運命(さだめ)の迷宮
行き当たりばったりだと、解らない戦国時代の風俗が……。
新しい衣に袖を通し出仕すると、同僚たちの声がかかる。
「どうしたんだ?その新しい衣は」
「もしや、恋人でも?」
「うるさい。増えるな!!邪魔だ!!」
神五郎は睨み付けるが、にやにやと笑う。
「聞いたぞ?嫁さんを連れて帰ったんだって?景虎さまの逃亡は毎度の事なのに、毎回毎回必死に探し回って。どうせ、数日したらひょっこり出てくるんだ。それよりも、嫁さんの話聞きてぇなぁ?」
「うるさい!!景虎さまをお前が探してこい!!」
「俺が探しても出てこねぇもん。それよりも、嫁さんを連れて帰るとは、隅に置けねぇなぁ」
文句をいう気も失せて、手を振り払って進もうとしたのだが、
「あの、あの、すみません!!神五郎さまはいらっしゃいませんか?」
と言う声に振り返ると、
「あぁ!!神五郎さま!!お忘れです!!お持ちしました!!」
てててっと走りよってきた小柄な少女は、背伸びをして、
「神五郎さま!!お忘れものです。橘樹さまから頼まれました」
「采明どの……。何を忘れたと言うのです」
「えっと、これです!!」
懐から大事そうに取り出したのは手拭い。
その中のものが何か気がつき、慌てて手で押さえ止める。
「それは、必要ない。貴方が持たれているといい。何かあっては困るゆえ、誰にも見せぬように!!」
「そうなのですか?はい」
素直に懐に収めると、にっこり笑い、
「では、いってらっしゃいませ。私はお帰りをお待ちしております。楽しみですわ!!」
「采明どの!!周囲が誤解するでしょう!!今日は学問の日でしょう!!」
「うふふ……楽しみですわ!!」
昨日のやりとりで、大分変わった少女だとは思っていたが、頬を赤くして嬉しそうに、
「『孫子の兵法』について舌戦!!やってみたかったのです。舌戦で滅多うちしたら、橘樹お姉さまが神五郎さまに何でも命令していいと言われたのですわ!!なので、秘伝の書簡を見てみたくて……ふふふ……嬉しいですわ。絶対に勝って見せますもの!!そして、秘伝の書簡!!」
「ひ、秘伝の書簡……って、」
同僚たちは神五郎を見る。
神五郎はため息をつくと、
「采明どの。嬉しさに意識が飛ぶのはいいと思うが、人前で女人がにやにやと書物について語るのはやめた方がいい。これでは本当に嫁にいけなくなると思う」
「行きませんから大丈夫です!!私は研究者になるのですわ!!歴史を研究するのです!!」
「行きませんからではないだろう?それよりも、どうしてこんな被り物をして……」
姉さんかぶりならまだ可愛いが、妙な縛り方をしていて外す。
「きゃぁぁ!!折角身分を隠して……姿を消すために、こういう格好を時代劇でしていたのですわ!!」
「身分も何も、変な格好をして余計に目立つでしょうが」
「髪の毛が爆発してます!!目立ちたくなかったのに!!」
「充分目立ってますよ。ほら、直してお帰りを。帰り道は解りますか?それよりもどうやって来たのです?」
神五郎の問いかけに、采明は、
「悠真さんに連れてきてもらったんです。でも、お忙しいみたいでお別れしましたので、一人で帰ります。あ、神五郎さまのご同僚の方ですか?何時もお世話になっております」
深々と頭を下げたあと頭を起こし、にっこり笑う。
不思議な目を覆うものの奥は大きな丸い瞳、顔立ちは可愛らしく、淡い色のふわふわの髪を緩く縛っている。
美少女である。
同僚たちは慌てて、
「初めまして!!我輩は!!」
「抜け駆けするな!!采明どのと申されたか?」
などと声をかけるが、采明は、神五郎の腕の書簡を見つめ、
「あぁぁぁ!!読ませてください!!神五郎さま!!」
とガバッと抱きつく。
「こ、こら!!女人がはしたない!!離れなさい!!」
「その書簡!!もしかして幻の……読みたいです!!貸してくださいませ!!」
采明は必死にしがみつき、訴える。
同僚ならば、無理に振り払えるのだが、小さく華奢な少女を振りほどくのは気を使う。
何とか引き離し、こんこんと説教をする。
「采明どの!!良いですか?女人が男に飛び付いてどうするのです。貴方の評判が下がっては将来どうするのです!!先程は安易なことを言っていましたが、もっとちゃんと考えなさい!!良いですね?」
「……書簡……読みたかったのに……」
俯きべそをかく采明に慌てて、
「わ、解りました!!読ませてあげます!!帰りなさいといっても、悠真がいないのなら帰れないでしょう。こちらに、着いてらっしゃい」
顔をあげて、嬉しそうな少女に、
「良いですか?いい子にしてくださいね?誰彼構わず抱きついたりしないんですよ?」
「はい。いい子にします!!」
「はい、ではいきましょうか……何だ?お前たち」
暴走すると跳びはねるお転婆な少女を大人しくさせようと、手を握った神五郎に周囲は、
「……堅物なお前にもついに春が来たんだな……」
「は?」
「今度の婚礼楽しみにしてるぞ」
「お前の正装は良いが、嫁さんのは楽しみだよな」
わいわいと好き勝手話しながら歩き出した同僚の後ろを、歩幅の違う少女に合わせゆっくり歩き出したのだった。
