現世(うつしよ)と幻(うつつ)の世界で……

ノベルバユーザー173744

第19話、祐也の部屋は、隠居の別棟の穐斗の隣です。

まずは、華奢な穐斗あきとを抱え、歩く。

「あぁ、着替えは……」
「お母さん。俺の荷物は後で取りに来ますから、穐斗の多肉植物達を」
「そうしようわい。祐也ゆうやくん……祐くんは、重ないんかね?」
「軽いですよ。本当に俺、高校時代は柔道部だったんですよ。大学も先輩とか同級生には今でもこいこいって言われてますね。でも、道場に通っているし、毎日走ってますし、図書館や学校で穐斗と話してる方が楽しいです」

軽々と抱かれる息子を見上げ、

「ホントに、穐斗は大きいならんかったなぁ……うちに似たんやなぁ……。もっと背ぇ伸びたら、良かったのになぁ。のんびりしとるけんなぁ。よぉ泣かされとったし……」
「でも、穐斗の優しさに皆、癒されて同じHRの女の子はチャームって言うんですか?それを作ってあげているそうです。それで、聞いたら、この間俺にも作ってくれたんですよ」
「あぁ、穐斗は手先が器用やけんねぇ……」
「それに、サークルの先輩の趣味が和菓子を作ることなんですけど、何時も食べさせてくれるからって、多肉植物をプレゼントしたら、喜ばれて先輩の部屋に飾られているそうです」

母屋に向かい引戸を風遊ふゆが開けると、祐也は声をかける。

「ただいま帰りました~‼じいちゃん、ばあちゃん。こんにちは~‼」
「よぉ来たなぁ~祐坊ゆうぼう

障子が開かれ、顔を覗かせるのは、ほりごたつに入っている、穐斗の祖父母、麒一郎きいちろうと、晴海はるみ

「元気やったかね?テレビのはなん考えとんかいのぉ?祐ちゃんはそがいなことせぇへんのに。はがいぃわ‼」

一番最初に祐也に、畑仕事の大変さを教えてくれた晴海は、コツをすぐ覚えて手を貸してくれた上に、荷物を運ぶのも率先して動く祐也に当初ビックリした。
その上、体力仕事も苦にせず、麒一郎がお風呂用の薪を割っていたのを代わるようになり、最初はもたついていたが、一月の間には、毎日毎日黙々と薪を割り続け、麒一郎の土地の倒木なども取り除いてそれも、枝葉を取り火を起こせるようにしておいた。
年もあり、少々苦痛だった薪割りを代わってくれた祐也に、

「だんだんなぁ」
「いえ、これは本当に大変だぁぁ。じいちゃんは今までずっとやって来て、すごいわぁ‼」
「いやいや。本当はなぁ、ガスとか電気で沸かせばええんやけどなぁ、違うんや。普通に薪で沸かした風呂に入ったら、入れんで。水もこの山の上から涌き出しとる綺麗な水やけんのぉ。優しいで。それにこの生活が元々よ。ご先祖さんから代々この生活をしとるんで……捨てたら、ご先祖さんが泣くで」

そう言われ、汗をかいたその日の夕方、お風呂にはいると、

「……はぁぁ?違う‼『ぬくい』って、こう言うのか‼それに、夏だけど出ても、汗がかかない‼隠居に浴室があって、母屋までは歩いていく間に風がすぅっと流れて、気持ちいい‼冬は寒いのかなぁ」
「ここに、18リットル缶で、薪に入れとるけんなぁ。ぬくいんよ?」

待っていた穐斗が示す。

「じいちゃんたちやおばちゃんたちが、お茶飲んだりもしよるんで」
「中は?」
「雪が降りよったらやけど、ちょっとした話やったら、そこらの、丸太に腰かけて話しよらい?」

地元に戻ると言葉も戻るのか、方言でしゃべるのだが、穐斗のは、元々年齢よりも幼い印象が、益々可愛らしい感じになる。

「やけんなぁ、薪はそこの蔵にくっつけて積み上げとるけん、すぐにとれるやろ?ほれに、ここはお日さんがよぉ当たるけん、集まるんよ」
「はぁ……エェなぁ」



と言っていた夏が、もうすぐ冬。
雪は降っていないが、景色は変わっている。

玄関の下にはむろがあり、いろいろと保管しているらしい。

「ようおいでたなぁ。祐ちゃん。まぁ、冷えたやろ?おはいりや~」
「あ、穐斗を休ませないと……」
「こっちにいれとぉき。祐ちゃんもおはいりや?」
「あ、荷物もって来ます」
「持ってきたで。隠居の入り口においとるけんな?」

風遊は笑う。

「ありがとうございます‼じゃぁ、ただいま帰りました‼」

と遠慮なく入っていく。
深い眠りについているらしい穐斗をごりごたつに入れて、自分も入る。

「わぁ……ぬくいですねぇ‼」
「足下きぃつけや?下は炭に火を入れて、鉄の柵をはめとるけんね。火傷せんようになぁ?」
「はい。あ、見てもいいですか?」

こたつ布団をめくり、確認する。
炭の白い燃え残った後と、対比する赤い色が、暖かく優しく映った。

「はぁ……これが、ぬくい。なんやなぁ……こんなに世界はぬくうて優しいのに、人は冷たいんやろなぁ。じいちゃんもばあちゃんも、お母さんも優しいで?」

顔をあげてニコッと笑う祐也に、3人は顔を見合わせ、

「うもうなったなぁ?」
「穐斗に教えてもろたけんな~。わがうまなったんは、穐斗のお陰なんや」
「あははは」

笑い声が弾ける。

ストーブの上で沸かしていたやかんから、お湯が注がれ、お茶が出される。
お茶碗を両手で包みながら、田舎の方言がポンポンと飛び交う暖かい母屋のなかで、祐也はホッとしたのだった。

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