現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……
第42話、穐斗の体調はあまりよくないのですが、頑張ったのでした。
翌日、元気な双子のおじさんになる紫野と標野は、朝届いた荷物を広げていく。
「みとうみ、これがベベで、帯にかんざしや。最近は着物を着るんは減ってきとるけど、綺麗やろ?」
「昔の十二単は色あわせを楽しんで、景色ごとに、重ねる色を変えていきはったんで……でも、あきちゃんは、こっちの大人びたんよりかいらしいこの色があうんちがうやろか?」
「わぁぁ……桜、あれ?母さんは、黄色の……でも、うわぁぁ‼帯が綺麗な形になっとる」
「こ、この年で、恥ずかしいわ」
先に着替えを恋人の醍醐に手伝ってもらっていた風遊は頬を赤くする。
「いややわ。かいらしいのと、大人びたのを選んだんよ。上は落ち着いた黄色でグラデーションになっとってなぁ、下が緑。やけどなぁ、地味に見えて、華やかな桜でなぁ、おかあはんが気に入ってなぁ……これを仕立ててもろうたんや。あぁ、あきちゃんは、あんまりきつうないようにするからなぁ?つろうなったら休もうな?」
「写真とってくれる?スゥ先輩と母さんとお父さんと。撮って祐也とひな先輩に送るんよ」
「かまへんよ~かいらしにとるわ。言うても、元々かいらしいからなぁ」
糺は、ほぼ自分で着物を着たのだが、紫野が、
「スゥちゃん、それは合わへんわ。帯のかたちがおかしいて、べべにあわひん」
「そうですか?」
「スゥちゃんの実家はアホやなぁ……こないにかいらしいむすめを、可愛がりもできひんのや、やから、今はあの状態やで」
「えっ?あの状態って……」
はっとする。
標野は、あっさりと、
「スゥちゃんを急いで嫁に出そしたんはなぁ、スゥちゃんのおとうはんとおにいはんが怪しい株に投資して騙されたんやと。その借金を帳消しにしてもらうんやって」
「気にせられん。あそこの家がおかしいんやて。それより、ひなぼんとどないなん?」
紫野に、頬を赤くする糺。
「なかようてご馳走さん。でも、前におうたときよりも、優しい顔しとるで」
「でも、いつも言い合いばっかりで……癇癪起こしてしまうから……嫌われとったらどうしよう……。い、一緒に本当はイングランドに行こうって言ったのに、駄目って……」
「いやぁ、あのひなの性格やったら、先に取材に行って大丈夫やて解ってからつれていくんやないかなぁ?」
「そやな。あのひなは、見た目と内面が全く違うわ。正反対」
「ですかね……最近、手繋いでくれないし……」
ブー‼
双子が横を向いて吹き出す。
「な、なんですか‼」
「い、いやぁ……あのひなが手を繋ぐ言うん想像できひんかった……」
「はい、あきちゃんはお座りや。お化粧と髪飾ろか」
何故か一人、重たい帯に、よろけそうになるのをこらえていた穐斗は座らせてもらい、そうすると、大胆に刷毛で白く化粧をして、最近の流行である、まつげをクルンと持ち上げる。
「まつげ足さんでも長いなぁ……マスカラだけちょっとたそか。それと目尻に入れな……それに、醍ちゃん。手伝い」
「なんか、娘の着付けの手伝いしとるようですなぁ……あぁ、穐斗。動いたらいかんよ?」
標野がかつらを乗せて、かんざしをさし、その間に、醍醐が紅を指す。
「ほーら。みとうみや。藤娘やのうて桜姫や」
大きな鏡を目の前に差し出され、穐斗はパチパチとまばたきをする。
「これ……僕?」
「私の方が可愛いと思うわ。ちょっとだけ立って。二三枚だけ、写真撮るわ。そしたら、座って集合写真。あきちゃんと醍ちゃんと風遊さんの写真をとらなぁな?」
二三枚、写真を撮り、目を伏せた横顔に、何時ものえへへっと照れたように首をかしげる顔も撮る。
様子を見守っていた麒一郎と晴海も微笑む。
そして、今度正式な夫婦、家族になる3人を撮ると、
