超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

不仲な?2人?

 
 「……というわけで、僕の師匠です」

 「……」 「……」

 取りあえず、オントとサヲリを引き合わせてみた。 
 時間は夜。 場所は校庭。
 その結果、両者は無言になった。
 もちろん、同じ年の同級生であり、顔を知っているはずだが、それ以上の接点はないという。
 2人の態度は、まるでお互いに胡散臭い何かを感じ取っているように見える。
 上から下へ、下から上へ、ジロジロと擬音が見てて来そうなくらい、無言で視線を―――― ただ、目を動かしているだけで、慌ただしいと表現したくなるほどの勢いだ。
 ……いや、冷静に、客観的に見ると、不良の睨み合い。ガンのつけ合い、飛ばし合いにしか見えない。
 たぶん、そっちの方が正解ぽい。


 「この精神向上剤でも常用してそうなアーパー女が師匠? 冗談は、コイツの顔と口だけにしろよな」
 「この脳みその9割をダンジョンで占めてそうな男をサヲリ姉さんに紹介してどういうつもりなのかしら?サクラくん? あっ、もちろん褒め言葉よ。脳筋迷宮男って褒め言葉」
 「あん?なんだ?てめぇ?猫でもかぶってたのか?猫の額程度の脳みそから、マタタビでも抜いて正気に戻してやるか?ストロー刺して吸い出してやるよ」
 「上等!お礼に自慢の長い手足を5割ほど伸ばしてあげるわ。心配しないでね、万が一でも伸ばし過ぎた分は綺麗にカットして返却してあげるから!」

 互いに青筋を立てて、一触即発状態に突入している。
 まさか、ここまで相性が悪いとは……

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・

 「コロ王子の代理人と決闘する事になった……と?」
 「えぇ、オントが僕の代わりを引き受けてくれたんですよ」
 「……なるほど、理由はかわりました。しかし、随分と無茶しますね」
 「やっぱり、無謀です?」

 「そうですね」とサヲリは言う。
 先ほどからサヲリは、ハイテンションでもなく、毒S状態でもなく、ニュートラルな状態で話している。
 極めて珍しい状態だが、逆に言ってしまえば、それほど僕らの状況は絶望的という事なのだろう。

 「王族が召し抱える決闘代理人。その強さは、王族の序列に比例していると言ってもいいでしょう」
 「……と言うと?」
 「無論、王が最強の闘技者を保有する。次に第一王位継承者、次に第二王位継承者……」

 オントが横から「つまり、第三王位継承者に付き添ってるゴドーは、この国のタイマンランキング3位って事か?」と口を出してきたが……
 「いいえ違います」と断言された。
 「彼らは、八角形オクタゴンのリングで戦う闘技者から選ばれた過去の王者チャンピオン達。全員が王者である以上、実際に戦えばどうなるか……」

 「さっきと言ってる事、違うじゃねぇか?」と喧嘩腰でオントが言うと
 「えぇ、私は貴方の事が嫌いですからね」とサヲリは答えた。

 2人は容赦なく睨み合い、僕は「……」と非常に居心地が悪い。

 「しかし、少し見直しました」
 「え?」
 「あのコロ王子に全ての道具アイテムを賭けて戦うと言われた時、少し迷っていたみたいだったので」
 一瞬、彼女が何を言っているのか、分からなかった。
 あぁ、そういう事か…… 僕は、こうなった経緯を思い出して、少し反省する。
 そもそものきっかけは、アリスから貰った短剣……
 僕は、その事を失念してしまっていたが、サヲリから見たら、それは……
 僕が、アリスの短剣を賭けの対象にする事を躊躇したかのように、見えたのだろう。

 「……あれ?そう言えば、サヲリはあの場にいたんじゃ……?」
 「えぇ、全部見てましたよ?それが何か?」
 「いや、それじゃなんで説明を聞いたんですか?」
 「さぁ……なぜでしょうか。貴方の口から言ってほしかった……という事なのでしょう」

 少し解せない感じもするけれど……

 「よし」と一声。
 オントが話を止める。そして――――

 「話もまとまった所で、あのゴドーを倒すのに協力してくれ」

 サヲリに握手を求めた。 
   

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