住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

恵さんは声高らかに言っちゃった 2

胡桃とか言う男を探しに来て初っぱなからド派手な歓迎を受けた俺達、恵様親衛隊。
恐怖が全身に襲うなか俺は皆に「皆気を引き締めろ」と鼓舞する。
それを聞いた我が隊員達は顔を引き締め始める、どうやらまだ心が折れていないらしい。

「もっ申し訳ありません、店長が迷惑を掛けました」
「あっ、いや、はい、いえその、だっ大丈夫でです」

こいつ等の精神力も強いなぁと思ってた時だ。
赤髪ショートヘアの女性店員が謝ってきた、それに返事する俺は見事に噛みまくりキョドってしまう。
くっ、女子との付き合いは皆無だからな……話し掛けられるのは苦手だ。

「そっそうですか? ではゆっくりしていってくださいね」

そんな俺のキョドりを見ても平気な顔でにこやかに言ってくる赤髪ショートヘアの店員さん。
おっおぉ、こう言う変な人だなって身構えない対応って助かるわ……俺、女子との会話は皆無だからな、話し掛けられたら100%キョドるんだよ。

そんな俺が恵様親衛隊の隊長になってるのは不思議だろ? 実はな、これには深いわけがあるんだ。
何を隠そうこの俺は恵様に、なんと! なっなんと! ハンカチを拾って貰った事があるのだ!

ふっふふっ、あの頃を思い出すとニヤけてしまうな。
あれは入学してちょっとたった頃だ。
俺がトイレに行った帰りの事だ、何気無く歩いてたら前に恵様が歩いて来た。
「マジかっ!」って思った、廊下で偶然出会うとか奇跡ですか? って叫びをあげたかった。

けれどやめた、だってそれをしたら周りの奴等に白い目で見られるからな。
歩いてたのは俺と恵様の他にもいた、叫ぶ時はTPOを守るさ。

と、叫ぶとか叫ばないとかはどうでも良い。
恵様が前から歩いて来た事に有頂天の俺はうきうきだった。
その時もしかしたら軽くスキップしたかもしれない。

で、恵様が俺を通りすぎたんだ、その時だ恵様が……。
「あっ、ちょっと待って」と言ってきたんだ、なんと幸運な事に俺の肩を軽く掴んできた。

何事だと思って「ひゃっひゃはい!」と言って振り返った、そこには……微笑む女神様けいさまがいて「ハンカチ落としたよ」と言って手渡して来たんだ。
今この瞬間死んでも良い幸福とはこの事か! 内心でそう叫んだ。

俺がハンカチを受け取った時、恵様は「次は落としちゃダメだよ?」とはにかんで去っていった。
俺はその場に暫く立ち尽くした、こんなもん惚れてまうやろ……。

そこからだ。
俺のあの体験を見てた他の奴等が俺を「まるで恋愛漫画の様なシーンだった」とか「俺ならあんなの体験したら変にキョドってしまうのに、山田っ、お前はクールな顔で切り抜けた!」とか言って褒め称えられた。

クールな顔? 俺、そんな顔してたんだな。
思い切りキョドって喋ったんだが……まぁそこはいい。
そこから生徒の1人が「山田を筆頭に親衛隊を作ろう」となって恵様親衛隊が結成された、これが親衛隊結成秘話だ。

「あっあの、お客様?」
「はっはひ!」

うぉっと、長々と物思いにふけってしまった。
赤髪の店員さんは困った顔で俺を見てきている、なっなんとかして誤魔化さねば。

「えっえと、ゆっゆゆっゆっくりして、いっいっきましゅ」
「え? あっはい……ごゆっくり」

ふっ、噛みながらであるが上手く切り抜けてやったぞ。
赤髪店員さんはペコリと一礼して俺の前から去っていく、その瞬間親衛隊の方に振り返り「各自胡桃とか言う男を探せ、名札を見れば一発だろう」俺のその言葉に頷く皆。

コンビニ店員は胸元に名札をつけているもの、胡桃の手懸かりはそれだけだ。
今ここにいる店員は3人、俺はこの店に来た事無いからな……。
全員を調べる必要があるだろう、それかここに来た事がある店員に聞く必要がある。

あっ、そういえばあの赤髪店員さんの名札見てなかったな。
女性だから変に緊張して見るとかそう言うの考え付かなかった! 一生の不覚だな。

まっまぁチャンスはあるさ、俺達は必ず胡桃とか言う男を探しだして見極めて見せる、絶対にだ!

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