運命(さだめ)の迷宮

ノベルバユーザー173744

咲夜ちゃんはテディベアの世界に引き込まれそうです。

大きなはるかの手から、愛らしいテディベアが出来上がったのに、咲夜は自分が仕上げたベアを見て、

「……下手です。お目目が……」

しょげる少女に、遼は覗き込み、そっと手で直してみる。

「ほら、瞳が、きちんと入っていなかったんだね。これで綺麗に揃ったよ。糸をきゅっと引っ張って?」
「は、はい!!あ、出来ました!!遼様!!」
「え、えーと、咲夜さくや景虎かげとら君は景虎君って呼べるんでしょう?どうして私は様付け?」
「えっと、命の恩人だからです!!采明あやめお姉さまと私を助けてくれました!!儁乂しゅんがいお兄さんが、そう呼ぶといいって。それに、遼様のお父様やご家族はお医者さんで先生です。なので」

ハキハキとして言った後、えへっと首をかしげる。

「遼様はとってもお強いし、こんな風にテディベアやお勉強も教えてくれるので、私は大好きです!!」

美少女の素直な告白にクラクラになりかかるが、必死にこらえる、でないと……。

「おーい、遼様!!そこでいちゃいちゃやめねぇ?ゆかりんの結婚式に間に合うように、ウェイトベアとウェルカムベア作ってるんだろう?」
「一応。兄上のは手を抜いてリボンだけにする」
「あ!!遼様!!えっとえっと……」

ウェルカムベアのゆかりんバージョンを作っていた咲夜は、引き出しから、何かを包んだ紙袋を取り出す。

「これ、合いませんか?大まかな寸法ですけど……」
「……はぁ!?羽織袴、打ち掛け!!どこで覚えたの?」
「采明さまに教わりました。元々古着を繕うのが私の役目だったので、仕立て方も教わりました。えっと、ここをこうして、こっちがこうで……わぁ!!合いました!!遼様!!ゆかり先生です!!それに、こちらは、こうして、こうやって……可愛い、沙羅さらさんです!!」
「……遼も何気にすげぇが、この子もすげぇな……」

感心する儁乂。

「どうですか?結婚式は内輪で、ドレスって聞きました。看護師さんたちが、色打ち掛けと言うのをいっていたのを聞いたのです」
「……兄達が喜ぶよ。本当に」

遼は微笑む。
そして時計を見て、

「そろそろ、仕舞っておこう。準備があるんだよ」
「じゅ、準備ですか?」
「そう」

テディベアを、咲夜が使っておらず……移動が車イスのため、すぐ側にタンスをおいたので、少し離れた別のクローゼットを遼の私物入れにしている……そちらに、箱に仕舞った後、入れておき、そして、儁乂と共に片付ける。

「すみません。私も……あぁ!!」

手を伸ばそうとしてバランスを崩し、ベッドから落ちかかった咲夜を抱き止める。

「咲夜?咲夜には、咲夜のお仕事があるから、その時にお願いするからね?いいかい?」
「は、はい!!」
「よろしい。じゃぁ、クローバーと遊んでなさい」

頭を撫でた遼の姿に、儁乂は、感心する。
今まで幼馴染みである遼のことはある程度知っているが、結構自分を出すことなく、冷静沈着で、女性に対しても、厳しい部分がある。
実家が大病院の御曹司で、医者の資格を持つ警察庁のキャリア。
そして美形とまでは言わないが、中々そこそこの容姿を持ち、恋人も何人もいて当然なのだが、美人を見ても、こびを売る、前の義理の姉のようなタイプは大嫌いらしいが、そんなに気にもせず、付き合う前に、

「現在任務遂行中です。私事に裂く余裕はありません」

ときっぱりである。
それなのに……

「まぁ、頑張れ。ロリコンでも友人でいてやる」
「何か言ったか?」

ジロッと睨まれ、にやっと、

「ゆかりんの結婚式の後はお前の結婚だよな~!?頑張れよ」
「その前にお前が真面目に仕事しろ。嫁に日々投げ技食らっているくせに」
「儁乂さんは結婚されているんですか!?」

