現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……
第62話、新しい命が宿り、母親になりました。
お互いの両親は、醍醐の両親は隣町の旅館に、風遊の両親は家にと言っていたのだが、紫野が別のホテルに予約を入れ、3人で泊まりに行った。
糺が、
「醍醐くん、私お邪魔?」
「そんなことないですよ。先輩。それに、先輩はここにいた方がいいと思います」
「良かったぁ……。でも、ひなちゃんいつ帰ってくるんだろ……」
俯く。
「どうしたん?」
「……あのね?さきさんが、言ってたの……私の実家が、危ないって。うちの兄さんと父さんが、変なのに投資して、その借金のかたに私を……やって……」
ほおにポロポロと真珠がこぼれる。
「わ、私は、ずっと、実家でお嬢さん言うて表では言われとったけど、家のなかでは男尊女卑。さきさんと同いどしの兄さんなんて、『お前は役立たずや』『女なんて馬鹿だ』言うて……、弟も顎で指図。父親なんて気に入らないことがあると殴る蹴るだったんよ。それに、本当は高校も出してもらえなくて、担任の先生が、『なに考えてるんですか‼子供に勉強の道を与えないんですか‼』って、猛勉強して、特待生で……そうしたら『お前は、役に立たん。そこのほうき以下や』言うてね……」
醍醐も息を呑む。
「高校卒業する頃に、見合いが多くなった……進学したかった。それに、小説を書きたかった。それなのにそれを全部親は聞いてくれない。兄弟も受験用の参考書を捨てたり、受験票も……お母さんは『あんたは女の子なんだから、子供なんだから、お父さんやお兄ちゃんの言うことを聞きなさい』って……」
しゃくりあげる。
「ひなちゃんには、いっぱいいっぱい迷惑をかけてる。私のせいで、実家には戻れなくなって、でも……帰りたくないんよ……ひなちゃんと一緒におりたい。喧嘩してもわがまま言って怒らせても、でも、ひなちゃんは『ごめんな?俺が悪かった』って……頭を撫でてくれて。『俺にはスゥが必要や』って……だから……」
「帰らんでええんよ」
風遊は糺の目を優しくぬぐう。
「スゥちゃんはうちの娘……それか妹なんよ?うちにおり。そんなとこに帰らんでええんよ。うちがあるやん。な?」
「でも……」
「大丈夫」
「はい……でも、ちょっと、最近熱っぽい、風邪ひいたかなぁ……」
首をかしげる糺に、風遊は念のためと穐斗の主治医にたのみ、診て貰ったのだった。
で、熱心に本を読みながら、スマホが鳴ったため、
『はい、日向だけど?祐也の具合はどうなんだ?』
と英語で返した日向に、
「ふえぇぇぇ~‼ひなちゃんが、忘れたぁぁ~‼」
「わ、わぁぁ‼スゥ‼スゥのことは忘れてない‼ごめん‼調べものに集中していたのと、実は祐也が……」
「え?祐也くん?」
「そっちのテレビに出てないかな?ヴィヴィアン・マーキュリーの慈善イベントの事件」
「ちょっと待って~‼醍くんテレビつけて~‼」
テレビをつけると、豪華な車から出てきたウェインの後から出てきた顔を隠している人物に、突進する日本人男性。
凍りついたのか動けないその人物に叫びながら殴り付けるシーンが写し出された。
テレビでは、
「この男性は、日本の外交官僚であり、調べたところ、10年あまり前にオーストラリアでヒッチハイクをして旅をしていた少年の父親で、その前妻の容疑者と共に、少年に虐待をし、日本にいた実の母親や親族に助けを求められないようにしていたそうです」
「で、実母の方の証言です……」
「はい、はい……結婚してから最初は私が暴力を……外国生活が長い上に、アザだらけで助けを求められず、離婚して、息子を連れて帰ろうとしたら取り上げられて……何度も連絡しました。手紙も‼ネットも‼でも、全部切られて……それで兄にお願いしたんです‼ごめんなさい‼……(ピー音)。それに、あの人のご両親には、子供ができたと報告すると堕ろせと、今から病院にいけと脅されました‼本当です‼」
