住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

ゲーマーさんはフリーダム

「よし、店を開けるか」

全ては長門さんのこの言葉から始まりました。
さっきまで、止さんに抱き付いてたのに、すっと表情を変えてキリッと言いました。

あまりの変わり身っぷりに思わず、「あっはい」と答えてしまいました。

あっはい、じゃないでしょう、色々問題があるでしょう! そんな突っ込みを心の中でしていると、私を除いて皆は更衣室に行っちゃいました。

えっえぇ……。
止さんも七瀬さんも突っ込みは無しですか?
あるでしょう、今開けるんですか? とか、今更でしょう! とか。
そう言うの……無しですか。

「……行きますか」

まぁ、無いんでしょうね……ここは、私も何も言わずに頑張りましょうか。
かなり、ふに落ちないですけどね。


「いらっしゃいませぇ」

止さんがレジで元気に挨拶しています。
はい、お店を開いてお仕事開始です。
午後から開くコンビニってなんなんでしょうね? それに、今日は1度店を閉めたんですよ? それなのに平然とお店を開く……可笑しなお店ですね。

なんて思いながら、私もレジに立ってレジ打ちしています。
今日は、可笑しなお店の開き方をしたのに、お客様は来てくださってます。
ありがたいことですね。

「ありがとうございました」

レジ打ちが終わって、ぺこりと頭を下げます。
さて……こうやって働いてる訳ですが、止さんの様子が気になります。

ちらりっ……。
止さんの方を見てみると、少しぶかぶかのお店の制服を着た止さんがいました。

……制服姿、似合ってますね。
見るだけで、どきどきして来ましたよ。

なんと言うか、ぶかぶかで袖から手が出てないのが良いですよね。
そして止さんは良く笑いますからね……その可愛さも加わって更に、どきどきしてきます。

あぁ……無性に抱きしめたくなります。
……は! おっ落ち着け私! それをやったら止さんに引かれます!

ごっ強引ですが話を変えましょう。
えっえと、彼女は背が低いので、木箱の上に乗ってレジ打ちしています。

「えぇっと、温めるか?」
「あ、お願いします」

首を少し傾けて聞くと、お客様は軽く頭を下げて言います。
ふむ……ちゃんと働いてますね。

仕事をほっぽって、ゲームを買いにいく位ですから、不真面目なのかと勝手に思ってましたが……そんな事はありませんでしたね。
立派に働いてるじゃないですか……いやぁ七瀬さんと同じく真面目に働いてる人がいて助かります!

ここで、長門さんの方を見ます、彼女は今……。

「良いか? 曲がり角で女にぶつかったらお前も尻餅を付け! 基本だぞ!」
「……え、あっ……え?」

男性客を捕まえて、また迷惑極まりない事をしています。

「では、もう一度曲がり角でぶつかって来ると良い、私に構わずドンと来い!」
「あ……えと、ぶつかるのはちょっと」
「なっなにぃ!? 軟弱な男だなお前は! 良いか? 恋愛漫画に出てくる男はお前みたいにヘタレじゃないんだぞ!」

……あぁ、そろそろ止めた方が良いですね。
あのお客様、物凄く困ってる、そう思った時でした。

「長門、ストップ」

七瀬さんが長門さんを羽交い締めしました。
その隙に男性客は逃げます。

「うぉっ! こっこら七瀬! 何をするっ」
「ダメよ長門、あまりお客を困らせてはダメ」

ジタバタする長門さんですが、後ろからしっかり羽交い締めされてるので離れられません。
ナイスです七瀬さん、お陰で迷惑行為を妨害できました。

「くっ、正しい曲がり角の活用法を教えられなかった……」

なんですか、正しい曲がり角の活用法って……はじめて聞きましたよそんな事。

呆れた私は、止さんの方に視線を移します。
長門さんは、止さんを見習うべきです。
彼女は今も真面目に仕事を……。

「いやぁ……コンチキは久し振りに食べたけど、うんまいなぁ」
「してません!? 普通にレジにあるファストフード食べちゃってますぅぅっ!」

え? え? さっきまで普通に接客してませんでしたか?
なに、品物を勝手に食べてるんですか?
あまりの出来事に困惑する私……。

そんな私を見向きもせずに、幸福感に満ち溢れた顔でコンチキを食べます。

「ふぅ……ごちそうさまっ、よし! 飲み物のもっと」

そう言った止さんは、木箱から飛び降り、とててーっとドリンクコーナーの方へ走っていきます。
とっと言うか……今の止さんの台詞、衝撃なんですけど。

なんですか? ナチュラルに言い過ぎじゃないですか?
ここ、貴女のお家じゃありませんよ?
だから……職務中に飲食宣言しないで下さい。

「ぷっはぁっ! やっぱりジュースはコーラだよな!」

美味しそうに飲んでいる止さんを見て私は思いました。
これはまた、ドギツい問題を起こす人が現れましたね……。

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