現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……
第73話、風遊は穐斗のチェーンについた指輪の異変に気がつきました。
「穐斗……?大丈夫やろか?だんはん」
醍醐も呼び捨ても恥ずかしく、さん付けもくん付けも醍醐が嫌だというので、つい、義母になる櫻子が義父の嵐山を呼ぶ『だんはん』という言葉を、恐る恐る口にすると、醍醐が、
「そう呼んでください‼」
と何故か拳を固め、紫野も、
「えぇなぁ。あてもそう呼んでくれる相手探さなあかんなぁ……」
と言われ、風遊は首をかしげる。
風遊は気がついていないのだが、穐斗に瓜二つの可愛い童顔の風遊がちょっと首をかしげて頬をほんのり赤くして、
「だんはん」
と、イントネーションバッチリに言われ、醍醐は一歩間違えば鼻血ものである。
外国に飛び出したりもしている年上の風遊だが、元々のんびり田舎暮しに慣れており、都会の生活は苦手と思っている。
「ごみごみしとるんはしんどいけんなあ……でも、京都は好きなんよ」
「へぇ、修学旅行で?」
「ううん。穐斗が体調崩して修学旅行に行けんかったけんね?それに、夏樹が中学を卒業したら都会に行ってしもて、それからはほぼ毎年二人で、二泊三日の旅行に。一日は、うちのテディベアのコンクールに」
「あ、あぁ‼あの?」
醍醐がいうのは、日本のテディベアのコンクールのひとつ京都のコンクール兼展示会である。
もうひとつは東京の浜松町で行われるコンクールが有名であり、有名な作家を多数誕生させているテディベア作家を目指している人には自分の作品を出品したい、と目標にしている。
テディベアのコンクールは、簡単にいうと、そのまま服を着ていないテディベア、服を着ているテディベア、その大きさが大きいもの小さいもの、そして周囲の風景と共にテディベアが存在するといった、テーマに沿ったものという具合に大体5部門が前もって雑誌などで選出されており、実際の作品を当日鑑賞し、そして選出されるきちんとしたものである。
そのコンクールに出品できるには本当に技術的にも、オリジナリティー、創造力、技術力が求められ、世界的にも日本のテディベア作家さんの技術は有名であり、あるドイツの会社では日本のテディベア作家さんにデザインを依頼、そして百体限定で製作販売していたりもする。
外国のテディベアは奇抜な個性的な色使いや、ディズニーのヒール(悪者)に出てきそうな動き出しそうなキャラも多いのだが、日本では昔ながらのがっしりしたテディベアや最近は可愛い表情のテディベアが多い。
それに日本ではテディベアの学校があり、二年半基礎を学び、講師課程も終えたらテディベアの教室を開くこともできる。
風遊は独学と、ドイツやイングランドでバイトをしつつ、テディベアの博物館に行ったり、その博物館や工場見学で、商品として正式に売り出せない落とされたテディベアを安く購入したり、のみの市でヴィンテージのテディベアを購入し、修復していたりもしていたのである。
「穐斗……あれ?」
枕元に、黄色の花びらが落ちている。
「……艶蕗……?おかしいなぁ……うちもだんはんも、お父さん、おかあさんも持ってこん、山には普通にあるのに……」
「どうしたんです?」
「いや、だんはん……艶蕗の花びらが……」
「艶蕗……実家の庭にもありますね……でも、ここは……」
風遊は穐斗を覗き込む。
弱っていく息子……と、キラッと胸元が輝く。
息子が、
「お母さん‼祐也に貰ったんよ‼ほら‼僕の宝物‼」
とはしゃいで見せてくれたもの……。
と、手を伸ばし、愕然とする。
前に穐斗が見せてくれたのはプラチナでブルーの指輪……しかし、これは質の悪いガラクタ……。
「だんはん……ちょっと……」
婚約者を少し離れたところに呼び、メモ用紙に、
『Changeling。あれは穐斗やない‼』
「えっ?」
『静かに。ばれたらいかん。お願いや。今すぐひなくんに頼んで、モルガーナに‼お願い‼』
『解った』
「このメモのものを買ってきます。風遊はジュースでいい?」
「うん。だんだん」
見送った風遊は心のなかで、必死に祈る。
『どうか……どうか、助けてください。穐斗を……返してください。うちの子です……うちのお腹を痛めて産んだ、宝物です。お願いや……』
