異世界リベンジャー
クルスの疲労感とお姫様抱っこ
 「よう」と俺は片手を上げ、クルスに簡単な挨拶をする。
 しかし―――
 「・・・・・・」とクルスは無言で階段を下り続ける。 
 俺を無視してるのか?・・・いや、違う。
無言のまま、迫ってくるクルス。俺は階段の端によると、そのままクルスは通過していく。
 すれ違い様、間近に見たクルスの様子は―――
「おいッ!」
俺は思わず、大きな声を出す。
焦点が合わない瞳。憔悴しきった表情。どう見ても尋常ではない。
「あっ? あぁ、ユズルか、いたのか。まるで気がつかなかったぞ」
「気がつかなかったって…お前……」
一体、彼女に何があったのか?
そう思ったのも一瞬。すぐに原因に思い当たる。
「お前、ずっとモナルの護衛を行っていたのか?不眠不休で?」
 俺は逆算する。魔人化してからの俺は睡眠時間が大幅に減少している。
そのため、時間間隔にズレが生じ、正確な日時の判断能力が狂っているのだ。
「……2日間、寝てないのか?」
「当たり前だろ?私は、名誉ある親衛隊の隊長に選ばれたんだ。本当なら、今でもモナルさまのそばに使えなければならないのだが……どうやら私の役立たずな体では、そんな簡単な事も出来ないらしい。モナルさまから、休息を取るように強いられてしまった」
「……」
確かに……いつ、どのような方法で現れるかもしれない敵。そんな相手から、常にモナルを守れる判断力と瞬発力を持った人間は、ナシオンでも数人しかいないだろう。
しかし、その疲労は想像以上だろう。 休む事が許されず、常に気を張り続けないといけない。
それは、いくらクルスとは言え、激しい体力の消費が代償となる。
それを防ぐために、親衛隊を組織し、クルスの消耗を抑えようとしてたのだろうが―――
(たぶん、コイツは……全部、1人でやろうとしてしまったのか……)
しかし、クルスは心配ないと言う。
「心配するな。30分だ。30分で体力を取り戻し、体調を整えて見せる」
クルスは今にも倒れそうにも見えるが、そんな体でも気丈に宣言する。
そんな彼女を見て、俺は―――
「お前、馬鹿だろ」
「なっ!私が馬鹿だと?」
「そういう時は、人を頼れ。信頼しろ。最悪、俺の体だってモナルの盾になってやるよ」
俺は一気に捲し立てた。
ひょっとすると、クルスも俺を裏切り者だと思っているかもしれない。
―――けれども、構うものか。
一方、クルスは「……」と無言だ。
やっぱり、ダメか。そう思い、クルスの表情を窺うと、彼女は驚きの表情を見せている。
だから、俺は言葉を続けていく。
「別に俺を信用しろとは言わない。でも―――」
それをクルスが遮った。
「いいや。お前なら信用できる人物だ。……頼むよ。モナルさまは強いから……常に強くあろうとしてるから……モナルさまも弱さが必要なんだ。お前が、ユズルがそうなってくれれば……」
クルスは最後まで喋れなかった。
気を失い。前のめりに倒れていく。
地面に衝突する直前、何とか間に合った。
俺はクルスの体を抱きかかえるように支える。
その体は想像よりも軽い。
「……やっぱり、お前は馬鹿だよ。強くあろうとしてるのは、お前も同じじゃないか」
しかし―――
「しかし、どうしたものか?」
大声を上げれば、誰か来て、手伝ってくれそうだが……
大声を出した結果、体を休めているクルスの目を覚まさせたくない。
「仕方ないか。これは不可抗力。そう、これは不可抗力なんだ」
そう、自分に言い聞かせ、クルスの体を持ち上げた。
俗にいう、お姫様抱っこってやつだ。
この世界にも、お姫様抱っこは……あるだろうな。
そう言えば、モナルと街に出た日も、モナルの正体がばれて、お姫様抱っこで逃げたんだった。
「……」
その直後、殺意を振りまいて現れたクルスを思い出してしまった。
「しかし、まぁ……」
人間、変わるものだな。……いや、人間が変わるんじゃなくて、互いの関係性、あるいは立場か……
別に、俺もクルスも、変わってないはずだ。
だったら、もっと―――
世の中、平和になる方法はないものかな?
