運命(さだめ)の迷宮
晴景さんは周囲の忠誠心が弱まっていくことに焦っているようです。
采明を中心にして、自分達の無事を確認しあった直江家から離れた場所にて……。
「どうだったのだ!!あの屋敷に押し入り、景虎は!!殺したのか!?もしくは、神五郎の嫁か、娘かを奪ってきたのか!?」
血走った目で叫ぶ主に、返り討ちにあい、傷だらけの一団が、
「も、申し訳ございませぬ!!数人の男に軽傷は負わせましたが逆にこちらがこの有り様……そして女子供は煙に巻かれたように姿がなく……」
「言い訳は聞かぬ!!早く捕まえてこぬか!!」
「おらぁぁ!!」
入ってきたのは、重綱と父の親綱。
そして、愛用のなぎなたを手に現れたのは、伝説の剛の女性……親綱の正妻、梓である。
ぶんっとなぎなたを振るい、
「たわいもない。この主にして、この家臣とはよう言うた!!」
「母上、いくつになってもお元気だな……」
「孫がおるとはいえ、この妾が、年を取ると思うたか!!」
「いえいえいえ、それは決して。母上は昔も今も凛々しく美しいです!!」
重綱はおべんちゃらを言ったわけではなく、本気で実母は、自分や姉たちを生んだのか解らないほど、最近特に若く見える。
采明に勧められて化粧を変えた事や、『まっさーじ』というものを教わって実践しているらしい。
しかもそれは姉の橘樹や妻の茜、その上、隣家の夫人、佐々礼達や侍女達も同じで、化粧品は自然な、へちま水で肌の中に入るようにと言う感じである。
しかし、仕事をおろそかにすることもなく、昔よりも生き生きと張りのある肌と仕事を楽しんでいる。
「ならばよい!!妾は、やはり、旦那様の妻として恥ずかしくない姿でおりたいのでの」
「じゃぁ、父上にも『まっさーじ』とやらをしていただいたらどうです?父上がかなりお疲れのようで、母上が輝くばかりの美しさに比べ、老けて見えますよ」
「なんじゃと!!」
「そうよのぉ……旦那様。今宵は私と『まっさーじ』を共にしましょうぞ?駄目かの?」
元々美貌の母が、多分采明に習ったのか、首をかしげ上目遣いで夫を見上げる。
普段は凛々しいが、そう言う仕草は、とても愛らしく映る。
「妾は、今の旦那様も渋みと武将としての強さを持っていて本当に誇らしいのだが、もう少し、孫には目尻を下げて可愛がられるのに、この妾には……」
「わ、解った!!共にしよう!!わしも、そなたの傍におるのが幸せじゃ!!」
「嬉しゅうございます!!旦那様」
本当に嬉しかったらしく、梓はうっすら頬を赤らめ笑顔になる。
周囲の目を全く気にしない、夫婦である。
「な、何をしておるのだ!!」
血走った目で叫ぶ長尾家の当主に、親綱は立ったまま告げる。
「先程、どなたかの家の武装したものが屋敷を襲撃し、当主である息子の実綱の妻の采明が襲われ、大怪我を負った上に、早産し、その生まれた直江家の次の当主になるはずの赤子を連れ去りました」
「その上、中条藤資殿の嫡子、景資が同様に襲われ、かどわかしにあったとか……」
「……!!」
みるみる喜びを顔に出す単純な主に、
「こちらでは、迎え撃ち弓で射たり、切ったり応戦いたしまして、一応当方は当主の妻の大怪我、二人かどわかし……他は数名の怪我で済みましたが、襲撃側は、十数名死亡。そして、殺してもよいのですが、首謀者を探すために、跡を付けました」
親綱は嘲笑う。
「襲撃した人間の血の跡に、草履のあと……そして騒々しい上に気配を消すこともできぬ下手な逃亡に……嘲笑うしかございませなんだ」
「……っ!」
「この程度で、この直江家を潰そうとは片腹痛い!!」
親綱の声に、遠くから、
「どけ!!退かぬか!!退かねば斬る!!」
という叫び声と共に、姿を見せたのは、憎しみに燃えた藤資である。
可愛い嫡子と共に訓練をした、槍を手に駆け込み身構える。
「私の、私の子供をかどわかしたのは貴様か!!」