「どうしたんだ?その新しい衣は」
「もしや、恋人でも?」
「うるさい。増えるな!!邪魔だ!!」
神五郎は睨み付けるが、にやにやと笑う。
「聞いたぞ?嫁さんを連れて帰ったんだって?景虎さまの逃亡は毎度の事なのに、毎回毎回必死に探し回って。どうせ、数日したらひょっこり出てくるんだ。それよりも、嫁さんの話聞きてぇなぁ?」
「うるさい!!景虎さまをお前が探してこい!!」
「俺が探しても出てこねぇもん。それよりも、嫁さんを連れて帰るとは、隅に置けねぇなぁ」
文句をいう気も失せて、手を振り払って進もうとしたのだが、
「あの、あの、すみません!!神五郎さまはいらっしゃいませんか?」
と言う声に振り返ると、
「あぁ!!神五郎さま!!お忘れです!!お持ちしました!!」
てててっと走りよってきた小柄な少女は、背伸びをして、
「神五郎さま!!お忘れものです。橘樹さまから頼まれました」
「采明どの……。何を忘れたと言うのです」
「えっと、これです!!」
懐から大事そうに取り出したのは手拭い。
その中のものが何か気がつき、慌てて手で押さえ止める。
「それは、必要ない。貴方が持たれているといい。何かあっては困るゆえ、誰にも見せぬように!!」
「そうなのですか?はい」
素直に懐に収めると、にっこり笑い、
「では、いってらっしゃいませ。私はお帰りをお待ちしております。楽しみですわ!!」
「采明どの!!周囲が誤解するでしょう!!今日は学問の日でしょう!!」
「うふふ……楽しみですわ!!」
昨日のやりとりで、大分変わった少女だとは思っていたが、頬を赤くして嬉しそうに、
「『孫子の兵法』について舌戦!!やってみたかったのです。舌戦で滅多うちしたら、橘樹お姉さまが神五郎さまに何でも命令していいと言われたのですわ!!なので、秘伝の書簡を見てみたくて……ふふふ……嬉しいですわ。絶対に勝って見せますもの!!そして、秘伝の書簡!!」
「ひ、秘伝の書簡……って、」
同僚たちは神五郎を見る。
神五郎はため息をつくと、
「采明どの。嬉しさに意識が飛ぶのはいいと思うが、人前で女人がにやにやと書物について語るのはやめた方がいい。これでは本当に嫁にいけなくなると思う」
「行きませんから大丈夫です!!私は研究者になるのですわ!!歴史を研究するのです!!」
「行きませんからではないだろう?それよりも、どうしてこんな被り物をして……」
姉さんかぶりならまだ可愛いが、妙な縛り方をしていて外す。
「きゃぁぁ!!折角身分を隠して……姿を消すために、こういう格好を時代劇でしていたのですわ!!」
「身分も何も、変な格好をして余計に目立つでしょうが」
「髪の毛が爆発してます!!目立ちたくなかったのに!!」
「充分目立ってますよ。ほら、直してお帰りを。帰り道は解りますか?それよりもどうやって来たのです?」
神五郎の問いかけに、采明は、
「悠真さんに連れてきてもらったんです。でも、お忙しいみたいでお別れしましたので、一人で帰ります。あ、神五郎さまのご同僚の方ですか?何時もお世話になっております」
深々と頭を下げたあと頭を起こし、にっこり笑う。
不思議な目を覆うものの奥は大きな丸い瞳、顔立ちは可愛らしく、淡い色のふわふわの髪を緩く縛っている。
美少女である。
同僚たちは慌てて、
「初めまして!!我輩は!!」
「抜け駆けするな!!采明どのと申されたか?」
などと声をかけるが、采明は、神五郎の腕の書簡を見つめ、
「あぁぁぁ!!読ませてください!!神五郎さま!!」
とガバッと抱きつく。
「こ、こら!!女人がはしたない!!離れなさい!!」
「その書簡!!もしかして幻の……読みたいです!!貸してくださいませ!!」
采明は必死にしがみつき、訴える。
同僚ならば、無理に振り払えるのだが、小さく華奢な少女を振りほどくのは気を使う。
何とか引き離し、こんこんと説教をする。
「采明どの!!良いですか?女人が男に飛び付いてどうするのです。貴方の評判が下がっては将来どうするのです!!先程は安易なことを言っていましたが、もっとちゃんと考えなさい!!良いですね?」
「……書簡……読みたかったのに……」
俯きべそをかく采明に慌てて、
「わ、解りました!!読ませてあげます!!帰りなさいといっても、悠真がいないのなら帰れないでしょう。こちらに、着いてらっしゃい」
顔をあげて、嬉しそうな少女に、
「良いですか?いい子にしてくださいね?誰彼構わず抱きついたりしないんですよ?」
「はい。いい子にします!!」
「はい、ではいきましょうか……何だ?お前たち」
暴走すると跳びはねるお転婆な少女を大人しくさせようと、手を握った神五郎に周囲は、
「……堅物なお前にもついに春が来たんだな……」
「は?」
「今度の婚礼楽しみにしてるぞ」
「お前の正装は良いが、嫁さんのは楽しみだよな」
わいわいと好き勝手話しながら歩き出した同僚の後ろを、歩幅の違う少女に合わせゆっくり歩き出したのだった。
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