異世界リベンジャー
『魔人』捕獲計画
「暑い……」
襲い掛かってくるのは高圧力の熱風。
額から途切れることなく、流れ出る汗を拭おうと腕をあげるが、寸前のところで思いとどまる。
体を覆うマントは、考えられる限りの対炎の恩恵を授かっているそうだ。
もしも、万が一、顔を保護する箇所が汗を拭う動作でマントの位置がずれてしまったらどうなるだろうか?
たぶん、目、鼻、口といった体の粘膜部分が持たない。
水分が失われ、のたうちまわる結果になるだろう……。
地面を見せれば、轟々と炎が天空に向かって伸びている。
足元に絡み付いてくる液体は溶岩だ。液体と言うよりも重さを含んだ泥に近い。
一歩踏み出すだけで疲労度は大きく溜まっていく。
見回す限り、風景は赤く染まっている。
その光景は、母なる地球が生み出す自然現象を遥かに凌駕している。
ここは『魔人』の1人が領土として支配する地域。
土地の名前は『コワン』
ナシオンから見える火柱。あの中に存在している領土だ。
なぜ、俺―――伊藤譲は、こんな火だるまみたいな状態で強行軍をしているのか?
説明するならば、『魔王』の投降勧告の映像を見た直後まで時間を巻き戻さなければならない……
『魔王』は大魔導士ダージュと人間離れした戦いを繰り広げ、探究者シェルの武器によって、吹き飛ばされたところ。
重い沈黙が支配する中、探究者シェルが説明をはじめた。
「さて、皆さまがごらんの通り、『魔王』を退けることはできました。
しかし、『魔王』はおそらく無傷です。私が『魔王』相手に使用した武器には殺傷能力はありません」
「殺傷能力がない?」と俺は思わず呟いた。
軍隊が使用するような兵器の使用、それでこそ本物のバズーカを使えば、倒せないまでも大きなダメージを与えれたのではないか?
そんな俺の疑問を察したのかシェルは嬉しそうな笑みを浮かべ話を続ける。
「『魔王』。彼自身の魔力の特徴として、他者の感情。感情の流れというものが感知できると言われています。それによって、1対1の白兵戦では無類の強さを発揮します。
つまり、威力の高い武器を使用すれば、『殺意』といった感情は感知され一撃を与えることは不可能でしょう。それに使用した武器には魔力は未使用です。単純な空気の圧縮を発射するだけの武器で、彼の魔力感知を避けました」
周囲からは「なるほど」と感心するような声が上がる。
「さて――――ここからが本題でありますが、この『実証実験』からお分かりいただいたと思いますが、『魔王』を簡単に倒す条件は―――
魔法を使用せず、殺意と言った感情を悟られず、『魔王』の隙をつく……ですかね」
「待ってください探究者シェル」
クルスが律儀に手を上げてから発言をする。
「はい、クルスさん。なんでしょうか?」
「それはつまり、貴方が以前から推奨している『魔人』を利用した兵器を実用したいという話なのではないですか?」
「その通りです」
探究者シェルはあっさりと肯定する。
魔人を利用した兵器……
確かに疑問はあった。俺は『魔人』として召喚され、この世界の人間ではありえないほどの魔力を所持している。しかし、敵もまた『魔人』であり、1人2人ではない。
俺、1人が戦っても、複数人の『魔人』が相手なら勝てる道理もない。
だから、引っかかっていた。兵器目的という言葉に……
「……お待ちなさい」
その声はモナルのものだ。
「『魔人』と言っても彼は、我々と同じ人間です。彼の意思を無視する事は許されません。
そして、その兵器が非人道的な負担を彼にかけるのであれば、とても容認などできません」
反論は許さないと、普段の彼女からは想像もできない強い意志を感じる。
しかし―――
「いえいえ、このシステムの完成度は3割程度です。まだ運用には時間が必要なので……代案があります。『魔人』と言っても、『魔人』は、そこにいるユズルさんだけではないでしょ?」
おそらく、場にいる全員が探究者シェルの言葉に疑問を浮かべていた。
誰も、ユズル以外の『魔人』に心当たりがなかったのだろう。
「みなさん、お忘れですか?我々は何者と戦っているのか?
