異世界リベンジャー
終結の前
ノックの音が響く。
「僕です。アセシです」
「おう」
大量の荷物を抱えたアセシが入ってきた。
「すまないな。頼んでいた物はそこに置いといてくれ」
「はい……また料理ですか?」
俺は苦笑で答える。
ナシオンを追われた俺は、アセシの隠れ家に身を隠している。
モナルは……まだ、目を覚まさない。
今も寝室で眠りについている。
「まだ卵と油は十分にストックはあるな。アセシ、サラダの準備をしてくれよ。今日は珍しいドレッシングを試すぞ」
「……はぁ」とアセシはあきれ顔だった。
あの後、ナシオンを裏切って『魔王』軍に参加するべきだと主張するアセシを止めて、こうして身を隠している。
アセシからは「僕はユズルさんが、考えている事がわかりません」と言われた。
そりゃ、そうだろ。
今の俺の立場は、クルスと王女を殺した指名手配犯として国中が血眼になって探している極悪人扱いだ。
それはさておき、食事だ。メインはアセシが持ってきた鳥料理だが、今日は趣向を加えたサラダも用意している。新しく作ったドレッシングをアセシに振る舞うのだ。
白い半固体状のドレッシング。つまりはマヨネーズだ。
これがマヨネーズだと説明すると、さっきまで不満顔だったアセシは興味津々と言った風に変化した。
「甘味?……少し濃い味ですが、あっさりとした野菜には……うん、噂通りですね」
すっかり、ご満悦という感じだ。
あっという間にサラダを完食していく。
「オイオイ、メインも食えよ。肉だぞ肉」
「はいはい、分かりましたよ」
食事を終える。
食器のかたずけを終えるとアセシの雰囲気が一変した。
「ついに決まったそうですよ」
「……ついに、決まったのか」
何を?とは聞かない。
ナシオンによる『魔王』軍殲滅作戦。
主力を失い、敗戦と撤退を繰り返す『魔王』軍に対して、殲滅を行う。
予想はしてたが、少し早い。 俺とモナルの存在に焦っているのか?
逆に言えば、俺とモナルが『魔王』軍に合流してると考えているという事だが……
「さて……そうと決まれば、準備だな」
「……ユズルさんは、どうするんですか?」
俺は「今更、どうと聞かれてもなぁ」と笑って誤魔化す。
そもそも……
「そもそも、死に場所を探しているんじゃないか?そう聞いたのお前だぜ?」
「確かに、確かにそうですが……」
きっと、アセシは俺を『魔王』軍に入れるつもりだったんだろう。
しかし、俺は『魔王』軍に行かず、身を隠しているだけ……となるだ。
となると、アセシは、こう考えたに違いない。
「1人で挑むつもりなのか」……と。
そして、それは正しい。
俺は戦う。
たった1人でナシオン軍に挑むつもりだ。
単騎駆けは戦場の花
そうは言っても、単騎で国の軍隊を相手にするには、無謀が過ぎる。
死に場所としては確実なほどに―――――
元の世界に戻るという選択肢もあった。
目を覚ましたモナルと身を隠して生き続けるという選択肢もあった。
けど――――
それは何か違う気がしている。うまく、言葉にはできないけれども……
もしも――――この死に場所で死ねなかったら、考えよう。
元の世界に戻る方法を
モナルと幸せに暮らす方法を
それを希望と言うには、いささか無理もあるけれども――――
案外、ナシオン軍を打ち破り、『魔王』軍と戦い。
『魔王』が持つ、パラレルワールドに飛ぶ魔法を身につけ、全てをやり直すなんてハッピーエンドも用意されているかもしてない。
それも、面白い。
面白いジョークだ。
さて、それでは――――
終わらせよう。
俺の死を持って、この物語を終わらせようじゃないか。
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