到と助けに現れたのです。……なんですか? その疑わしい視線は……その、ちょっと見つめられると……子供も見てますので……痛い! 痛い! ちょっと、冗談ですよ。冗談。ちょっとした人妻ジョークですよ。なに?早く、先に進めって? 仕方ないですね。サクラさんは。はいはい、早くしまうよ。
 さて、どこから説明しましょうか……」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「まず、あの少女の正体は、魔物ではありません」
 「魔物……ではない?」

 それは意外な言葉だった。
 つまり、あの少女は魔物ではなく、本当に超常的な存在だったという事なのか?

 「えぇ、少なくとも、あのダンジョンで生まれた魔物ではありません。あんな異質な存在が魔物として生まれたならば、ダンジョンの主としての私が関知できないわけありません」

 「なるほど……でも、う~ん」と釈然としない。

 「わかりますよ。サクラさんが腑に落ちない気持ち。ぶっちゃけましょうか。あの幽霊少女の正体は――――

 人間です」


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