「何!?主にむかい、不敬なり!!」
「何が主!!そなたなど、まことの主である景虎様が成人するまでの仮の主ではないか!!」
藤資の怒号に、晴景は怒り狂う。
「何だとぉ!!貴様!!長尾の当主を侮るか!!」
「中条と直江家を侮る貴様に言われとうはない!!」
怒鳴り付ける。
「私の可愛い長子が……妻に瓜二つで、本当に真面目で素直で愛らしく……私の本当に自慢の子だったのに……」
嘆く藤資。
いつのまにか周囲には親綱と藤資が集めた家来衆もいたのだが、気がつかず、
「何が長子!!何が嫡子!!あの子供は女であった。身分の低い身を売るしかないあの卑賤の身の女に二人も娘を与えてやったんだ、それで、山にでも行けば良いものを!!あの女が!!何が佐々礼だ!!」
この場にはいない景資と佐々礼を罵る。
それを見た二人は、
「おや。藤資の嫁は私の娘ですが?知っているのですか?」
重綱が障子にふすまを次々に開け放つ。
「それに、おかしいですなぁ……?名前を知っておるのですか?しかも直江家の娘と私も妻も言っているのに、卑賤の身?その上、藤資が長子と申しただけの子供を女だと……?」
「そして、この中条の妻に対するものいい……耳が汚れるかと思いましたぞ?」
「殿!!どう言うことです!!」
廊下に庭に、集まっていた家臣達もざわめく。
「もしや、直江家のご令嬢を、もてあそび捨てたと申すのですか!?」
「いや、長女はあの、橘樹殿!では……」
「下の娘……聞いたことが……」
重綱があっさり答える。
「直江家にはまれに二つ子が生まれる。佐々礼は私の二つ子の姉になる。不吉だと周囲に反対されなくなく手離した……。二つ子など、生まれるのに……嫌な風習だな」
吐き捨てると、
「で?殿でしたか?私の姉を散々苦しめ、捨てておいて、ようやく両親が引き取り、嫁にだし幸せになった姉をひがんだのでしょうかね?妬んだ?自分は子供がおらず寂しい?そして、我が兄が……直江家が、景虎さまの命により始めたことが、恐怖となったのですか?」
一歩前に出る。
「その為に、妊婦の姉を襲い、姉は大怪我の上早産!!子供は連れ去られた!!そして、藤資叔父の長子の景資が、再び殺されそうになった姉をかばい、そのまま連れ去られた!!まだ13の子供と、生まれたばかりの赤ん坊をどういう目に会わせたのでしょうね!!お伺いできませんか?」
「直江家の当主に追求すればいいものを!!」
「そ、そんなまだ13の成人して間もない、まだ若く幼い子を!!」
「その上、直江家の奥方を殺そうとして……!?妊婦だぞ!?しかも早産したとは言え生きている赤ん坊まで!!」
周囲は嫌悪感に包まれる。
「我は知らん!!知らぬのだ!!」
「知らないと言うだけで許されますかな?」
親綱は、傷だらけの晴景の手の者を示す。
「この者達が直江の屋敷を襲ったのは事実であり、我が息子の跡取りを失ったこと、中条の跡取りも同様……どう責任をとられる気だ!?」
「それに、直江家の跡取り、中条の跡取りに妬んだか!?自分には跡取りの子供どころか、嫁に出す娘一人もおらぬ!!」
「そんなに、妬みたいなら、直接兄貴に言えよ。それと、てめぇよりも頭のいい景虎さまにな!!」
重綱は、ゲラゲラ嘲笑う。
「か、景虎はおらぬと実綱が申しておったではないか!!」
「はっ!信用できん人間に、兄貴は本当の事など言うかよ!!一番安全な場所で学問に、琴棋書画と当主としての心得を学んでいるさ!!あんたとは違い、景虎さまは賢く、そしてこの国を心底憂えていたぜ!!」
「なっ!」
「あんたの事が大好きだが、それでも、今の状況の悲惨さ……乱れた国内に佞臣の意見のみを聞き、心底国を思う忠臣を遠ざける……何をしているのだと嘆いていたそうだぜ。まだ10の弟にまでそう思われるとは世も果てだな」