咲夜の目がキラキラする。

「どんなかたですか?」
「……俺よりもつえぇやつ。柔道の日本代表……」
「えっ!!もしかして、河原麗かわはらうらら選手ですか!?あの、小柄で華奢で!!」

遠藤総合病院は、日本海沿いの病院でも大きい上に、怪我の後のリハビリやトレーニング等のトレーナーも在籍する、スポーツでの怪我の治療に後遺症等の治療も兼ねている病院である。
その為、かなりの選手やトレーナーがおり、一度つまらなそうにしていた咲夜を連れていったのである。
そこで何人かのスポーツ選手に会い、握手をしてもらったり、サインも貰っている。
そして、特に仲が良くなったのは麗だったのである。

「わぁぁ!!麗選手。可愛いし、優しいし、大好きです!!リハビリに取り組んでいる姿も本当に真剣で、女性には失礼かなって思いますが、凛々しくて、格好いいです!!私もあんな素敵な人になりたいです!!」
「咲夜ちゃんにそう言って貰えると、嬉しいわ」

にこにこと姿を見せるのは麗である。

「お久しぶりです。遼さん。それに、咲夜ちゃんも可愛いし、本当に大好きよ~!!」
「私も大好きです!!お会いできて嬉しいです!!でも、ドレス姿?どこかに行かれるんですか?スッゴク素敵です!!」
「……儁乂。こういう一言を言える男になりなさいね。今度あんなことを言ったら、一本背負い10連発よ!!」
「……すまん……」
「それと、咲夜ちゃん。今日は、これからここの病院の大会議室で首相ご夫妻と、警視総監ご夫妻をお招きして、病院に入院されている患者さんに楽しんで貰えるようにと、コンサートがあるのよ。咲夜ちゃんも行くの」
「えぇぇ!?わ、私はあの……」

口ごもる咲夜に、遼は、

「今日のコンサートは、景虎と、百合ゆりちゃん。そして、咲夜がもう少しよくなったら向かう春の国の公女の琉璃りゅうり様と弦楽器の天才的な演奏者の珠樹しゅじゅさんと言う女の子に、その子のお兄さんであり、世界的なオペラ歌手の諸岡亮もろおかりょうさん、琉璃様の母上の光来瑠璃こうらいるり様だよ。この方々は、本当に有名で、チケットが取れない事で有名なんだ」
「そ、そんなに有名だったんですか!?景虎様は!!」

咲夜はビックリする。

「そうだよ。咲夜も、入ることになるね。入学許可下りているから。歌か、演奏か……どうなるかは、解らないけれどね」
「えっと……琵琶びわと横笛と、琴は習いました。篳篥ひちりきも手解き程度ですが……」
「琴?儁乂?」
「よっしゃ、持ってくる」

しばらくして持ってきた琴を、音律を調節し、ちゃんと座れないため、遼の膝に座り演奏を始める。

爪を付けてつま弾く音は、弦をしならせ、深みを与える。
左手は、響きを消すために押さえたり、又、音階を変えるために動かし、演奏を続ける。
そして、最後の音まで爪を弾いていき、音を消し、もう一度大きく弾いた。

荘厳な音楽に、遼は呆然とし、麗と儁乂が手を叩く。

「すごいわ!!こんなにすごい曲聞いたことがないわ!!」
「俺も!!」
「……ほ、本当ですか?良かった……。男として育ったのですが、父が、直江のおばあさまに習いなさいと、教わったのです……でも……」

ぐったりと遼にもたれ掛かると、囁くように、

「すみません……ちょっと疲れました……運動不足のせいです……ごめんなさい……」

と呟き、気を失う。

「咲夜!!咲夜!!おい、儁乂!!兄上を!!」
「解った!!」

儁乂は走っていったのだった。

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