……そう『魔人』じゃないですか」
探究者シェルの提案は、『魔王』等の軍勢と直接戦闘になる前、敵の戦力である『魔人』を打ち破り、捕虜とすること。それを俺の代わりに兵器利用を行うといったものだった。
「われ等に反旗を翻した者へのペナルティだと考えればいいのです。殺すよりは良心的じゃありませんか?」
その言葉に薄ら寒さを感じながらも、誰も反対の声を出せなかったようだ。
この時、俺はなにを感じていたのだろうか? 後から思い出しても、自分の言動に疑問が付きまとってくる。しかし―――
「はい、ユズルさん」と探究者シェルは、手を上げた俺の名前を呼ぶ。
「つまり俺は兵器としてお役免除ということだろうか?」
「まぁ、敵の『魔人』が捕獲できればですが……」
「だったら、その『魔人』を生け捕る計画。俺も加わりたい」
「あ~ 暑い。なんで、あんな事を言ったんだろう」
「……貴方が自分で立候補したのでは?」
クルスの冷静な突っ込みが入った。突っ込みの声に怒気が混じっている気がする。
彼女も、この暑さでイラついているのかもしれない。
敵領土への強行軍。当然だが、メンバーは俺1人ではない。
近々行われるであろう『魔王』軍との戦争を前に、敵戦力を削ぐための隠密行動。
『魔人』捕獲計画
おそらく歴史にない無謀な作戦であり、少数精鋭で行われている。
実行犯は10人。バックアップの支援が10人。
行く手を塞いでいるのは、領土全体を包むと言われている炎の防護壁。
どういう原理なのだろうか?いくら魔力に突出した『魔人』であれ、1人だけで巨大な炎の練成を行っているわけではあるまい。というより、そう信じたい。
「静かに、そろそろ防御壁を抜けます」
ナビゲーションを行っていた支援係の女性は言う。
嗚呼、この暑さから開放されるならありがたい。
そう思いながら歩を進めていくと……
真っ赤に染まりきっていた視界が色を取り戻す。それと同時に熱が消え去る。
目の前に広がる風景。それは平凡であった。
炎のカーテンを超えた先には、ごくごく平凡な村々が存在していた。
襲い掛かってくるのは高圧力の熱風。
額から途切れることなく、流れ出る汗を拭おうと腕をあげるが、寸前のところで思いとどまる。
体を覆うマントは、考えられる限りの対炎の恩恵を授かっているそうだ。
もしも、万が一、顔を保護する箇所が汗を拭う動作でマントの位置がずれてしまったらどうなるだろうか?
たぶん、目、鼻、口といった体の粘膜部分が持たない。
水分が失われ、のたうちまわる結果になるだろう……。
地面を見せれば、轟々と炎が天空に向かって伸びている。
足元に絡み付いてくる液体は溶岩だ。液体と言うよりも重さを含んだ泥に近い。
一歩踏み出すだけで疲労度は大きく溜まっていく。
見回す限り、風景は赤く染まっている。
その光景は、母なる地球が生み出す自然現象を遥かに凌駕している。
ここは『魔人』の1人が領土として支配する地域。
土地の名前は『コワン』
ナシオンから見える火柱。あの中に存在している領土だ。
なぜ、俺―――伊藤譲は、こんな火だるまみたいな状態で強行軍をしているのか?
説明するならば、『魔王』の投降勧告の映像を見た直後まで時間を巻き戻さなければならない……
『魔王』は大魔導士ダージュと人間離れした戦いを繰り広げ、探究者シェルの武器によって、吹き飛ばされたところ。
重い沈黙が支配する中、探究者シェルが説明をはじめた。
「さて、皆さまがごらんの通り、『魔王』を退けることはできました。
しかし、『魔王』はおそらく無傷です。私が『魔王』相手に使用した武器には殺傷能力はありません」
「殺傷能力がない?」と俺は思わず呟いた。
軍隊が使用するような兵器の使用、それでこそ本物のバズーカを使えば、倒せないまでも大きなダメージを与えれたのではないか?