嫌悪感を露にした一言に、周囲は、晴景とその下のものを捕らえ、監禁することとなったのだった。
「どうだったのだ!!あの屋敷に押し入り、景虎は!!殺したのか!?もしくは、神五郎の嫁か、娘かを奪ってきたのか!?」
血走った目で叫ぶ主に、返り討ちにあい、傷だらけの一団が、
「も、申し訳ございませぬ!!数人の男に軽傷は負わせましたが逆にこちらがこの有り様……そして女子供は煙に巻かれたように姿がなく……」
「言い訳は聞かぬ!!早く捕まえてこぬか!!」
「おらぁぁ!!」
入ってきたのは、重綱と父の親綱。
そして、愛用のなぎなたを手に現れたのは、伝説の剛の女性……親綱の正妻、梓である。
ぶんっとなぎなたを振るい、
「たわいもない。この主にして、この家臣とはよう言うた!!」
「母上、いくつになってもお元気だな……」
「孫がおるとはいえ、この妾が、年を取ると思うたか!!」
「いえいえいえ、それは決して。母上は昔も今も凛々しく美しいです!!」
重綱はおべんちゃらを言ったわけではなく、本気で実母は、自分や姉たちを生んだのか解らないほど、最近特に若く見える。
采明に勧められて化粧を変えた事や、『まっさーじ』というものを教わって実践しているらしい。
しかもそれは姉の橘樹や妻の茜、その上、隣家の夫人、佐々礼達や侍女達も同じで、化粧品は自然な、へちま水で肌の中に入るようにと言う感じである。
しかし、仕事をおろそかにすることもなく、昔よりも生き生きと張りのある肌と仕事を楽しんでいる。
「ならばよい!!妾は、やはり、旦那様の妻として恥ずかしくない姿でおりたいのでの」
「じゃぁ、父上にも『まっさーじ』とやらをしていただいたらどうです?父上がかなりお疲れのようで、母上が輝くばかりの美しさに比べ、老けて見えますよ」
「なんじゃと!!」
「そうよのぉ……旦那様。今宵は私と『まっさーじ』を共にしましょうぞ?駄目かの?」
元々美貌の母が、多分采明に習ったのか、首をかしげ上目遣いで夫を見上げる。
普段は凛々しいが、そう言う仕草は、とても愛らしく映る。
「妾は、今の旦那様も渋みと武将としての強さを持っていて本当に誇らしいのだが、もう少し、孫には目尻を下げて可愛がられるのに、この妾には……」
「わ、解った!!共にしよう!!わしも、そなたの傍におるのが幸せじゃ!!」
「嬉しゅうございます!!旦那様」
本当に嬉しかったらしく、梓はうっすら頬を赤らめ笑顔になる。
周囲の目を全く気にしない、夫婦である。
「な、何をしておるのだ!!」
血走った目で叫ぶ長尾家の当主に、親綱は立ったまま告げる。
「先程、どなたかの家の武装したものが屋敷を襲撃し、当主である息子の実綱の妻の采明が襲われ、大怪我を負った上に、早産し、その生まれた直江家の次の当主になるはずの赤子を連れ去りました」
「その上、中条藤資殿の嫡子、景資が同様に襲われ、かどわかしにあったとか……」
「……!!」
みるみる喜びを顔に出す単純な主に、
「こちらでは、迎え撃ち弓で射たり、切ったり応戦いたしまして、一応当方は当主の妻の大怪我、二人かどわかし……他は数名の怪我で済みましたが、襲撃側は、十数名死亡。そして、殺してもよいのですが、首謀者を探すために、跡を付けました」
親綱は嘲笑う。
「襲撃した人間の血の跡に、草履のあと……そして騒々しい上に気配を消すこともできぬ下手な逃亡に……嘲笑うしかございませなんだ」
「……っ!」
「この程度で、この直江家を潰そうとは片腹痛い!!」
親綱の声に、遠くから、
「どけ!!退かぬか!!退かねば斬る!!」
という叫び声と共に、姿を見せたのは、憎しみに燃えた藤資である。
可愛い嫡子と共に訓練をした、槍を手に駆け込み身構える。
「私の、私の子供をかどわかしたのは貴様か!!」
「何!?主にむかい、不敬なり!!」