「で、実母から相談を受けた伯父に当たる方が、迎えに行き、少年が行方不明とわかり捜索。裁判をして、二度と会うなと言うことに決まり、伯父と共に帰国。で、成長した息子の個人情報を盗み見して電話を掛けて脅迫したそうですね」
「その上、これでしょう?被害者である少年が可哀想ですね」
「それに、同じように虐待をしていた前妻の容疑者の『見ていて面白かったのでやった。自分の3人の子供たちも面白がっていた』と言うのも……信じられないですねぇ」
「それに……」
画面が変わり、フラッシュがたかれるなか、頭を下げているのはある有名な国会議員。
たびたび男尊女卑発言や、セクハラ発言で問題をかもしていた人物である。
「いえ……そ、そのようなことは……は、はい、孫はおりません‼あの女は、子供ができたと、脅した女です‼他の男の子供です‼関係ない‼わしには関係ない‼」
その内容に、糺も醍醐も風遊も呆れ、祐也を心配する。
「祐也くんは?」
「殴られたときに、口の中を切って、胸ぐらを捕まれたときに、爪で抉られ、よろけて倒れて頭を打った全治二週間」
「そうなんだ……」
「それより、どうしたんだ?スゥ。何かあったか?また向こうの家から……」
心配そうな声に瞳が潤む。
しかし、涙声ではあるが、
「ひなちゃん……パパになったよ。三人で一緒にほたる見に行こう?」
「えっ……ぱ、パパ……お、俺が?」
しばらく返答がなく、
「ひなちゃん……いや?」
「ち、違う‼……う、うれしいんだ……ありがとう、ありがとう‼スゥ。まっとってや。俺のふるさとは、スゥと家族や……」
涙声で宣言をした日向に、糺も、
「うん。家は、家族のうちやもんね。待っとるよ」
山は命を獲るだけでなく、命を産み出すのだと、糺は思ったのだった。
糺が、
「醍醐くん、私お邪魔?」
「そんなことないですよ。先輩。それに、先輩はここにいた方がいいと思います」
「良かったぁ……。でも、ひなちゃんいつ帰ってくるんだろ……」
俯く。
「どうしたん?」
「……あのね?さきさんが、言ってたの……私の実家が、危ないって。うちの兄さんと父さんが、変なのに投資して、その借金のかたに私を……やって……」
ほおにポロポロと真珠がこぼれる。
「わ、私は、ずっと、実家でお嬢さん言うて表では言われとったけど、家のなかでは男尊女卑。さきさんと同いどしの兄さんなんて、『お前は役立たずや』『女なんて馬鹿だ』言うて……、弟も顎で指図。父親なんて気に入らないことがあると殴る蹴るだったんよ。それに、本当は高校も出してもらえなくて、担任の先生が、『なに考えてるんですか‼子供に勉強の道を与えないんですか‼』って、猛勉強して、特待生で……そうしたら『お前は、役に立たん。そこのほうき以下や』言うてね……」
醍醐も息を呑む。
「高校卒業する頃に、見合いが多くなった……進学したかった。それに、小説を書きたかった。それなのにそれを全部親は聞いてくれない。兄弟も受験用の参考書を捨てたり、受験票も……お母さんは『あんたは女の子なんだから、子供なんだから、お父さんやお兄ちゃんの言うことを聞きなさい』って……」
しゃくりあげる。
「ひなちゃんには、いっぱいいっぱい迷惑をかけてる。私のせいで、実家には戻れなくなって、でも……帰りたくないんよ……ひなちゃんと一緒におりたい。喧嘩してもわがまま言って怒らせても、でも、ひなちゃんは『ごめんな?俺が悪かった』って……頭を撫でてくれて。『俺にはスゥが必要や』って……だから……」
「帰らんでええんよ」
風遊は糺の目を優しくぬぐう。
