現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第43話、イングランドの白魔法使いモルガーナ様です。

しばらく進んでいくと、丘があり、そして小屋にいばらなどの樹が壁になった道になり、そのまま車は進んでいく。
そして、抜けると、手入れがされた可愛らしい花壇と、ガレージ、そして、家族と数人の客人が生活できるようなさほど大きくはない屋敷と言うよりも家に到着する。

「ガレージに車を入れるから、外に出てて。荷物はあとでだそう」

ウェインの一言に、二人は降り、そして荷物を出すと着いていく。
すると、玄関につく前に扉が開き、金髪碧眼……ウェインに良く似た美貌の女性が姿を見せる。

「ようこそ‼祐也ゆうや日向ひなたね」
「はじめまして。祐也です。穐斗あきとの親友です」
「はじめまして。日向です」

抱き合うスキンシップと言うのは、日向には慣れないが、ぎゅっと抱きつかれると、風遊ふゆに良く似た香りがした。

「さぁさぁ、長時間の旅は疲れたでしょう?中に入って休憩を。荷物は用意している部屋においておくようにするわ」
「ハーブティを振る舞うのが家の習わしと言うか、母が、白魔法使いなんだよ」

ウェインの言葉に、日向は、

「えっ?回復の術とか……ですか?」
「それに近いものもあるわ」

モルガーナは頬笑む。

「でも、本来の白魔法使いの役割と言うのはハーブや薬草を用いて痛みを和らげたり、リラックスや、疲れをとる手助けをすることよ。もし、一気にあなたから疲れを取り上げると反動で、あなたは倒れてしまうわ。疲労と言うのも、本来はよいことなのよ。一日働いて、アァ疲れたなぁ……と思うと、その疲れや一日考えていたことを、リセットしようとして、それが眠りへと繋がるの。そうして、目を覚ましたら朝日を浴びて、じゃぁ、今日も頑張ろうと思えるでしょう?」
「あぁ……そうですね。私も、数日ですが、穐斗の家で力仕事とか手伝いをして、あぁ疲れたなぁ。でも、心地よい疲れだなぁ……と、筋肉痛にならないようにだけして、眠りましたが、いつもよりも朝もスッキリしてました」

モルガーナは頷く。

「そうそう。そのお手伝いを私がするのよ。それに、お話を聞いたり……相談窓口ね」
「あぁ、昔聞きました。そうなんですね。イングランドでは残っているんですね」
「えぇ。さぁ、まずは体が強ばっているのは、同じ姿勢に、血行が悪くなっている証拠。まずはそれをとるハーブティを」

モルガーナに連れていかれたのは、暖かな暖炉のあるリビングになるらしい空間。
暖かい色の家具やソファが置かれている。

「ウェインもお座りなさい。アンジュは後よ」
「アンジュ?」

祐也と日向はウェインを見る。

「恋人?」
「ダメダメ。この子は、引っ込み思案で、いないのよ」
「母さん‼」
「アンジュは、最近貰った子犬よ。猟犬の子犬だけれど、ビクビクしていて兄弟に苛められていて、これはダメだって、お隣の荘園の方が持ってきたのよ。ウェインも猟はするけれど、猟犬はちゃんとしつけられるけれど、その子は石でコロン、他の犬たちに飛ばされてコロンでもう、これは猟犬に向かないって、家で飼っているのよ……あら、来たわ。アンジュ」

壁からちょっと顔を出して首をかしげる子犬。
ジャック・ラッセル・テリアらしい。
ジャック・ラッセル・テリアは狐狩りに改良された犬であり、小型犬とも中型犬とも言われ、大体体重は3キロから5キロしかし、勇敢な犬である。
主に白地に茶色のぶちの、コーギーに似ているが、脚は普通の犬程度に長い。
で、白地のぶちと言うのは、穴に飛び込んだジャック・ラッセル・テリアを引っ張り出すときに目印のためである。
しかし……。

「クルンクルンのモジャモジャだな……」
「ジャック・ラッセルは毛の短いのと、長くてストレート、長くてパーマなんだ。おいで、アンジュ」

ウェインが声をかけると、喜んで突進してくるが、絨毯のすみに引っ掛かり、ずべっと転ぶ。

「……」
「………」
「ご、ごめんよ。普通のジャックラッセルはこんなドジではないんだよ。この子だけ……アンジュ。大丈夫かい?」

声をかけると、今度は慎重にと言いたいのか、ヨチヨチと歩いてくるのだが、今度は日向の靴にぶつかってへろへろとなる。

「……猟犬には、向いていないと思う」
「俺もそう思う」
「でも、ここでは猟に出さないと、処分される」

ウェインはへろへろでもなんとかやって来た子犬を誉めて、頭をなで、ごほうびをあげる。

「だからなんとか、この子をどうにかしてあげたい。もしダメなら処分……ジャックラッセルは、猟犬だけあって、運動量が小さくても相当必要なんだ。大型並みで、朝晩1時間は運動が必要だから、街には向かない犬なんだよ」
「なら、検査に時間はかかるかもしれないけれど、日本に連れて帰るよ。家には、いくら犬がいてもいいし。この子は」

ひょいっと抱き上げ、

「あ、女の子だ。クルンクルン。喜ぶよ、穐斗が」
「えっ?いいのかい?」
「うん、と言うか、MEGメグがブームで飼ったミニチュアシュアウザーを面倒見ないって言うことで、風遊さんが連れて帰ったから今3頭いるんだ」
「MEGも……命を飼う責任を考えろと思うね‼」

ウェインは珍しく、強い口調でいい放つ。

「じゃぁ、その子を日本に送る手続きは父に頼むよ。僕も忙しくなるし……」
「仕事かい?」
「そう。映画が良かったって言うことで、ランスロットを再び演じられることになったんだ。本当は『トリスタンとイゾルテ』もあったんだけど、トリスタン役の彼も上手かっただろう?」

そう言えば、トリスタン役の俳優も中々で、どちらが助演男優賞を取るかといわれていた。

「で、今度は僕の方の話と、トリスタンの話を撮るんだ。……日本に行ったら、会えるかな?」
「もちろん‼……あ、思い出したんだけど、風遊さんが結婚することになったんだ」
「えっ?」
「まぁ‼」

ウェインとモルガーナは喜びの声をあげる。

「相手は?」
「俺の友人の醍醐だいご。婿養子に入るって」
「えぇ?日向の友人ってことは僕とも年の差ないんじゃないのかな?」
「20だよ。でも、猛アタック‼実家も反対よりも逆に応援していて、醍醐の両親が喜んでたらしい」
「それはおめでとうって伝えないとね。母さん」
「そうね。嬉しいわ」

ハーブティを飲みながら会話をしていた彼らには、遠く離れた日本のことはまだ伝わっていなかった。

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