異世界リベンジャー

チョーカー

開戦 ユズル・イートーは単騎で駆ける

 俺の手には、紙切れが1枚だけ握られている。
 もちろん、ただの紙切れではない。特殊な魔力が込められている連絡専門の札と説明を受けた。
 これが燃え落ちた時、ナシオン軍と魔王軍の交戦が始まった合図らしい。
 作戦では、コワン側から大樹が支配している魔王領、『プラント』へ進軍を開始する。
 この地は草木と大地を操る魔人が支配している。
 俺と、俺に預けられた少数の軍勢は、敵軍の補給線を叩く事が最優先となっている。
 しかし、この作戦は矛盾している。
 いくら、俺が敵の補給線を叩き、撃破したとしても、戦況に大きな変化は起こらない。
 なぜなら、草木と大地を操る魔人が敵だからだ。
 つまり、農作物を自由に操れるという事だ。
 言ってしまえば、この地を焼き野原にでも変えてしまわないと、草木の発達は魔人の自由自在。
 この地であれば、兵站が無限に作れてしまうのだ。

 「戦場なら、これほどのチートはないな」

 俺は呟く。
 結局、裏切り者疑惑がある俺を、戦況に無関係な場所……それでいて、困難な作戦に要いたのだろう。
 「けれども……」
 俺は最後まで言葉にしなかった。
 手にした札に火がついたからだ。一瞬、明るい光が札から生じて、燃え落ちていく。
 戦いの合図だ。
 大樹の見上げていた俺は、背後を振り向く。
 視線の先には、我が軍勢。我が精鋭が規則正しく並んでいる。
 その数 500。
 500人の遊撃部隊に向け、俺は前進の合図と激を飛ばした。

 俺たちは馬を使わない。
 なぜなら、馬が走れるような道が存在しないから―――否。
 正確には、まともな道が存在していないからだ。
 『プラント』には道が存在していない。
 なぜなら、『プラント』を支配する魔人が、自分の意志のみで地形を変化できるからだ。
 通常時なら、どういう状態になっているのかはわからない。
 しかし、全面戦争が始まった今は、この地の主が一時的に道を封鎖しているのだ。
 無論、全ての道を封鎖しているわけではない。
 この領土で生活する人間が暮らしていける最低限度の道……獣道のように険しい道が続いている。
 当然ながら、そんな道を500人で行進するわけにもいかず、副隊長を10人選抜。
 それぞれが50人の兵を連れ、それぞれが副隊長の命令に従っている。
 そう、つまり俺の背後には誰もいない。
 遊撃部隊隊長 ユズル・イートーこと、伊藤禅は単騎で敵地を走っていた。

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