住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

出合いの話っ 1

12月31日午前10時30分、田舎に暮らして24年、そんな大晦日も今日で終わってしまいます。

あっ、自己紹介が遅れました、私、桜塚胡桃さくらづかくるみって言います。
良く瞳が紅くて鋭いから怖いイメージを持たれるけど全然そんな事がないふつーの人です。
体型はスマート、不服な事に胸までスマートなんです……そう言うの不公平だと思います。

「うぅ寒い寒い」

生まれつきのハスキーボイスでそんな事を呟いて冷たい空気が流れるきんきんに冷えきった廊下を小走りする私、その際に赤毛のショートヘアがゆさゆさって揺れました。
暖かい服装をしていても寒い物は寒い、例え部屋の中でマフラーをしていても寒い物は寒いんです!
一刻も早く私は炬燵のある部屋にいかなければならないんですっ、そしてそこでアイスを食べるんです!
その為に私っ既にアイスを持っていますっ。

「10個限定のアイス、これを手にいれるのに私は苦労しました」

このアイスを手に入れるのにこの村のバスで駅まで行ってそこから4駅先の駅前スーパーに行ってまでわざわざ手に入れたアイス、あのときの苦労を思いだしカップアイスを握り締める。

この際にちょっと溶かすと言う意図をいれている私は計算高いと思います。
このアイスはそのままだと凍ってて食べられないので少し溶かしてから食べるんです。

おっと、そんな事を考えてる場合じゃない、早く炬燵を占拠しないと炬燵でアイスが実現不可能になってしまう。

なんとしても私は炬燵でアイスを食べないといけないんです!
何故なら甘い物が好きだからっ、冬は炬燵でアイスを食べるのが伝統行事だからなんです! こればかりは誰にも邪魔される訳にはいかないんです。

と言う意気込みを抱えて炬燵のある和室に到着、スポーツ選手も驚きの速さで炬燵に入り込みスイッチを入れる。

「まだアイスは我慢しましょう、炬燵が温くなったら食べ頃、むふふぅ」

その頃にはアイスも少しは溶けている筈、至極の時間が来るのは時間の問題なんです! そしてこれはこの後起きる事に対しての緊張を解す為の儀式でもあるんです!

ん、この後起きる事って何?ですか? それは……私の地元に社長が来る日なんです! 周りが田んぼと畑でいっぱいの田舎にだ!

勿論此処に住んでる人達は大騒ぎでした、私の家のお隣の十成となりさんなんか驚き過ぎて腰を抜かしたとか、そりゃそうだよね? こんな田舎に都会の社長なんて来る事なんて初めてだもの。

「胡桃ー、社長さんいつ来るのー?」
「もう直ぐだよー」

外では雪が降って田んぼや畑が全て埋まって真っ白になっている、もう長靴履かないと歩けないくらいつもってしまっている。

だけどそんな問題も家の中にいる私には関係ないのです、和風の佇まいの部屋、炬燵が暖まってきてテレビをつけてほんの少し溶けたアイスクリーム片手にお母さんの応答に答える。

実はお母さんは出掛けるところで玄関にいる筈、だから姿はなくて声だけが聞こえるのです。

「そうなの?お母さん出掛けるけどちゃんとしなさいよー」

普段でも声が大きいお母さんが更に大きな声で叫んでいる、「煩いなぁ」と思ってアイスを一口口に含んでごくんと飲み込み「分かってるよー」と大声で答えました。

そしてまた1口アイスを食べます、そして一言呟いてしまいます。

「社長ここに来れるかなぁ」

外は大雪、都会では電車なんて止まってるだろうし、此処いらのバスも勿論止まっている。

「1ヶ月前に電話して今日来るって言った時は驚きでした」

うん、あの時は驚いた……そりゃもう「ふわぁー!?」って驚いた。

さて、そろそろ社長がどうして来るのかの説明をしなければいけないですかね? うんしようそうしよう、という訳でざっくり話しますね? それは1ヶ月前の事です……。

 日にちは11月30日、時刻は午後5時、その時はアイスではなく自作のプリンを炬燵に入って食べてたら1枚のチラシに目が入ったんです。
何気なーくそのチラシを見てみたらこんな事が書かれていました。

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従業員求む!

