超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

ラスボス戦(八百長)完全決着!?

 『ハッハッハ……これ楽しい!超々楽しいのですわ!』

 ドラゴンは、巨大なアギトを上に向け、火球を打ち上げる。

 ちゅーポン! ちゅーポン! ちゅーポン!

 間の抜けたような打ち上げ音が鳴った。
 そして――――打ち上げられた火球は、重力に従って落下していく。
 着弾。
 その衝撃、爆撃音は僕の聴覚を凌駕して無音――――音は死んだ。
 僕も死ぬそうだ。

 「ほ、本気で殺すつもりか?」と僕はできるだけ大声で叫んだ。

 『いやいや、サクラさん。全く、そんなつもりはありませんよ』
 「はぁ?」

 『ほら、あちらをご覧ください』とドラゴンは顎をクイッと動かし、視線を誘導させる。
 そこには、落下した火球を浴びながら、キャッキャッと喜んでる子ドラゴンの姿が……

 「お前らの同種族と比べるな!こっち、人間だ! 死ぬ死ぬ!」
 『えー マジにならないでくださいよ。 マジ必死過ぎて若干引き気味ですわ。サクラさん、キャラ崩壊してますよ?』
 「えぇい!どうしろと!」
 『そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか、こっちは超手加減しまくリング!って感じですよ? 一応、形だけでも戦って負けたって設定にしないと、クリア報酬をプレゼントできないって仕様なんですよ?』
 「いや、何だよ、それ? だったら、だからどうしろと!」
 『ほら、最初は勢いよく、ぶつかって、後は流れで~』
 「死ぬ!死ぬから!八百長でも死ぬから!」
 『仕方ないですね。こちらは3段変身+最終形態の用意も万全なんですが、巻きで、巻き巻きで、いきましょう』 

 そう言うと、ドラゴンは動きを止めた。

 『……体が……鈍い。まさか、あの時に毒を……くっ……殺せ!』
 「いや、毒なんて盛ってないけど?」
 『ここにマジ返信って、天然かッッッ!?』
 「じゃ、どうすればいいんだと?」
 『適当に短剣を投げてください。とりあえず、当たった場所が逆鱗って事にして倒れるんで』

 「あーはいはい、とっりゃあー」と裂帛の気合と共に、僕は短剣を投擲した。

 『うわー や、やられた……ってサクラさん?何やってるんですか!?片手を挙げて、空を見上げながら、まるで何かを掴むような感じで、割とよくある勝利のポーズを決めてください!そういう台本でしょ!?』

 「台本なんてねぇーよ!」

 僕の突っ込みの雄たけびがダンジョンの最下層に虚しく響き――――
 僕は、人類初のダンジョン攻略の偉業を達成する事になった。




 『というわけで受賞式に移ります。トーア・サクラくん!』
 「……はい」

 ドラゴンは人型の形状に戻っていた。

 『なんで、サクラくんは、死んだような目になってるんですか?』
 「いや、つい先ほど嫌な事がありましてね」

 ゴホンと、ドラゴンは空気を換えるようにようにわざとらしい咳払いをした。

 『さて――――まずは当ダンジョン攻略おめでとうございます』
 「……ありがとうございます」 
 『それでは、このアイテムをお渡しいたします。右手をだしてください』 
 「えっと、こうかな?」

 僕は、自分の右手を差し出す。すると――――
 ドラゴンの人型時に発する光、それと同等――――いや、それ以上の光が右手に宿る。

 「熱っ!?」と一瞬だけ痛みに等しい熱が走った。

 『はい。これで手続きは完了です。どうですか?人類の頂点に立った気分は?』
 「人類の頂点?これだけで?」
 『えぇ、今のはダンジョン攻略の恩賞。 おそらく人類は手に入れるには、1000年近い時間が必要だったアイテム。我々、龍の魔力を1000年間、吸収してきたアイテム。最強を名乗っても文句のでない一品ですよ?』
 「ん?え……それ、どこにあるの?」

  周囲を見渡しても、そんな物は見当たらない。あるとするなら……
 僕は視線を自分の拳に向ける。 あんなにも眩く、神々しい光を灯っていた右手から光は消え去っていた。 代わりにある変化が起きていた。 手の甲の部分、黒い紋章? ドラゴンの絵が刻まれていた

 『それ、かっこいいでしょ? 子供の頃、読んだマンガで出てくる竜の紋章みたいで。竜闘気ドラゴニックオーラって感じ?』

 ドラゴンの説明は、まるで意味がわからなかったが、むやみやたらに突っ込むと非常な危険性を感じて、自分を押さえ込んだ。

 『イメージしなさい。最強のアイテム、それは常に貴方の手の中に……』
 「イメージ……最強……」

 やがて、僕の右手――――正確には、右手の紋章が再び輝き始める。
 その光が最高潮に達したと思った瞬間、何かが飛び出してきた。
 それは――――

 「こ、これが最強の武器?」
 『えぇ、そのとおりです。これこそが最強の武器――――龍の足枷です!!』

 その名前を聞いて、僕は「嗚呼、確かに」と納得した。 
 最初に目に入ってきたのは、見上げるほど巨大な球体。
 鉄の塊を思わせる無骨で黒光りした巨大な球体だった。そこから鎖が生えている。
 鎖の先には、まるで芸術品のように煌びやかに装飾。 おそらく、武器として使用する際は、そこをもつのだろう……
 つまり、それは鈍器に類する武器……となる。
 要するに……要するにだ。滅茶苦茶、馬鹿でかいモーニングスターだったのだ。
 

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