超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』
朝の眩い光…… 光の人間がいた
「う~ん 朝か……」
テントの外から眩い光が差し込んでくる。
僕を起こそうとしてくれているのか? ぺろぺろとドラゴンは、僕の顔を舐めてくれる。
本当に犬みたいだな……コイツ。 あー 名前とか必要なのかなぁ?
……って、あれ? なにか違和感があるぞ。
僕は寝ぼけた頭をトントンと軽く叩く。
何がおかしいのか? 思い当たらない。けど、たしかに……何かがおかしい。
「なんだ? なんだ?」
その原因が思いつかない。
ただ、なんとなくテントの入り口を開けて外をみる。
そして、わかった。
それは光だ。 あるはずのない光。
ここは、人類が未踏のダンジョンであり、闇が支配していた。
深い漆黒の闇に包まれ、人工的な光は僕が有している道具以外に存在しないはずではなかったのか?
では、外からテント内部へ零れている光の正体は何か?
僕は、それを見た。
……しかし、その正体は見当がつかない。
そこには、光の人間がいた。
光の……人間がいたんだ。
それ以外に表現がみつからない。
人間のフォルム。頭部が存在して、胴体からスラッと伸びた四肢。
そして、体が発光している。
未知の生物? 魔物だとしたら精霊系? あるいは神の系譜である神聖系?
だめだ。考えがまとまらない。 その存在を見ているだけで精神が削り取られていく。
混乱、発狂、錯乱、精神衰弱、ついには指先にしびれが走り、肉体への直接的な状態異常が起こり始まる。
突然の眩暈に意識が持って行かれそうになるも「くっ……」と堪える。
戦う前から伝わってくる規格外の強さ。
もしも、精神が正常ならば―――― もしも、恐怖感がマヒしていなければ、反撃どころか、逃げる事もできなかっただろう。
「けれども————僕は————生きる!」
僕は短剣を抜き、構える。
腰を落として前傾姿勢。短剣の剣先を敵に向け、余った片方の手を地面につける。
イメージは四足獣だ。
人間は強くない。魔物にはもちろん、通常の生物にすら肉体的な強度は劣る。
だからこそ、人間は武器を持ち、剣技を磨き、魔法を学び、魔物と対等に戦う術を手に入れるのだ。
 人間の進化は、戦いへの進化だ。
武器を有して、二足歩行で戦う。それは人間だけに許された戦闘術。
本来、弱き者が強き者に勝つための技だ。
僕は逃げない。
ただ、前へ――――僕は飛び出した。
生まれ落ちて15年。
そのうち9年間をダンジョンに挑むための技術獲得に費やした。
その全てを込めた攻撃。そして、その一撃は―――――
当たり前のように光人間の胸へ届いた。
そして、当たり前のように、僕の一撃は――――
手ごたえもなく、まるで陽炎を相手にしたかのように、すり抜けていった。
「なっ!?」
驚愕が声に出る。
体に急ブレーキをかけ、反転。
再び、二の太刀を浴びせようと、短剣を振りかざす。
しかし、できない。なぜなら、光人間は攻撃の間合いを潰していたのだ。
振り向いた瞬間、光人間の顔が、僕の顔――――僕の鼻先とひっつく程に接近していた。
接近した事によって、ソイツの顔を直にする。
やはりと言っていいのか? ソイツには目も鼻も口も耳も存在しない。
一体、コイツの正体は何か? そんな芽生えた疑問は、衝撃によって吹き飛ばされた。
次の起きたのは、爆発――――否。爆発としか思えない衝撃が僕の額を襲っていたのだ。
衝撃で後方へ弾き飛ばされる。 一体、何が起きた?
顔を上げ、光人間を睨み付ける。
すると――――
『待ちなさい。人の子よ』
頭に声が響く。 足腰から砕け落ちそうになる重低音の声。
思わず、僕は動きと思考を止めた。
『私は争いを好みません。ただ、私の子供を迎えに来たのです』
「――――子供? 僕の事か?」
思わず、自分の事か?……と勘違いする程、肉体と精神がボロボロになっていたらしい。
表情がないはずの光人間が失笑してるのがわかる。
では、何の話だ?
見ると、光人間の足元にいるのは、ドラゴンの子。
僕にしていたかのように頬を光人間の足に摺り寄せて甘えていた。
……と、いう事は?
「えぇ!? お前、ドラゴンなのか? いや、ドラゴンなのですか?」
『その通りなのですよ。人の子よ』
光人間は、僕の言葉を肯定した。
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