超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

唐突で理不尽なラスボス戦

 

 『それでは案内いたしましょう』

 ドラゴンの魔力が稼働していく。 膨大な魔力が世界に変革をもたらせていく。
 そして、生まれたものは扉。 しかし、その本質は空間の歪み。
 ダンジョン内に多々、存在する不可視の移動手段。 
 それを作った? この短時間で?
 それも、片手で子供をあやした状態で? 

 『さて、今の階層は348層です』

 「さ、348層……」

 348層……その数字を聞いて、無意識に喉を鳴らした。
 現在の人類が有する精鋭で作った攻略チームですら100層以下は未踏。
 実に3倍以上の数字。現実感は希薄。 
 とあるダンジョン研究者がいて、その研究者の推測でいうならば、
 おそらく、このまま人類全体がダンジョン攻略に向けていったとしても、348層に到達するのは数百年後。
 人類の遥か未来の果ての世界、生まれるであろう英雄たちに先んじて、この場所を歩いている。 
 体中の毛穴が開き、髪が逆立っている。 震え……? けど、体は寒気とは相反する熱を感じている。
 今の僕で、こんな状態。
 僕がドラゴンと普通に会話をしているのは、状態異常バッドステータス……つまり精神汚染が行われているからだ。
 もしも、僕が正常だとしたら? この非常識な状況を前に、発狂は免れないだろう。
 だが……ドラゴンの次の言葉は、僕に取って追い打ちであった。

 『この扉を超えたら……500層。最下層、最深部と言われる場所。私のフィールドです……覚悟はいかがですか?』
 「……」

 僕は無言で、だけど……しっかりと頷いた。
 それを見て、ドラゴンは扉を開き、中へ進んでいった。
 僕は深呼吸を一つ。 そして、扉をくぐった。

 ―――500層―――

 ダンジョンの最下層。
 そこは、もはや迷宮ダンジョンではなかった。
 空間。 そう……ただ。開けた空間が広がっている。
 隔てる壁も存在せず、1層分の空間。

 『名前……』
 「え?」
 『いえ、そう言えばお名前を聞いていませんでしたね』

 そうだったかな? 確かに思い返して見れると……

 「きちんと自己紹介をしてなかったですね。僕に名前はサクラ。トーア・サクラ……です」
 『サクラ、良い名前です。旧世界の花の名前であり、女性によく使われる名前でしたね……』

 「旧世界?」と聞き返した。初めて聞く単語だ。

 『えぇ、世界を作った創設神話よりも前の時代。人間の歴史から抹消された時代を私たちは旧世界と呼んでいます』
 「つまり、僕らの歴史より前の世界?」 

 『えぇ』とドラゴンは肯定する。
 『……今から1000年前の1999年の7月に私は、創設神によって生まれました。その頃にはシュットは大陸の1部ではなく、まだ単体の島国の1つで、名前も違う国でした』

 1000年前? この国が島国だった? 
 頭に浮かぶ、疑問をドラゴンに問うことはできなかった。

 『おっと、壮絶なネタバレはここまで。この世界の謎。私たちの正体やダンジョンの存在理由。それらの謎の答えを創設神は用意してますが、それは正規の方法において開示されます』
 「正規の方法?」
 『そうです。全ての謎はダンジョンの攻略によって明かされる……さて、それでは始めましょうか?』
 「始める? 何を?」
 『無論、ダンジョン攻略ですよ。ラスボス戦開始です!』

 その直後、ドラゴンの体は巨大な球体に変化した。
 そのまま、飛行して部屋の隅にある巨大な物体に吸い込まれていった。
 物体? いや、あれは――――ドラゴンの本体か?

 「————いや、これが本物のドラゴンかッ!」 

 巨大な建築物のような大きさ。 爬虫類のような見た目。
 牙や爪。それら、1つ1つが世界に現存する魔剣、聖剣、宝剣に等しい力を有している。
 その鱗は、重厚な鋼を積み重ねた防御壁に等しい。さらに体を守るため、常に展開されている魔法結界は、敵意の攻撃を肉体に届く前に弾く
 よくわかる。わかってしまう。 なぜ、ドラゴンの戦闘能力が国家と比較されるものなのか……を。

 あれは城なのだ。合戦をするために城に近い。
 国が保有する全魔法使いに等しい魔力。 
 あの牙と爪は、1000人で行う騎士団の突撃と同じようなもの……。
 そして、体は、通常の城壁を遥かに上回る硬度を有している。

 そんな存在が僕の前にいて……

 『どうしたんですか?サクラさん。すで戦いは始まっているのですよ!』

 なぜか、嬉々として叫んでいる。  

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