「おじはん、おばはんも、こっちに、一緒に撮りますよって」
糺も含め6人の写真を撮る。
一番疲れているだろう穐斗は、早々に着替えをさせて横に休ませる。
写真を撮るのは標野のため、脱がせたのは紫野である。
「紫野おにいさん。ありがとう。綺麗にとれたかなぁ?」
「そら、京都にもおらへん程のべっぴんさんや」
「本当?じゃぁ、京都の……おじいちゃんやおばあちゃんに見せたらどうかなぁ……」
化粧を落としつつ、紫野は、
「あんベベは、おかあはんが嫁入り前に気にいっとったベベなんよ。おかあはんは賀茂の祭の斎王代に選ばれた京都でも知られたべっぴんさんでなぁ」
「じゃぁ、おじいちゃんが一目ボレ?」
「いや、逆やて。おかあはんが、おとうはんに一目惚れで、住んどんが、下鴨のほうやのに、松尾の店にかよて、で、好きなんや言うたて聞いたわ。おとうはんはビックリして、『……はぁ、そうでっか』しか返さへんかった言うて、『いややったら嫌て言うてください‼』言うたら、『あての作る菓子をいつもおいしいおいしい言うて笑うてるのがうれしい』言うて、結婚やて。おとうはんの名前は嵐山。嵐山から名前とっとって、おかあはんは櫻子。醍ちゃんの醍醐は、歴史であるやろ?豊臣秀吉の醍醐の花見から取ったんやで。おとうはんが、おかあはんの櫻子から選んだらしいわ」
「わぁ……おばあちゃん。写真見せてもらったけど、とっても綺麗で上品で、優しそうな人やなぁって思った通り。おじいちゃんも、すごいなぁ」
横にさせ、
「後で見せたげるわ」
「うん」
犬たちに囲まれ目を閉じた穐斗の頭をなで、
「じゃぁ、ちょっと待ちぃや?」
と戻っていき、その後、入れ替わるように糺が、
「あきちゃん。写真見る?」
と声をかけ覗き込むと、目を閉じ、穐斗がぐったりとしていた。
「あきちゃん?あきちゃん?」
そっと揺するが、呼吸は浅く、目を開ける様子はない。
「おじいちゃん‼おばあちゃん‼あきちゃんが‼」
糺の悲鳴が響いたのだった。
「みとうみ、これがベベで、帯にかんざしや。最近は着物を着るんは減ってきとるけど、綺麗やろ?」
「昔の十二単は色あわせを楽しんで、景色ごとに、重ねる色を変えていきはったんで……でも、あきちゃんは、こっちの大人びたんよりかいらしいこの色があうんちがうやろか?」
「わぁぁ……桜、あれ?母さんは、黄色の……でも、うわぁぁ‼帯が綺麗な形になっとる」
「こ、この年で、恥ずかしいわ」
先に着替えを恋人の醍醐に手伝ってもらっていた風遊は頬を赤くする。
「いややわ。かいらしいのと、大人びたのを選んだんよ。上は落ち着いた黄色でグラデーションになっとってなぁ、下が緑。やけどなぁ、地味に見えて、華やかな桜でなぁ、おかあはんが気に入ってなぁ……これを仕立ててもろうたんや。あぁ、あきちゃんは、あんまりきつうないようにするからなぁ?つろうなったら休もうな?」
「写真とってくれる?スゥ先輩と母さんとお父さんと。撮って祐也とひな先輩に送るんよ」
「かまへんよ~かいらしにとるわ。言うても、元々かいらしいからなぁ」
糺は、ほぼ自分で着物を着たのだが、紫野が、
「スゥちゃん、それは合わへんわ。帯のかたちがおかしいて、べべにあわひん」
「そうですか?」
「スゥちゃんの実家はアホやなぁ……こないにかいらしいむすめを、可愛がりもできひんのや、やから、今はあの状態やで」
「えっ?あの状態って……」
はっとする。
標野は、あっさりと、
「スゥちゃんを急いで嫁に出そしたんはなぁ、スゥちゃんのおとうはんとおにいはんが怪しい株に投資して騙されたんやと。その借金を帳消しにしてもらうんやって」
「気にせられん。あそこの家がおかしいんやて。それより、ひなぼんとどないなん?」
紫野に、頬を赤くする糺。
「なかようてご馳走さん。でも、前におうたときよりも、優しい顔しとるで」