そんな俺の疑問を察したのかシェルは嬉しそうな笑みを浮かべ話を続ける。
「『魔王』。彼自身の魔力の特徴として、他者の感情。感情の流れというものが感知できると言われています。それによって、1対1の白兵戦では無類の強さを発揮します。
つまり、威力の高い武器を使用すれば、『殺意』といった感情は感知され一撃を与えることは不可能でしょう。それに使用した武器には魔力は未使用です。単純な空気の圧縮を発射するだけの武器で、彼の魔力感知を避けました」
周囲からは「なるほど」と感心するような声が上がる。
「さて――――ここからが本題でありますが、この『実証実験』からお分かりいただいたと思いますが、『魔王』を簡単に倒す条件は―――
魔法を使用せず、殺意と言った感情を悟られず、『魔王』の隙をつく……ですかね」
「待ってください探究者シェル」
クルスが律儀に手を上げてから発言をする。
「はい、クルスさん。なんでしょうか?」
「それはつまり、貴方が以前から推奨している『魔人』を利用した兵器を実用したいという話なのではないですか?」
「その通りです」
探究者シェルはあっさりと肯定する。
魔人を利用した兵器……
確かに疑問はあった。俺は『魔人』として召喚され、この世界の人間ではありえないほどの魔力を所持している。しかし、敵もまた『魔人』であり、1人2人ではない。
俺、1人が戦っても、複数人の『魔人』が相手なら勝てる道理もない。
だから、引っかかっていた。兵器目的という言葉に……
「……お待ちなさい」
その声はモナルのものだ。
「『魔人』と言っても彼は、我々と同じ人間です。彼の意思を無視する事は許されません。
そして、その兵器が非人道的な負担を彼にかけるのであれば、とても容認などできません」
反論は許さないと、普段の彼女からは想像もできない強い意志を感じる。
しかし―――
「いえいえ、このシステムの完成度は3割程度です。まだ運用には時間が必要なので……代案があります。『魔人』と言っても、『魔人』は、そこにいるユズルさんだけではないでしょ?」
おそらく、場にいる全員が探究者シェルの言葉に疑問を浮かべていた。
誰も、ユズル以外の『魔人』に心当たりがなかったのだろう。
「みなさん、お忘れですか?我々は何者と戦っているのか?
……そう『魔人』じゃないですか」
探究者シェルの提案は、『魔王』等の軍勢と直接戦闘になる前、敵の戦力である『魔人』を打ち破り、捕虜とすること。それを俺の代わりに兵器利用を行うといったものだった。
「われ等に反旗を翻した者へのペナルティだと考えればいいのです。殺すよりは良心的じゃありませんか?」
その言葉に薄ら寒さを感じながらも、誰も反対の声を出せなかったようだ。
この時、俺はなにを感じていたのだろうか? 後から思い出しても、自分の言動に疑問が付きまとってくる。しかし―――
「はい、ユズルさん」と探究者シェルは、手を上げた俺の名前を呼ぶ。
「つまり俺は兵器としてお役免除ということだろうか?」
「まぁ、敵の『魔人』が捕獲できればですが……」
「だったら、その『魔人』を生け捕る計画。俺も加わりたい」
「あ~ 暑い。なんで、あんな事を言ったんだろう」
「……貴方が自分で立候補したのでは?」
クルスの冷静な突っ込みが入った。突っ込みの声に怒気が混じっている気がする。
彼女も、この暑さでイラついているのかもしれない。
敵領土への強行軍。当然だが、メンバーは俺1人ではない。
近々行われるであろう『魔王』軍との戦争を前に、敵戦力を削ぐための隠密行動。
『魔人』捕獲計画
おそらく歴史にない無謀な作戦であり、少数精鋭で行われている。
実行犯は10人。バックアップの支援が10人。
行く手を塞いでいるのは、領土全体を包むと言われている炎の防護壁。
どういう原理なのだろうか?いくら魔力に突出した『魔人』であれ、1人だけで巨大な炎の練成を行っているわけではあるまい。というより、そう信じたい。
「静かに、そろそろ防御壁を抜けます」
ナビゲーションを行っていた支援係の女性は言う。
嗚呼、この暑さから開放されるならありがたい。
そう思いながら歩を進めていくと……
真っ赤に染まりきっていた視界が色を取り戻す。それと同時に熱が消え去る。
目の前に広がる風景。それは平凡であった。
炎のカーテンを超えた先には、ごくごく平凡な村々が存在していた。
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