異世界リベンジャー

チョーカー

『比類なき神々しい瞬間』の訪れ

 終わらない。  終わらない。  終わらない。 終わらない。
 終わらない。  終わらない。  終わらない。 終わらない。
 終わらない。  終わらない。  わらない。 わらない。
 ……ない。

 俺は叩き付けるように剣を振るう。何度も、何度も、繰り返し、攻撃の手を緩めない。
 それを烈弥は俺の攻撃を余裕綽々で受け続ける。
 まるで……こちらを指導してくるように……
 まるで……こちらを成長をさせようとするように……
 ついに俺の剣が耐えきれず折れ砕けた。それでも、折れた剣を折れたまま振るい続ける。
 通じない。何をやっても攻撃が通らない。


 烈弥の打撃が俺の体を痛みつける。


 戦略も、戦術も、戦法も、王道も、外道も、奇策も、凡策も……
 ……通じない。


 烈弥の魔法が俺の体を焼き払う。


 何かないか?この実力差を度外視できる方法は?
 魔法の得意、不得意。魔法に影響を与える俺の個性オリジナルとは?
 ……何も思いつかない。


 烈弥の魔剣が俺の体を切り刻む。 


 けれども、俺は動き続ける。
 この戦いに撤退はない。敗走などあるはずもない。


 常人ならば死に準ずる痛み。それでも俺は動き続けている。
 なぜ?それはなぜだろうか?なにか理由があるのだろうか?
 わからない わからない わからない 

 
 やがて、体が悲鳴を上げた。体が急激に重く感じる。
 明らかな失速。鈍くなる動き。
 烈弥が振るう剣が近づいてく…る……
 否―——違う。
 遅くなっているのは世界の方だ。 
 ……残っていた。俺の、俺だけの特性オリジナル


 迫ってきた烈弥の一撃を弾く。その金属音をきっかけに世界は速度を取り戻す。
 できるのか?できないのか?いや、違う。そうではない。
 できるから……やる。
 俺は覚悟を決める。
 そんな俺の様子に何かを感じ取ったのだろうか。
 烈弥は「見出したか?」と聞いてきた。
 「何を?」とは答えない。俺は返答代わりに笑みを浮かべた。

 烈弥の魔力が膨れ上がっていく。

 「魔剣はまぐり 最終の型 発動」

 烈弥から放出される火炎がうねりを上げて、魔剣へと吸収されていく。
 炎に覆われる魔剣。その炎は魔剣だけに留まらず、烈弥の肉体へ侵食を開始する。
 やがて、烈弥自身が炎に覆われた。己の肉体すら焼き尽さんとばかりに炎上していく。
 しかし、突如として炎が消える。いや、炎だけではない。彼が手にしていたはずの魔剣も消滅している。
 炎は……魔剣はどこに消えたのか?
 俺の魔法感知能力が、その危険度を知らせてくる。
 炎から生まれるエネルギー。それが烈弥の体内に収まっている。
 膨大なエネルギーを内蔵させたソレは、生物として上位の領域へ踏み込んでいる。
 『人間』より 『魔人』より上位の生物。

 「行くぞ……ユズル。ラストバトルってやつだ」

 それが合図。ソイツの言うラストバトルの始まりを告げる合図だった。
 一歩。ソイツが一歩前に出る動作だけで、俺の動体視力で捉えれる限界の速度。
 視覚……いや、知覚すら困難な超スピード。だが、それを俺は捉える。
 今まで何度も味わってきた、死の直前。一瞬で、生まれて今までの記憶が流れ始める走馬灯。
 なぜ、こんな現象が起こるのか?そのメカニズムは知らない。
 ただ、こんな話を聞いた事がある。
 ミステリー小説で、よく使われるダイイングメッセージ。これについて疑問に思ったことはないだろうか?
 なぜ、凡人である被害者が、天才と言われる名探偵ですら解き明かすのが困難なメッセージを残せるのか?それも死の直前に……。
 その理由は、こう説明されている。
 人間は、死の直前に『比類なき神々しい瞬間』が訪れ、人間の頭脳は限界を超えて跳躍する……と。

 ならば、俺はそれを掴み取る!

 今まで感じた、戦中の走馬灯。それらを見極め、再現を開始。
 高速回転する頭脳。まるでガソリンのように魔力を脳へ投げ込んでいく。
 今まで眠っていた脳髄が覚醒を始める。
 だから、見える。
 人間の動体視力を超えた烈弥の動き。 それすらもスローモーションの如く―——ゆるやかに―——
 俺は―——

 『比類なき神々しい瞬間』を発動させた。


 ランクが違う。生物のしてのランクが……だ。
 『魔人』が『魔人』と言われる理由。
 今なら理解できる。理論をすっ飛ばして魔法を使えるとか、膨大な魔力を保有しているとか……
 それらは、理由の一辺に過ぎなかった。
 『魔人』
 人間ではないから『魔人』なのだ。

 烈弥の拳と俺の拳がぶつかりあう。
 一度、二度、三度と、ぶつかり合うたびに加速していく拳と拳。 
 行き場を失ったエネルギーが両者の体を上へ上へと押し上げていく。 

 空中で距離と取る。互いに純粋な魔力を拳へ練り込み―——外へ放射させる。
 ―――互角。
 相殺した魔力の粒子を後に、殴り合いを再開する。
 今度は避ける。そしてカウンター。それを避けられる。そしてカウンター。
 避ける。カウンター。避られる。カウンター。避ける……
 不意にタイミングを変える。俺の手はゆるりと烈弥の胸に当て、そのまま前へ押し出す。
 大きくバランスを崩す烈弥へハイキック。
 俺の脚が頭部を捉えた。そのまま地面へ落下していく烈弥を追う。
 烈弥が地面へ衝突するよりも早く、地面へ到着。
 落下してくる烈弥の背中に両手の拳をねじ込んだ。
 今度は、浮き上がろうする烈弥の体を掴み、地面へ叩き付ける。

 舞い上がる土煙と砂埃。それらが薄まっていくと立っている烈弥が見える。
 余裕を見せていた表情は既に消え去っている。
 だが、ダメージらしいダメージを受けていないのは流石だった。
 自然と笑い声が湧き出てくる。烈弥も俺に釣られて笑っている。
 わかっている。こんな時は、この言葉を出すのが作法なんだろう?
 俺は戦いの作法に則り、あの言葉を口にする。

 「さぁ、戦いはこれからだぜ!」
  

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