「でも、いつも言い合いばっかりで……癇癪起こしてしまうから……嫌われとったらどうしよう……。い、一緒に本当はイングランドに行こうって言ったのに、駄目って……」
「いやぁ、あのひなの性格やったら、先に取材に行って大丈夫やて解ってからつれていくんやないかなぁ?」
「そやな。あのひなは、見た目と内面が全く違うわ。正反対」
「ですかね……最近、手繋いでくれないし……」
ブー‼
双子が横を向いて吹き出す。
「な、なんですか‼」
「い、いやぁ……あのひなが手を繋ぐ言うん想像できひんかった……」
「はい、あきちゃんはお座りや。お化粧と髪飾ろか」
何故か一人、重たい帯に、よろけそうになるのをこらえていた穐斗は座らせてもらい、そうすると、大胆に刷毛で白く化粧をして、最近の流行である、まつげをクルンと持ち上げる。
「まつげ足さんでも長いなぁ……マスカラだけちょっとたそか。それと目尻に入れな……それに、醍ちゃん。手伝い」
「なんか、娘の着付けの手伝いしとるようですなぁ……あぁ、穐斗。動いたらいかんよ?」
標野がかつらを乗せて、かんざしをさし、その間に、醍醐が紅を指す。
「ほーら。みとうみや。藤娘やのうて桜姫や」
大きな鏡を目の前に差し出され、穐斗はパチパチとまばたきをする。
「これ……僕?」
「私の方が可愛いと思うわ。ちょっとだけ立って。二三枚だけ、写真撮るわ。そしたら、座って集合写真。あきちゃんと醍ちゃんと風遊さんの写真をとらなぁな?」
二三枚、写真を撮り、目を伏せた横顔に、何時ものえへへっと照れたように首をかしげる顔も撮る。
様子を見守っていた麒一郎と晴海も微笑む。
そして、今度正式な夫婦、家族になる3人を撮ると、
「おじはん、おばはんも、こっちに、一緒に撮りますよって」
糺も含め6人の写真を撮る。
一番疲れているだろう穐斗は、早々に着替えをさせて横に休ませる。
写真を撮るのは標野のため、脱がせたのは紫野である。
「紫野おにいさん。ありがとう。綺麗にとれたかなぁ?」
「そら、京都にもおらへん程のべっぴんさんや」
「本当?じゃぁ、京都の……おじいちゃんやおばあちゃんに見せたらどうかなぁ……」
化粧を落としつつ、紫野は、
「あんベベは、おかあはんが嫁入り前に気にいっとったベベなんよ。おかあはんは賀茂の祭の斎王代に選ばれた京都でも知られたべっぴんさんでなぁ」
「じゃぁ、おじいちゃんが一目ボレ?」
「いや、逆やて。おかあはんが、おとうはんに一目惚れで、住んどんが、下鴨のほうやのに、松尾の店にかよて、で、好きなんや言うたて聞いたわ。おとうはんはビックリして、『……はぁ、そうでっか』しか返さへんかった言うて、『いややったら嫌て言うてください‼』言うたら、『あての作る菓子をいつもおいしいおいしい言うて笑うてるのがうれしい』言うて、結婚やて。おとうはんの名前は嵐山。嵐山から名前とっとって、おかあはんは櫻子。醍ちゃんの醍醐は、歴史であるやろ?豊臣秀吉の醍醐の花見から取ったんやで。おとうはんが、おかあはんの櫻子から選んだらしいわ」
「わぁ……おばあちゃん。写真見せてもらったけど、とっても綺麗で上品で、優しそうな人やなぁって思った通り。おじいちゃんも、すごいなぁ」
横にさせ、
「後で見せたげるわ」
「うん」
犬たちに囲まれ目を閉じた穐斗の頭をなで、
「じゃぁ、ちょっと待ちぃや?」
と戻っていき、その後、入れ替わるように糺が、
「あきちゃん。写真見る?」
と声をかけ覗き込むと、目を閉じ、穐斗がぐったりとしていた。
「あきちゃん?あきちゃん?」
そっと揺するが、呼吸は浅く、目を開ける様子はない。
「おじいちゃん‼おばあちゃん‼あきちゃんが‼」
糺の悲鳴が響いたのだった。
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