超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
そして始まる僕の戦い
「落ち着け、落ち着け。落ちついて考えるんだ」
僕は、自分に言い聞かせながら視線を動かす。
上層への通路は、徐々に渋滞は緩和されている。
下層から出てくるオーク達の群れは、キク先生が単騎で抑え込んでいる。
オーク王によって直撃を受けたサンボル先生は、地面との衝突を避けて……無事とは言えないけど、それでも……最悪の状態は避けれている。
つまり……
問題は1つに集約された。
サンボル先生という防御壁が破られ、自由に暴れる権限を得たオーク王。
それだけだ。それを……オーク王だけを倒せば、全てが解決できる。
どうする? どうやる? 僕に何ができる?
起死回生の一手は――――ある。
僕の手に刻まれた龍の紋章が揺らめいて見える。 まるで〝俺を使ってみろ„と嘲笑っているように……
「あぁ、やってやるよ。僕が――――」
状況確認のために視線の動きを速める。
何か?何かないか? 使える物は……
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
僕の思考を切り裂くようにオーク王の咆哮が周囲に放たれる。
直撃こそないものの、その余波を受けて吹き飛ぶ人間の姿が見えた。
早くしないと、取り返しのつかないほど致命的な―――――
焦りが焦りを呼ぶ。 今にも錯乱して、無策にもオーク王の目前へ飛び出してしまいたい。
その方が楽なのかもしれない。 けど……自分を押さえつける。
冷静に、冷静に…… そして――――
発見した。
盾。 体を覆うほど大きな盾。
前衛が魔物の進行を食い止めるために使う専門の盾。
誰かが、逃げるために武装を投げ捨てたのだろう。
僕はそれを拾い上げる。 その盾を構えて、オーク王に向ける。
手から伝わるのは確かな重み。 ずっしりとした重圧感。
オーク王を目が合う。 その威圧感は、まるで強風を受けたかのような錯覚を起こす。
両足が動かない。 まるで両足が石化したかのように――――
僕の体が僕の意志を裏切る。
「おい、サクラ……お前、何をしようとしている?」
僕は振り向く。 そこにはオントがいる。
ダメージと疲労で動けなくなり、地べたに座り込んでいる。
それでも、そんな無理を押してでもオントは立ち上がった。
「怖いなら無茶するなよ。策があるな聴かせろ。今の俺でも――――」
「大丈夫だ。やれる!」
僕はオントの言葉を遮った。
そして、自分自身の言葉を反芻させる。
大丈夫だ。やれる! 脚は……動く!
僕は覚悟を決めた。 最後にオントの方へ振り向く。
「それじゃ、行ってくるよ」
「――――っ、そうか。それじゃ、勝って来いよ!」
「あぁ!」
覚悟は決めた。 決心はついた。 憂いは断った。
体には、まだ恐怖が纏わりついて離れない。
けど――――そんなの知った事かッ!
だから進む。 だから駆け出す。
恐怖を払拭するように雄たけびを上げる。
恐怖だけを置き去りにするように走り抜ける。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
もう脳内を支配するのは恐怖ではない。
イメージするのはサンボル先生のあの動き。
再現させるのは、この体!
もうすぐ、距離はオーク王の間合いへ入る。
オーク王は僕を敵だと認識している。
僕の叫びを塗り替えるオーク王の咆哮。 それを受けても僕は、歩みを止めない。
手にした巨大盾を構え直す。
十分すぎるほどの助走―――――
そして――――
跳躍
あの時のサンボル先生と同じように……
似た角度を―――― 似たタイミングで――――
「……来い! 来い!来い!乗って来い!」
オーク王は飛び上がった僕に向けて追撃の構えを取る。
あの時と同じように、体を横に倒して――――
あの時と同じように、体を捻じって――――
あの時と同じような力み。 あの時と同じような腕。
あの時と同じような――――
そして、それは来た!
空を舞う人間を許さんと言わんばかりのフルスイング。
遅れてくるようにテンポのずれた轟音。
それを盾で受ける!
続けて襲い掛かってきた激しい衝撃。
オーク王のアッパーカットが僕を叩いた。
暗転――――意識が暗闇に飲み込まれていく。
想定してダメージを遥かに超越して、痛みはリアルタイムで塗り替えられていく。
体はバラバラになってしまいそうだ。 事実、僕が構えていた盾は、既に原型を留めておらず……割れて、折れて、へしゃげ、すでに四散を終えている。
まるで体を掴まれ、そのままシェイクされたような気持ち悪さ。
意識を保ち続ける事すら難しく、難しく、難しく……
「……」
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