異世界リベンジャー

チョーカー

火野烈弥の死

 平行世界を移動する魔法。
 おそらく、俺には使えない種類の魔法だと思う。
 言葉にしてみても漠然とした効果。あまりにも抽象的。
 論理は組み立てられても、その効果を発動するイメージがつかめない。
 一体、何を経験すれば、ソレを実行しようと考えに至るのか?
 ゲームで言えばセーブ&ロードなのかもしれないが……
 あまりにも、表現として簡単すぎる。それは、その魔法は世界に影響を与える魔法なのだから。

 「お前、勝てないと思っただろ?」と火野烈弥。
 俺には否定する言葉が思いつかなかった。
 『どうやったら勝てるのか?』より『どんな戦いになるのか?』
 ……そんな事を考えてしまう。戦うにしても想定外過ぎる魔法だ。
 さらに続く火野烈弥の言葉は予想外のものだった。

 「だったら、戦わなければいいんだよ」
 「え?戦わなければいい?」 
 「伊藤禅、俺たちの仲間になれよ」
 「……」

 裏切り勧告だった。

 「……それは無理だ」
 「そいつは何故だ?」
 「何故って言われても……」

 言葉が続かない。
 俺が、この国の人間側に立つ意味。
 それは何か?どこにあるのか?
 正義も、義理も、愛も……幻だった可能性を叩き付けられ、何を信じればいいのか? 

 だが、しかし―――  それでも―――

 脳裏に浮かんだのはのクルスとモナルの2人。

 「それでも俺は信じたい。……人間を」

 彼女達との出来事は、決して幻ではなかった。俺はそう信じる。
 そう信じて言葉を出した。

 火野烈弥は目を見開いて、驚きの表情を見せた。
 驚きの表情は一瞬で終わり、その目には爛々とした輝きが燈る。
 火野烈弥から垣間見える狂信。死を超越した存在に成り替わった者だけが許されるソレ。
 きっと、彼らはこう考えているのだろう。
 自分が死んでも、他の世界では生きている自分がいる。
 存在は終わらない。
 ……きっと彼らは、そう考えている。
 『魔王』の魔法によって、『魔王』を世界の起点になっている。
 『魔人』達が世界を征したという事実が重要なのだ。
 その事実は収縮する。
 自分たちが生きて、世界を征服する世界を存在させる。
 そのために彼らは、自分の命すら散らす。
 けれども、それは―――――

  それは、本当に自分なのか?


 「馬鹿だぜ?あんた」

 火野烈弥は語る。

 「正義ってのは共同体の幸福に向けた行動って定義するならば……正義は我にありってやつだ。俺たちは、このクソッタレな世界に変革を起こす。この世界の人間に、てめぇらは腐った悪だと教えてやる。どうして、それがわからない?協力しない?」
 「この世界の人間だって理解者はいる。過ちを正そうとしてる人間たちもいるんだ。だから、俺は――――」
 「じゃ、アンタは何をやる?『魔人』を殺すためだけの存在として召喚されたんだろ?」

 その言葉に衝撃を受ける。確かに俺は殺した。荻原みどりを殺したのだ。しかし―――

 「俺は……もう殺さない。戦わない方法を考えて、実行する」
 「和平の道か?無駄だ。人間ってのは、図に乗っちまう生物だ。だから力を見せねぇと、恐怖を刻まねぇと、あいつらは俺たちを認めない。決して同じ人間として見ない」
 「そんな事はない!俺と向き合ってくれた人がいた。分かってくれる人がいた。人は人と分かり合える!」
 「それで済むなら戦争にはならなかった。あいつ等がわかり合おうとするのは、お前が連中に取って、都合のいい人間だからだ」
 「そんな事は――――」
 「次はお前の番だぜ?」

 火野烈弥の口調が変わった。
 いや、変わったのは口調だけではない。

 「これは……魔力が乱れている?」

 火野烈弥の体内で作られている魔力。その生産量が激減している。
 思わぬ変化に動揺する俺に対して、本人は

 「ちぇ、もう時間切れか」

 まるで悪戯が見つかった子供のような呟きだった。

 「時間切れ?お前の体に何が起こっている?」
 「俺の魔力を探ってみろよ。俺の体の真ん中にガラス玉をイメージしてみろ?」
 「?」

 言われた通りにイメージする。浮かび上がったビジョンは……

 「ひび割れている!?」

 球体のガラス玉。複数の亀裂が走り、中から液体のようなものが漏れ落ちている。
 その液体は魔力。
 破壊されている?それは魔力の源か?

 「例の機械だ。無理矢理、魔力を吸いだされて、もう維持できなくなってる」
 「そんな……馬鹿な…」
 「いいや、これが現実だ。俺がいなければ、お前が使われてた予定だったんだろ?」
 「―――ッ!?」
 「それでも、お前は人間を信じるのか?」
 「それでも……それでも、俺は……」
 「やっぱり、馬鹿だぜ……アンタ。でも、アンタだから俺たちは……」

 それっきり、火野烈弥は動く事がなかった。

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