祈りは力となる……そう願うしかない風遊だった。
醍醐も呼び捨ても恥ずかしく、さん付けもくん付けも醍醐が嫌だというので、つい、義母になる櫻子が義父の嵐山を呼ぶ『だんはん』という言葉を、恐る恐る口にすると、醍醐が、
「そう呼んでください‼」
と何故か拳を固め、紫野も、
「えぇなぁ。あてもそう呼んでくれる相手探さなあかんなぁ……」
と言われ、風遊は首をかしげる。
風遊は気がついていないのだが、穐斗に瓜二つの可愛い童顔の風遊がちょっと首をかしげて頬をほんのり赤くして、
「だんはん」
と、イントネーションバッチリに言われ、醍醐は一歩間違えば鼻血ものである。
外国に飛び出したりもしている年上の風遊だが、元々のんびり田舎暮しに慣れており、都会の生活は苦手と思っている。
「ごみごみしとるんはしんどいけんなあ……でも、京都は好きなんよ」
「へぇ、修学旅行で?」
「ううん。穐斗が体調崩して修学旅行に行けんかったけんね?それに、夏樹が中学を卒業したら都会に行ってしもて、それからはほぼ毎年二人で、二泊三日の旅行に。一日は、うちのテディベアのコンクールに」
「あ、あぁ‼あの?」
醍醐がいうのは、日本のテディベアのコンクールのひとつ京都のコンクール兼展示会である。
もうひとつは東京の浜松町で行われるコンクールが有名であり、有名な作家を多数誕生させているテディベア作家を目指している人には自分の作品を出品したい、と目標にしている。
テディベアのコンクールは、簡単にいうと、そのまま服を着ていないテディベア、服を着ているテディベア、その大きさが大きいもの小さいもの、そして周囲の風景と共にテディベアが存在するといった、テーマに沿ったものという具合に大体5部門が前もって雑誌などで選出されており、実際の作品を当日鑑賞し、そして選出されるきちんとしたものである。
そのコンクールに出品できるには本当に技術的にも、オリジナリティー、創造力、技術力が求められ、世界的にも日本のテディベア作家さんの技術は有名であり、あるドイツの会社では日本のテディベア作家さんにデザインを依頼、そして百体限定で製作販売していたりもする。
外国のテディベアは奇抜な個性的な色使いや、ディズニーのヒール(悪者)に出てきそうな動き出しそうなキャラも多いのだが、日本では昔ながらのがっしりしたテディベアや最近は可愛い表情のテディベアが多い。
それに日本ではテディベアの学校があり、二年半基礎を学び、講師課程も終えたらテディベアの教室を開くこともできる。
風遊は独学と、ドイツやイングランドでバイトをしつつ、テディベアの博物館に行ったり、その博物館や工場見学で、商品として正式に売り出せない落とされたテディベアを安く購入したり、のみの市でヴィンテージのテディベアを購入し、修復していたりもしていたのである。
「穐斗……あれ?」
枕元に、黄色の花びらが落ちている。
「……艶蕗……?おかしいなぁ……うちもだんはんも、お父さん、おかあさんも持ってこん、山には普通にあるのに……」
「どうしたんです?」
「いや、だんはん……艶蕗の花びらが……」
「艶蕗……実家の庭にもありますね……でも、ここは……」
風遊は穐斗を覗き込む。
弱っていく息子……と、キラッと胸元が輝く。
息子が、
「お母さん‼祐也に貰ったんよ‼ほら‼僕の宝物‼」
とはしゃいで見せてくれたもの……。
と、手を伸ばし、愕然とする。
前に穐斗が見せてくれたのはプラチナでブルーの指輪……しかし、これは質の悪いガラクタ……。
「だんはん……ちょっと……」
婚約者を少し離れたところに呼び、メモ用紙に、
『Changeling。あれは穐斗やない‼』
「えっ?」
『静かに。ばれたらいかん。お願いや。今すぐひなくんに頼んで、モルガーナに‼お願い‼』
『解った』
「このメモのものを買ってきます。風遊はジュースでいい?」
「うん。だんだん」
見送った風遊は心のなかで、必死に祈る。
『どうか……どうか、助けてください。穐斗を……返してください。うちの子です……うちのお腹を痛めて産んだ、宝物です。お願いや……』
祈りは力となる……そう願うしかない風遊だった。
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