異世界リベンジャー

チョーカー

お慕い申し

 
 何が起きた?

 荻原みどりの荒らしい攻撃が激変した。
 洗礼された技。逸脱した身体能力。
 先ほどとは、まるで別人。
 彼女の木刀を弾こうとして振るった俺の剣は、宙を切る。
 空振り。それも致命的な―――
 その隙を狙われた。彼女は大きく前に飛び込んできた。
 防御?回避?反撃?
 一瞬で脳裏に浮かび上がる選択肢。しかし、選択時間は瞬時に消滅した。
 間に合わない。
 魔力を、魔法を使って……
 間に合わない。何もかもが手遅れだ。無防備な俺に突っ込んでくる彼女。 
 無意識下で死を意識した瞬間に『比類なき神々しい瞬間』が自動発動する。
 脳が活性化されていく。魔力が溢れて出ていく。
 膨れ上がっていく選択肢の数々……

 しかし―――
 逃げられない。

 『死』

 その一文字が、その一文字だけが思い起こされる。

 だが、奇妙な出来事が起こる。

   

 俺の剣に彼女が、荻原みどりが貫かれていた。
 まるで、彼女が自分から貫かれに行ったとしか思えない光景。
 ……そんなはずはないのに。

 「お見事です」

 呆然とする俺に荻原みどりは賞賛の言葉を向けた。
 その言葉は、今までとは別人のように穏やかさがあった。

 「心配しないでください。貴方には毒を使用していません……」

 彼女の口から赤い液体が流れていく。
 そんな、様子を……俺はただ
 (喋り難そうだな)
 なんて、場違いで呑気な感想を抱く。
 それくらいの欠如していた。リアリティってやつを感じなくなっていて、他人事でしか状況を把握できなくなっていた。 

 「―――ただ、毒を使用するならば今からです。体ではなく、貴方の心を蝕むように、毒の言葉を」

 
 彼女は前に出る。一歩一歩、俺に向かって来る。
 彼女の腹部には、俺の剣が突き刺さっているにも構わずにだ。
 何かが零れ落ちていく。その感覚が俺の手を伝わってくる。
 精神。 魂。 生命。
 そういった抽象的な物が、確かに存在していて、彼女から失われていく。
 それが俺に伝わってくる。
 互いに抱き合うような距離。いや、荻原みどりは俺に抱き付いてきた。
 そのまま、俺の耳に口を寄せていく。そして――――

 「お慕い申してました。12年前に貴方に救われて以来……」

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