超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

対立 魔眼の使い手

 

 『魔眼』 

 魔法の発生によって人類の肉体に起きた変化の1つ。
 先天的な個人の魔力濃度によって、肉体の一部に常時魔法的効果を発生させている。
 既存の魔法とは違い、技術形態が成し得ていない。
 その代表が魔眼である。

 (キク先生が魔眼の使い手? それを僕に? だとしたら……)

 そんな僕の心情を無視して、サンボル先生をキク先生は――――いや、互いに互いを睨み始めた。
 視殺戦。無言の時間が流れる。
 両者とも、普段は見せないであろう表面が顔を出している。
 常時、やる気のないサンボル先生も、爽やかなキク先生も、鳴りを潜めている。
 あるのは探索者の顔。魔物を目にして、相手を死に追いやる事を優先する時の顔が現れている。
 そんな風に僕には感じられた。

 無言/無言/無言/

 最初に口を開いたのはキク先生だった。

 「なぜだ? なぜ、邪魔をする?」

 それに対して、サンボル先生は訝しがるような表情を返す。
 そんな様子を見て、キク先生は苛立ちを隠せないでいる。
 いや……

 「彼は未知の状態異常が起こっている。有史に残っていない未知だぞ? 彼の身に起きて症状を解明できたらどうだ? 今まで状態異常が無効化だと思われている魔物にも有効な手段が生まれるかもしれない。それでどのくらいの命が助かると思っている?どのくらいダンジョン攻略が捗るか?考えてみろ……」

 まるで演説みたいだった。酷く興奮状態に陥っているかのように―――――
 それをサンボル先生は一言で止める。

 「それを理由にサクラくんに何をしたい?」

 何をしたい。 確かに……キク先生は、僕に何をしたいと……

 「そんなのは決まっている。全てだ・・・

 「人体実験をしたいに決まっている。もちろん臨床実験だ。毎日、血を抜き取って、あらゆる状態異常を重ね合わせたい。電気を流して反応を確認したい。あらゆる薬を投与してみたい。どの魔物が原因だったのか、ダンジョン内を連れまわして反応をみたい。あらゆる治療法を、あらゆる原因解明を、試したいに決まっている。
 ……まさか、もしかして――――
 それが悪い事だと勘違いしているのか?サンボル?」

 寒気が走る。「ひぃッ」と自分の口から小さな悲鳴が漏れている。
 この人は、僕の事を人間だと思っていないのか?
 恐怖。 黒色が僕の視線を染め抜いていく。
 もう、僕はキク先生を人間だと認識できなくなっている。

 怪物。

 人間の型をした怪物がそこにいる。
 きっと僕1人なら発狂していただろう。
 どんなにみっともなくても「助けてくれ」と泣き叫んでいたかもしれない。
 僕は、この場にいる唯一の味方であるサンボル先生を見る。助けを乞うように……
 そんな希望はサンボル先生の次の言葉で砕かれた。

 「いや、キク先生。貴方は正しい」

 僕の心音が跳ね上がる。 見捨てられた……? そんな……

 キク先生は愉快そうに笑いだす。しかし――――
 サンボル先生の言葉は終わってはいなかった。

 「でも、彼の犠牲で世界中の人たちが助かるにしても、私の生徒――――つまり、私たちの歩みを継いでくれる後継者なのよね」

 キク先生は笑いを止める。表情は凍り付いていた。
 サンボル先生は続ける。

 「彼に人体実験にする事で助かるかもしれない命。 彼が探索者の道を進む事で助かるかもしれない命。どっちが多いか? 同然ながら、まだわからない……そう、まだわからない以上は、先生は生徒の味方であって然るべき……ってのはカッコつけ過ぎかな?」 

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品