現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第30話、イングランドに出発の前に醍醐さんのプロポーズです。

祐也ゆうやは、パスポートと最低限の荷物と共に、日向ひなたと出ていく。
しかし、イングランドに向かうには、家から街に向かい、そこの地方空港には直行便はなく、大阪の関西国際空港、もしくは羽田空港、そして成田という方法しかない。
そして料金も高くなるので、日向と安いネットでチケットを購入し、その飛行機で移動することにした。
ちなみに、祐也は未成年の上にクレジットカードはなく、バイトもしていたが、そこも辞めてしまい、無一文同然である。
その為日向が立て替えたのだが、麒一郎きいちろうが、

「わしらがだそうわい。うちのことや」
「いや、じいちゃん。俺、ちょっとだけ調べたいことがあるんよ。前にスゥの小説の題材にしよかおもとったんや。それに、その調べたもんが、ここで役に立ったらもらおうわい。やけんな、今回は取材や。通訳が祐也。ついでに穐斗あきとの病気について調べるってことで、ええんよ」

日向は笑う。

「それよりも、う~ん。プロバイダに連絡して向こうで使えるようにせないかんなぁ……」
「数日分にして、あとは向こうのウェインにでも相談したらいいんじゃないですか?それに、日本のネット料金って高いんですよ」
「あぁ、それは知っとる。一時的に向こうのにはいってもえぇなぁ」



祐也達を空港に送るのは醍醐だいご風遊ふゆと眠ったままの穐斗あきと
空港に送ったあと、前の救急病院ではなく、主治医のいる大きな町の病院に行き、穐斗のガーゼを取り除いてもらい戻るのだという。
ある程度の小道を穐斗に教わった祐也が、空港まで運転する。
が、今回は調子の悪い穐斗のためにカーブの多い山道ではなく、政和まさかずの家があるという海沿いに降りて走ることになった。
途中までは山の奥の奥と言う感じで、本当に海に出られるのかと心配していたが峠を越えると、遠目に空の青よりも濃い波がたつのが見える海が見えた。

「おぉ‼海や。ほんとに海や」
「降りたら、海沿いに大きい道やで。今日は風がつようないけん良かったわ。強かったら、波かぶるんで」

風遊が、一番後ろで穐斗をひざ枕をしているため、日向の横に座っている醍醐がかなり不機嫌であるのがよく見える。

「醍醐先輩。大丈夫ですか?」
「あぁ、ごめんね。いや、実は五月蠅い兄たちが、空港に着くんですよ。迎えにこい言うて、ほんとにうんざりや……」
「醍醐先輩のお兄さんって確か、紫野むらさきのさんと標野しめのさんでしたっけ?」
「そうや……あぁ、あいたないなぁ……」

醍醐の双子の兄たちは確か、醍醐よりも8才上。
つまり、28歳である。

「結婚してるんですか?」
「しとったら、おとおはんとおかあはんはなかよう隠居するんやけどなぁ……あのアホにいはんらは、結婚せんのと違いますやろか……」
「双子だから、好きな相手が一緒とか?」
「それやったらまだましや……あのにいはんらは、一卵性双生児で瓜二つなんどす。で、自分の顔が好きや言うて、しかも二つやさかいに、お互いの顔見てウットリや。はたでみとったら不気味やで……」

遠い目をする醍醐。

「しかも、それやったら二人でセェや、おもっとったら、あてが生まれて、あてはおかあはんににとるもんやさかいに……こどもんころから、きれぇなべべ着せてもろて……」
「もう少しで、舞妓さんになる所やったんやと」

親友の日向が口を挟む。

「それに、友人関係だの、いろいろ口を挟むんで、ご両親も怒ってしもて、醍醐を高校の時から別の町の親戚に預けて行かせよったんやと。やけど、すぐに居場所を見つけてしもて、あかんってことで、醍醐にどっか行って、好きなことセェや言うて、だしてもろたんやて」
「ようようあても、楽になったいうのに……あぁ、もう、堪忍や……」

本気で半泣きの醍醐に、風遊が、

「うちにおったらええんよ。田舎いうもんは、ふるさとってことや。生まれはどこでも、人は、いきるときに思うんは、森や川や、海や、田んぼに畑。他にはなんもないけんど、逆になぁ、ないけんこそ、皆にもんてきてええんよ言うて言えるんや。うちも、若い頃は田舎飛び出して、留学制度利用して、ヨーロッパに転々としよったけど……いくら美しい町で、エエもんがあっても、かえろかなぁって思うんは家やったわ。穐斗抱えて育児放棄されとった夏樹なつき連れて、もんてきても、最初は驚かれたわ。けど、父ちゃんも、母ちゃんも、夏樹連れて遊びに行って、よう病気しよった穐斗が熱出した言うたら看病してくれて……、ここがうちのふるさとなんやなぁ思たんよ」

醍醐は目を丸くする。

「いつ出ていってもかまんのよ。醍醐くんや日向くんや祐ちゃんの家はここにあるけんなぁ。安心しいや、言うてあげるけんな?」
「じゃぁ……おってもええんですか?」

醍醐の問いかけに、

「ほやねぇ。いくらでもおりんさいや。その代わり、畑と田んぼと山で、肉や魚は買うけんど、ほぼ自給自足やけどなぁ。お嫁さんがかまんいうたら、いつまででも」
「やったら、風遊さん。あて……私のお嫁さんになってください‼」

横で、日向がぎょっとし、祐也は危うく崖から転落……寸前に急ブレーキを踏む。
穐斗が落ちそうになり、風遊が慌てて抱き締めると、醍醐を軽くにらむ。

「何いよんの。おばはんをからかうんはやめてぇや。怒るで?」
「本当です‼ここで皆のまえでって言うのは、ちょっと残念ですけど、私は、嘘は嫌いですし、それに、一緒にいたいんです‼体調が悪くなる前に穐斗くんにもちゃんと伝えてます‼それに、ひなや祐也くんにも‼」
「あのなぁ?うちは、醍醐くんのひとつ違いの息子もおるんよ?それに、醍醐くんは将来があるやろ?」
「一緒にいたいんです‼年下でも、なんでも。一緒にいたいんです‼」
「じいちゃんとばあちゃんと、穐斗も……それに田舎暮らしは大変やって……」

困ったような風遊に、醍醐は笑う。

「かまん。風遊さんやみんながおったら、私は、幸せやと思います」



風遊は頬を赤らめ、もじもじと、周囲は運転と、イングランドに向かうことに集中するなか、醍醐は一番嬉しそうだったのだった。

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