超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 

チョーカー

少年の始まる飛躍  決闘決着 

 
 開かれた空間。
 僕とオントの間に遮蔽物は存在しない。
 僕に勝機があるならば接近戦。
 互いの間合いから接近戦に持ち込むには――――僕の全力疾走で、およそ5秒。
 もちろん、オントは置物じゃない。僕が前に出る動きに合わせて、彼も動く。
 僕が接近戦に持ち込むまで2発……いや、3発は繰り出せるはずだ。
 それでも被弾を恐れず、前へ―――― ただ、前に突き進む。
 それができればカッコイイかもしれない。しかし、現実的な話――――そこに勝機は存在しない。
 ……もっとだ。僕が求めるのは、もっと困難で、限りなく不可能に近い方法。
 例えるならば―――― オントの攻撃を封じ、尚且つ、互いの間合いを瞬時に縮める。そんな魔法みたい方法だ。

 そんな方法は――――

 ある

 僕は鎖を回す。
 それと同時にオントも止めていた鎖を回転させる。

 来い、来い、来い……

 狙って来い。僕の無防備な頭部に、その金属の塊を放て。
 あぁ、気がついてるんだね、オント。流石だ。
 そうだ。これは罠だ。 それでも君なら――――僕の作戦なんて真正面から――――実力で叩き潰そうとしてくれる。そう信じている。信頼すらしている。
 そう、君の強さは、君の信念は、信頼に値する。

 そして―――― 

 来た!?

 予測通り、僕の顔に真っ直ぐ正面。  
 どんなに速くても―――― 

 「わかっていたら避けれる!」

 僕は体を横に、倒れるように動く。
 顔の真横、視線の端で金属が通過していく。
 しかし、僕にはそれを確認する余裕はない。
 真っ直ぐに伸びきったオントの鎖。それに向かって、僕は――――
 十分に回転させた、自分の鎖を叩きつける。

 2匹の蛇のように、複雑に絡み合う2つの鎖。

 絡み合った鎖。2つの鎖が1つになる。
 僕は、それを渾身の力を込めて引き寄せる。

 力勝負。 単純で、そして、純粋な力勝負だ。 

 平均的な大人よりも恵まれた体格のオントを相手に……
 中型の魔物相手に力勝負で勝ってしまうオントを相手に……
 無謀?でも――――
 不意をつかれ、脱力しているオントが相手なら?

 効果は予想通り。 大した抵抗もなく、前にバランスを大きく崩すオント。
 しかし、それもすぐに終わる。
 大きく前へ足を踏み出し、オントは動きを止める。
 そして、表情には怒り。 
 そんなオントの次の行動は? そんなの決まっている。
 不意をつかれ、無防備に引っ張られた人間は、反射的に――――
 引っ張り返そうとする。

 「そこだ!」

 気がつくと僕は叫んでいた。
 僕の体は既に動き出し―――― 前へ―――― 前へ――――
 僅か3歩で助走を完了。そして、若干のタイムラグがあるものの、鎖を通じて手から感じられるオントの剛腕。
 そのタイミングで僕は……飛んだ。
 僕は跳躍して、飛翔して、そして飛行した。

 オントの怪力によって、互いの間合いが、瞬時にゼロへ向かっていく。
 オントの顔が近づいていく。その表情は驚愕そのもの。
 さらに言えば、彼の体勢は崩れていた。 後方へよろめいている。
 きっと、僕が前へ飛んだ事によって、引いた彼はバランスを崩したのだろう。

 この瞬間、オントからの追撃も、カウンターもないと確信した。

 あとは――――

 「どこでもいい。だから当たれ!」

 僕は、右腕に巻き付いた鎖をそのまま――――
 彼に――― オントに――――

 叩き付ける!

 二の腕から伝わるのは、確かな感触。
 手ごたえ。

 鎖を巻いた僕の右腕は、彼の首へ直撃していたのだ。
 それを自分の目で確認して、数瞬後に……

 「それまで! 勝者、トーア・サクラ!」

 サンボル先生の声が校庭に響いた。

    

「超迷宮奇譚伝 『このアイテムは装備できません!』 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー601233

    ランキングからきました。
    面白いですね。

    0
コメントを書く