異世界リベンジャー

チョーカー

荻原みどりは、なぜ死んだのか?

 そこは地下。
 俺が部屋として使っている地下牢から、さらに下へ。いくつもの階段を下りていく。
 増築に増築を繰り返して作られた地下牢。
 俺のときとは明らかに扱いが違う。
 悪臭が漂い。石壁から冷気が漂っている。
 その牢に彼はいた。 火野烈弥だ。
 いや……火野烈弥だった物体だ。 それに人間としての尊厳は許されない。
 もはや人の形を留めているのが不思議でならない。
 明らかな拷問のあと。痛みに痛みを加えられた肉体に肌の色を探すのが難しい。黒と赤の二色しかない。
 いや、僅かに白く変色した髪が残っているか。
 要するに無茶苦茶にやられている。 
 だから、彼から声をかけられて驚いた。声を出す機能が残っているとは思ってもいなかった。

 「よう……あーアンタ。名前ってなんだったけ?」
 「……伊藤禅だ」と俺は、ぶっきらぼうに返した。内心の動揺を隠したかったのかもしれない。
 「いとうゆずる……今度は忘れねぇよ。で?」
 「で?」
 そんな俺の様子が面白かったのか火野烈弥は笑った。ひどく痛々しい笑いだった。
 「俺に聞きたい事があるから着たんじゃねぇのかい?」
 「そうだな。だが、忘れてた。今のあんたとは意思の疎通が難しそうだだったから、ついね」
 「あーアンタ、面白いね。万全の俺なら大爆笑できたのにな。残念だ」
 「でも、今でも意思の疎通は可能なんだろ?」
 「あぁ、意外とタフでな。自分でも驚いてる」
 きっと冗談なのだろう。彼は口の両端を上に上げた。俺にはそれが笑顔だと理解するのに暫く時間が必要だった。
 そして、本題を口にした。

 「荻原みどりはなぜ死んだ?」


 互いに暫し沈黙。やがて――――

 「そうか、彼女は逝ったか」
 「あぁ、逝ったよ」
 「幸せそうだった。そうだろ?」
 「あぁ、幸せそうだった」
 「……」

 再び沈黙。今度の沈黙は長い。
 彼は何か考えているようにも見える。 もっとも、彼の顔は正常ではなくなっていたから、俺の主観……というよりも雰囲気でも判断だ。
 やがて沈黙を破った火野烈弥から、次の言葉が発せられた。

 「アンタは、この世界モンドが、このナシオンが正常だと思うかい?」
 「いいや。正常をは思わない。今の貴方の姿を見る限りね」
 「一々面白い奴だ。思わず惚れちまうぜ」

 俺たちは冗談を交わした。
 でも、それだけで通じた。
 この異世界は正常ではない。
 そして、それが荻原みどりの自死と繋がりがるという事なのだ……と。 

  

 

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