「何が主!!そなたなど、まことの主である景虎様が成人するまでの仮の主ではないか!!」
藤資の怒号に、晴景は怒り狂う。
「何だとぉ!!貴様!!長尾の当主を侮るか!!」
「中条と直江家を侮る貴様に言われとうはない!!」
怒鳴り付ける。
「私の可愛い長子が……妻に瓜二つで、本当に真面目で素直で愛らしく……私の本当に自慢の子だったのに……」
嘆く藤資。
いつのまにか周囲には親綱と藤資が集めた家来衆もいたのだが、気がつかず、
「何が長子!!何が嫡子!!あの子供は女であった。身分の低い身を売るしかないあの卑賤の身の女に二人も娘を与えてやったんだ、それで、山にでも行けば良いものを!!あの女が!!何が佐々礼だ!!」
この場にはいない景資と佐々礼を罵る。
それを見た二人は、
「おや。藤資の嫁は私の娘ですが?知っているのですか?」
重綱が障子にふすまを次々に開け放つ。
「それに、おかしいですなぁ……?名前を知っておるのですか?しかも直江家の娘と私も妻も言っているのに、卑賤の身?その上、藤資が長子と申しただけの子供を女だと……?」
「そして、この中条の妻に対するものいい……耳が汚れるかと思いましたぞ?」
「殿!!どう言うことです!!」
廊下に庭に、集まっていた家臣達もざわめく。
「もしや、直江家のご令嬢を、もてあそび捨てたと申すのですか!?」
「いや、長女はあの、橘樹殿!では……」
「下の娘……聞いたことが……」
重綱があっさり答える。
「直江家にはまれに二つ子が生まれる。佐々礼は私の二つ子の姉になる。不吉だと周囲に反対されなくなく手離した……。二つ子など、生まれるのに……嫌な風習だな」
吐き捨てると、
「で?殿でしたか?私の姉を散々苦しめ、捨てておいて、ようやく両親が引き取り、嫁にだし幸せになった姉をひがんだのでしょうかね?妬んだ?自分は子供がおらず寂しい?そして、我が兄が……直江家が、景虎さまの命により始めたことが、恐怖となったのですか?」
一歩前に出る。
「その為に、妊婦の姉を襲い、姉は大怪我の上早産!!子供は連れ去られた!!そして、藤資叔父の長子の景資が、再び殺されそうになった姉をかばい、そのまま連れ去られた!!まだ13の子供と、生まれたばかりの赤ん坊をどういう目に会わせたのでしょうね!!お伺いできませんか?」
「直江家の当主に追求すればいいものを!!」
「そ、そんなまだ13の成人して間もない、まだ若く幼い子を!!」
「その上、直江家の奥方を殺そうとして……!?妊婦だぞ!?しかも早産したとは言え生きている赤ん坊まで!!」
周囲は嫌悪感に包まれる。
「我は知らん!!知らぬのだ!!」
「知らないと言うだけで許されますかな?」
親綱は、傷だらけの晴景の手の者を示す。
「この者達が直江の屋敷を襲ったのは事実であり、我が息子の跡取りを失ったこと、中条の跡取りも同様……どう責任をとられる気だ!?」
「それに、直江家の跡取り、中条の跡取りに妬んだか!?自分には跡取りの子供どころか、嫁に出す娘一人もおらぬ!!」
「そんなに、妬みたいなら、直接兄貴に言えよ。それと、てめぇよりも頭のいい景虎さまにな!!」
重綱は、ゲラゲラ嘲笑う。
「か、景虎はおらぬと実綱が申しておったではないか!!」
「はっ!信用できん人間に、兄貴は本当の事など言うかよ!!一番安全な場所で学問に、琴棋書画と当主としての心得を学んでいるさ!!あんたとは違い、景虎さまは賢く、そしてこの国を心底憂えていたぜ!!」
「なっ!」
「あんたの事が大好きだが、それでも、今の状況の悲惨さ……乱れた国内に佞臣の意見のみを聞き、心底国を思う忠臣を遠ざける……何をしているのだと嘆いていたそうだぜ。まだ10の弟にまでそう思われるとは世も果てだな」
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