「スゥちゃんはうちの娘……それか妹なんよ?うちにおり。そんなとこに帰らんでええんよ。うちがあるやん。な?」
「でも……」
「大丈夫」
「はい……でも、ちょっと、最近熱っぽい、風邪ひいたかなぁ……」
首をかしげる糺に、風遊は念のためと穐斗の主治医にたのみ、診て貰ったのだった。
で、熱心に本を読みながら、スマホが鳴ったため、
『はい、日向だけど?祐也の具合はどうなんだ?』
と英語で返した日向に、
「ふえぇぇぇ~‼ひなちゃんが、忘れたぁぁ~‼」
「わ、わぁぁ‼スゥ‼スゥのことは忘れてない‼ごめん‼調べものに集中していたのと、実は祐也が……」
「え?祐也くん?」
「そっちのテレビに出てないかな?ヴィヴィアン・マーキュリーの慈善イベントの事件」
「ちょっと待って~‼醍くんテレビつけて~‼」
テレビをつけると、豪華な車から出てきたウェインの後から出てきた顔を隠している人物に、突進する日本人男性。
凍りついたのか動けないその人物に叫びながら殴り付けるシーンが写し出された。
テレビでは、
「この男性は、日本の外交官僚であり、調べたところ、10年あまり前にオーストラリアでヒッチハイクをして旅をしていた少年の父親で、その前妻の容疑者と共に、少年に虐待をし、日本にいた実の母親や親族に助けを求められないようにしていたそうです」
「で、実母の方の証言です……」
「はい、はい……結婚してから最初は私が暴力を……外国生活が長い上に、アザだらけで助けを求められず、離婚して、息子を連れて帰ろうとしたら取り上げられて……何度も連絡しました。手紙も‼ネットも‼でも、全部切られて……それで兄にお願いしたんです‼ごめんなさい‼……(ピー音)。それに、あの人のご両親には、子供ができたと報告すると堕ろせと、今から病院にいけと脅されました‼本当です‼」
「で、実母から相談を受けた伯父に当たる方が、迎えに行き、少年が行方不明とわかり捜索。裁判をして、二度と会うなと言うことに決まり、伯父と共に帰国。で、成長した息子の個人情報を盗み見して電話を掛けて脅迫したそうですね」
「その上、これでしょう?被害者である少年が可哀想ですね」
「それに、同じように虐待をしていた前妻の容疑者の『見ていて面白かったのでやった。自分の3人の子供たちも面白がっていた』と言うのも……信じられないですねぇ」
「それに……」
画面が変わり、フラッシュがたかれるなか、頭を下げているのはある有名な国会議員。
たびたび男尊女卑発言や、セクハラ発言で問題をかもしていた人物である。
「いえ……そ、そのようなことは……は、はい、孫はおりません‼あの女は、子供ができたと、脅した女です‼他の男の子供です‼関係ない‼わしには関係ない‼」
その内容に、糺も醍醐も風遊も呆れ、祐也を心配する。
「祐也くんは?」
「殴られたときに、口の中を切って、胸ぐらを捕まれたときに、爪で抉られ、よろけて倒れて頭を打った全治二週間」
「そうなんだ……」
「それより、どうしたんだ?スゥ。何かあったか?また向こうの家から……」
心配そうな声に瞳が潤む。
しかし、涙声ではあるが、
「ひなちゃん……パパになったよ。三人で一緒にほたる見に行こう?」
「えっ……ぱ、パパ……お、俺が?」
しばらく返答がなく、
「ひなちゃん……いや?」
「ち、違う‼……う、うれしいんだ……ありがとう、ありがとう‼スゥ。まっとってや。俺のふるさとは、スゥと家族や……」
涙声で宣言をした日向に、糺も、
「うん。家は、家族のうちやもんね。待っとるよ」
山は命を獲るだけでなく、命を産み出すのだと、糺は思ったのだった。
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