超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

深夜に抜け出して

 それは奇妙な光景だった。
 なにか……こう……異常な空間? 
 きっと、闘気と言うものがあるのだろう。
 それに当てられた僕も感覚に支障ががが……

 ≪時間≫ 短く 有限/無限=あるいは無

 ≪間合い≫ 室内  医務室 非常に狭く

 両者、同じ構え=奇しくも?  前傾姿勢 無手 脱力だらり まるでガオー

 ゆら~り、とした両腕、決して拳を固めず、真っ直ぐに伸ばしきった手刀。

 だが、顔は笑っていたにやり 

もしかして……これが魔眼の世界…


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 これから行われるであろうサンボル先生とキク先生は戦いは……
 そして、次の瞬間――――

 両者は爆ぜた。いや、そうとしか見えなかった。 
 爆発としか表現できない。 ただの移動が、まるで爆弾。
 気がつけば、2人は部屋と部屋の端。
 対角線上の位置。

 それで終わり。 奇妙な光景と異常な空間は閉じた。

 戦わずに終わった? いや違う。2人は戦っていた。
 ただ、僕が、その戦いを知覚するレベルにたどり着いていなかったのだ。
 異常な汗。 疲労しきった表情。 戦いの結果はわからない。  

 
 「……これ以上は殺し合いになりますね」

 そう言ったのはキク先生だ。重い言葉に反して、軽口のような口調だった。
 それに対して――――

 「いいや、ならないよ」

 サンボル先生も答えた。
 明らかに疲労しているのに関わらず、普段どおりに飄々と。
 再び沈黙が室内を支配する。

 「わかりました。治癒者が前衛職のサンボル先生相手に本気で勝てるとは思っていませんよ。今日のところは引きましょう」
 「……そりゃ、ご謙遜も」

 互いに構えを解いた。
 そのまま「それでは、お先に」とキク先生は退室して行った。
 まるで何事もなかったかのように……
 それはサンボル先生の態度も同じだった。

 「さて、それじゃ私も失礼しますね」
 「……先生。ダンジョンで何があったのか、先生は聞かないのですか?」
 「そうですね。とりあえず、傷が癒えてから……話はそれからですね」

 
 その夜。
 何食わぬ顔で医務室に帰ってきたキク先生の許可を得て、僕は自室へ戻ってきた。
 部屋で待っていたケンシと軽口をたたき合い、帰ってきた実感が沸く。
 泣きそうになったが、何とか耐えた。 そして、そのまま寝た。

 ――――けど、眠れなかった。
 そっと部屋を抜け出した。
 深夜の校庭。奇妙なほどに明るい。空を見上げると満月。校庭を照らしていたのは月明かり。
 周囲の人気はない。念のために調べる。人がいないと確認。
 僕は、自分の手を撫でた。 この中に、最強の武器が有る。

 イメージする。

 ――――最強の武器――――

 手の甲に描かれた龍が光る。そして、それは現れる。

 龍の足枷ドラゴンシール

 

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