異世界リベンジャー

チョーカー

腰の小瓶

 「加速損傷。それは人間の体が空中で回転した時に起きる現象よ。
 頭蓋骨の内側は液体に満たされている。その中に脳みそっての浮かんでいるわけなのよね」

 荻原みどりは、自分の頭を指差し ―――こめかみの部分だ――― 説明を続ける。

 「さて、人間の体が回転した時、脳みそに何が起こるかわかるかしら?
 脳みそは回転中に元に戻ろうとする動きが始まる。つまりは、その場所に留まろうとする動きね。
 回転する体に対して、動かないとする力がぶつかり合うの。結果として、人間の脳はダメージを受けるわ ……凄いでしょ?人間って?」

 俺は、荻原みどりの説明を黙って聞いた。
 彼女の説明は、まるで信じられなかった。
 人間が回転すると脳がダメージを受ける……OK
 OK、それは信じよう。そういう事も起こりうるだろう。
 しかし―――しかしだ。
 それを、その現象を意図的に起こせるものなのか?
 俺はできないと思う。 
 例えれば、プロレス。彼女のいう事が正しいのあれば、プロレスラーは試合中、常に脳にダメージを受けている事になる。いや、プロレスじゃなくてもいい。
 バク天やバク宙。
 果たして、1度行っただけで、立っていられなくなるほどのダメージを受けるものなのか?
 そんな事はあり得ない。彼女は嘘をついている。

 そもそも、この状況はなんだ?
 なぜ、彼女は追撃を仕掛けてこない。これはゲームやスポーツではない。
 彼女の言葉が正しいのならば、彼女は俺に物理的なダメージを与えたにすぎない。
 なぜ、彼女は攻撃の手を緩めているのか?
 ……毒?
 俺は、体に異変が起こった瞬間、最初に思いついたのがそれだ。
 戦いの最中の毒を仕込まれた。
 それが正しいのならば……今、彼女が狙っているのは時間稼ぎ。
 時間が立てば、立つほど、効果が出てくるタイプの毒ではないのか?

 「うおおおぉぉぉッッッ!」

 俺は強引に体を動かす。
 冗談のように体が重い。体が鉛のようになるって言うのは、こういう感じなのだろう。
 俺は酷くスローリーな拳を荻原みどりに向かって放つ。
 しかし、荻原みどりは、俺の急な動きを想定してなかったのか、反応が遅れる。
 背後に飛んで避けれる。避けられはしたが――――
 俺は見た。 露出の多い荻原みどりの服装。
 回避運動中にひらりとめくれた腰に巻かれた布きれ。
 そこに小瓶が二つ隠されていたのを、俺は見たのだ。
 一つが毒薬。だとしたら、もう一つは?
 もしもの事故。毒薬の取り扱いに問題が生じたら?どうする?
 保険として解毒剤を用意しててもおかしくはない。
 そして、それは俺に取っての勝機に他ならないだろう。 

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