異世界リベンジャー

チョーカー

無人の戦場に1人

 人の気配が消えていく。 
 大将2人が打ち取られて、残された兵は撤退を始めたのだろう。
 戦場は無人へ変わる。結局、俺は生き残ったみたいだ。
 辺りは死屍累々。真っ赤な大地。血と死体で埋まっている。
 そこは地獄絵図。自分が人間なのか、魔人なのか、それとも地獄の鬼にでも生まれ変わったのか?
 もう、自分の存在が何か、分からない。
 そんな場所で俺は寝転がり、空を見上げている。
 これから先の事を考えていた――――否。考え始めていた。
 戦う前はいろいろな可能性を信じていたけど……けれでも……
 俺は、どんな存在なのだろう?
 個人が持つには強すぎる力。それを保持しながら生きていいのだろうか?
 日常に帰るには、その力を――――
 いや、思わず笑ってしまう。
 俺は、今だに日常へ、平穏へ、帰るつもりなのだ。
 ここまでしておいて? それが許されると?
 正気か?自分で自分を罵倒したくなるほど……俺は壊れている。
 そうだ。きっと俺は壊れているのだろう。
 正気ならば、もしも正気を残していると言うのならば……命を絶つべきだ。
 今ここで、死へと逃げるべきだ。自分が仕出かした事に畏れて、耐えれなくて……
 それが、もっとも正しいはずなのに、俺はのんびりと空を見上げている。たぶん、壊れているからだ。

 さて……
 俺は体を起こして立ち上がった。
 いつまでも寝転がっている場合じゃない。
 ここから先は、何が起きるかわからない。どうなるか、わからない。
 どうするにしても、何をするにしても、まずは……

 「もう帰るのか?ユズル?」

 突然、かけられた声。驚き同時に声の主の方向へ眼を向ける。
 一体、いつから?いつから、ソイツはソコにいたのか?
 人の気配が消えた?無人の戦場? 馬鹿か?俺は?
 その人物の存在に気づくと、もう無視はできない。
 それほどの魔力を内包している人物。
 なぜ?なぜ俺は、そんな人物の存在を認識できなかったのか?
 その人物は『魔王』だった。

 その人物を見たのは……そう映像だった。
 ナシオンへの宣戦布告。
 あの時と同じ服装。黒いフード付きのマントで顔を隠している。
 手には剣。その剣は、『魔王』の魔力とは、別の魔力が内側から溢れていて――――
 きっと『魔剣』と言われる武器なのだろ。
 あの時……映像で姿を見た時とは違う。
 ……何が違うのか?うまく説明できないが……強いて言うならば……雰囲気か?   
 どこか、不真面目で、馬鹿馬鹿しくて、おちゃらけていて……
 そんな『魔王』のイメージは感じられない。
 ……そうか。
 俺は一人で納得した。
 今の彼は、まるで空気のようにいて当然な存在になっている。
 血にまみれ、鮮血で赤く染め抜かれた大地。
 四肢がねじ曲がった奇妙な死体の山々。
 それこそが自分の居場所だと、まるで主張しているかのように、彼は存在していた。
 剣を肩に担ぎ、最初の一言以外は言葉を発せない。
 きっと、俺に投げかけた言葉の返答を待っているのだろう。

 『もう帰るのか?ユズル?』

 その言葉は、まるで家に遊びに来た友達に投げかけるのような温かさと寂しさとちょっぴりの意外性が込められており、返答に困る。
 無言を貫く俺に対して、『魔王』は……
 普通に歩いてきた。ゆっくりと、まるで散歩中のマダムのように、気品さと優雅さを兼ね揃えている事をワザとアピールしているように……
  

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