現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第61話、今日は、顔を見に来て、ホテルに泊まる予定です。

ナースや主治医に謝罪とお礼を言い、落ち着いた室内。
車のなかでは見えにくかった写真を見せる。

「まぁ、ゆうちゃん。あての若い頃のべべがようにおて……」
さくらは、本当にこれがようにおた」
「まぁ、だんはん……」
「おとうはんもおかあはんも、周囲みな」

紫野むらさきのの言葉に、はっと我に返る。

「そうどしたな……でも、風遊ふゆはんも、まぁまぁ……なんてべっぴんはんでっしゃろ……この色は本当に纏うお人を選ぶんどす。地味とか言うひともおるけれど、この少し沈んだ黄色に落ち着いた夏の緑のようでいて、金銀の糸で刺繍に、上から垂れ桜。近くから見たら、この華やかさに、諦めるお人も多いて、だけど、これが似合うんやないかと思うて……お願いしたんどす。うれしおすな。あては娘がおらんかったさかいに、娘の風遊はんやあきちゃんに着て貰えるて……」

嬉しそうな櫻子に(さくらこ)に、醍醐だいごが、

「おとうはん、おかあはん。それに、風遊のおとうさんもおかあさんも、さきあにはんもスゥ先輩も……実は出かけてはる間に、主治医の先生がきはったんどす。それで、すぐに判別できる遺伝子の検査をお願いしていましたんや。正式な結果は来月以降ですよって……、簡易検査の結果どす」

カルテの写しと、検査結果を広げる。

「わしらは……こういうのは苦手で……」

麒一郎きいちろうの一言に、醍醐は示す。

「前回の検査の結果がこちらです。で、遺伝子は女性遺伝子は正常……ここに書きますな?通常、女性遺伝子をX、男性遺伝子をYと言うんどす。つまり、遺伝子の世界では、女性はXX、男性はXYになるんどす」

嵐山は、

「醍醐。では二人の子供はぼんやったらXY、べっぴんはんやったらXXやてことかいな?」
「そうどすわ。おとうはん。で、穐斗の前の検査のんは、片方のXはきれいでっしゃろ?これは正常な遺伝子で、風遊からのもんですわ。でも、並んどる……」
「バラバラと言うか、きれいやないなぁ……」

紫野は渋い顔になる。

「こげなかったら、あきちゃんも辛かったやろなぁ……それに、風遊はんや、おとうはんもおかあはんも……つろうて見ておられんでしたやろ……」
「うちよりも、穐斗が……」
「で、こちらが、今回の簡易検査の報告どす。簡単なものやさかいに、後日正式な結果が来る言うてはりましたわ……」
「……ん?」

紫野は、指でたどる。
そして、左右の結果を見る。

「あれ?どないなっとるんや?なんや……」
「で、おかしい言うて、別の検査もうけましたんや。で、主治医の先生が言うとりましたんや」

醍醐は家族を見る。
そして伝えた。



その言葉に、周囲は唖然とし……言葉を失ったのだった。



その晩、数日押さえた病院のある町の隣町にある温泉街の旅館に泊まることにした嵐山と櫻子は、

「京都とは違うて、可愛らしおすな。マッチ箱のような電車や」
「それは、夏目漱石なつめそうせきの『坊っちゃん』にあったがな」
「あぁ、そうでしたわ。だんはんは司馬遼太郎しばりょうたろうはんの『坂ノ上の雲』が好きや言わはって。秋山好古あきやまよしふるはんでっか?」
「……いや、あては、正岡子規まさおかしきはんの、命を削りつつ思いの丈を吐き出す俳句がな。三十一文字みそひともじですらようまとまったおもとったんや。やけど、17文字で、生きる意味ていうたらええんか解らへん、たねを植え付けていくんや、俳句にも、弟子にも、友人にも……それが子規が逝ったあとも、命は広がっとる……枝葉を伸ばしていく。そこんとこがあてらにも当てはまると思うんや……残しておきたい思う……あての……代々のご先祖はんの遺してくらはったもんを……」



外を見る。
そこは、旅館の女将によると城の跡だと言い、現在の町のシンボルのしろが建てられる前にあったものらしい。
今は、発掘調査を終え、整備が進み、公園となっていて、春には桜の名所だと言う。

「……まぁ、あてはまだ続けるつもりや。さきもシィも半人前や。もう30もまえやのに、弟が巣だってどうするんや……」

文句と言うよりも心配する夫に櫻子は微笑んだのだった。

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