敵対していた俺とクルスに、少しばかりの信頼感が生まれたように……
そんな事が考えながら、俺はクルスが休める場所を目指して、歩き始める。
 しかし―――
 「・・・・・・」とクルスは無言で階段を下り続ける。 
 俺を無視してるのか?・・・いや、違う。
無言のまま、迫ってくるクルス。俺は階段の端によると、そのままクルスは通過していく。
 すれ違い様、間近に見たクルスの様子は―――
「おいッ!」
俺は思わず、大きな声を出す。
焦点が合わない瞳。憔悴しきった表情。どう見ても尋常ではない。
「あっ? あぁ、ユズルか、いたのか。まるで気がつかなかったぞ」
「気がつかなかったって…お前……」
一体、彼女に何があったのか?
そう思ったのも一瞬。すぐに原因に思い当たる。
「お前、ずっとモナルの護衛を行っていたのか?不眠不休で?」
 俺は逆算する。魔人化してからの俺は睡眠時間が大幅に減少している。
そのため、時間間隔にズレが生じ、正確な日時の判断能力が狂っているのだ。
「……2日間、寝てないのか?」
「当たり前だろ?私は、名誉ある親衛隊の隊長に選ばれたんだ。本当なら、今でもモナルさまのそばに使えなければならないのだが……どうやら私の役立たずな体では、そんな簡単な事も出来ないらしい。モナルさまから、休息を取るように強いられてしまった」
「……」
確かに……いつ、どのような方法で現れるかもしれない敵。そんな相手から、常にモナルを守れる判断力と瞬発力を持った人間は、ナシオンでも数人しかいないだろう。
しかし、その疲労は想像以上だろう。 休む事が許されず、常に気を張り続けないといけない。
それは、いくらクルスとは言え、激しい体力の消費が代償となる。
それを防ぐために、親衛隊を組織し、クルスの消耗を抑えようとしてたのだろうが―――
(たぶん、コイツは……全部、1人でやろうとしてしまったのか……)
しかし、クルスは心配ないと言う。
「心配するな。30分だ。30分で体力を取り戻し、体調を整えて見せる」
クルスは今にも倒れそうにも見えるが、そんな体でも気丈に宣言する。
そんな彼女を見て、俺は―――
「お前、馬鹿だろ」
「なっ!私が馬鹿だと?」
「そういう時は、人を頼れ。信頼しろ。最悪、俺の体だってモナルの盾になってやるよ」
俺は一気に捲し立てた。
ひょっとすると、クルスも俺を裏切り者だと思っているかもしれない。
―――けれども、構うものか。
一方、クルスは「……」と無言だ。
やっぱり、ダメか。そう思い、クルスの表情を窺うと、彼女は驚きの表情を見せている。
だから、俺は言葉を続けていく。
「別に俺を信用しろとは言わない。でも―――」
それをクルスが遮った。
「いいや。お前なら信用できる人物だ。……頼むよ。モナルさまは強いから……常に強くあろうとしてるから……モナルさまも弱さが必要なんだ。お前が、ユズルがそうなってくれれば……」
クルスは最後まで喋れなかった。
気を失い。前のめりに倒れていく。
地面に衝突する直前、何とか間に合った。
俺はクルスの体を抱きかかえるように支える。
その体は想像よりも軽い。
「……やっぱり、お前は馬鹿だよ。強くあろうとしてるのは、お前も同じじゃないか」
しかし―――
「しかし、どうしたものか?」
大声を上げれば、誰か来て、手伝ってくれそうだが……
大声を出した結果、体を休めているクルスの目を覚まさせたくない。
「仕方ないか。これは不可抗力。そう、これは不可抗力なんだ」
そう、自分に言い聞かせ、クルスの体を持ち上げた。
俗にいう、お姫様抱っこってやつだ。
この世界にも、お姫様抱っこは……あるだろうな。
そう言えば、モナルと街に出た日も、モナルの正体がばれて、お姫様抱っこで逃げたんだった。
「……」
その直後、殺意を振りまいて現れたクルスを思い出してしまった。
「しかし、まぁ……」
人間、変わるものだな。……いや、人間が変わるんじゃなくて、互いの関係性、あるいは立場か……
別に、俺もクルスも、変わってないはずだ。
だったら、もっと―――
世の中、平和になる方法はないものかな?
敵対していた俺とクルスに、少しばかりの信頼感が生まれたように……
そんな事が考えながら、俺はクルスが休める場所を目指して、歩き始める。
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