資格不要、学歴関係無し、元気な人は是非来て下さい
因みに住み込み就職です!

・店名 こんびに
・場所 東京都天川市長野原町
・仕事内容 コンビニと同じ
・営業時間 PM7:00~AM9:00 
・勤務時間 PM6:00~AM9:30 休憩あり
・給金 時給2000円 UPする可能性あり
・各種サービス 生活費全額負担、後は秘密
・責任者兼店長兼社長 天塚あまつか長門ながと
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なんと求人のチラシでした、内容はコンビニ求人見たいですね、しかも住み込み就職と来ましたか……何か凄いです、で、店名がそのまんま"こんびに"って酷い手抜きじゃないですか? しかも仕事内容がコンビニと同じって……ざっくりし過ぎでしょう!

つっ突っ込み所が多すぎな気もしますけど中々どうしてお給料が良い……しかもサービスも良い。

ふむ、住み込み就職かぁ、私フリーターだからなぁ、そろそろ定職につきたいですよねぇ、この仕事場は良いかも知れないですね、資格もいらない様ですし。

まじまじとそのチラシを手に持ち暫く見てみる、ん? この責任者兼店長兼社長の所に書いてる名前……何処かで見た事があります。

ぱくりっはむはむっ。
プリンを食べながら考えて見る、天塚 長門、あまつか、んー、はっ!

「天塚ってあの天川コンチェルンの女社長の事じゃないですか!」

天川コンチェルンとは! 今絶賛爆進中の大手企業、レジャーに食品に家電まで幅広くやっている会社です! 更に最近新しい街を造っちゃった凄い人じゃないですか!

「えっえっ……えぇぇ!?」

なっなんでそんな人がコンビニの店長やってるんですか?こっこれ詐欺何じゃないですか?

「おっおかーさん!」

とっ取り合えずこのチラシを何処で手に入れたか聞こう。

「なぁーに?」

あっ声が聞こえて来た、何処かで何かをやっているのか此処には来てくれない。

「炬燵の所に置いてたチラシ何だけどー」

こう言う事は家では良くある事なので気にしない、桜塚家では離れて会話しても誰にも文句を言われないのです。

「えぇっチラシぃ? あぁそれね」

ほらお母さんも普通に声掛けて来たでしょう?ふつーに会話出来てるでしょう?

「これどうしたの?」
「それ貰ったのぉ」

そんな感じで会話してたら「貰った」とか聞こえて来た、ふむ、貰ったと来ましたか。

「何処で?」
「公民館で」

ほぉ公民館、何故こんな田舎の公民館に大企業の会社のお店の求人チラシが配られるのかは分からないけど、多分恐らく30%くらいの確率で詐欺では無いと思いました。

「あんたフリッターでしょう?お仕事探して来てあげたわよ」
「あっありがとー、あとフリッターじゃなくてフリーターね」

フリッターだと揚げ物の一種になってしまう、私は揚げ物屋の回し者ではない、ただのフリーターです!

「どっちも同じよ」
「同じじゃないよ!」

家のお母さんは結構抜けている事があるんです、それで困る事もしばしば、もっとちゃんとして欲しいですねぇ。

「ふふっ、まぁ電話して見たら?」
「もぅ、笑い事じゃないよぅ」

いっつも注意しても直らないからもうほっておきましょう。

「って、電話ぁ!?」
「そっ今電話しなさい!」

こっこの親は何て事を言うんだ!

「今からとか無理だよ!考えさせてよ」
「あんた今しないと何時定職に就くのよ!こんな良い店2度と無いわよ」

ぐぐはぁっ! たっ確かにお母さんの言う通り……今を逃せばもうこんな良い条件のお仕事なんて無いかも知れない。

だって今まで求人チラシの中でも断トツで良い仕事なんですっこんなの誰だって食い付きます! だからこそ、今したとしても出遅れなんですよ、仮に間に合ってもあんな大手企業に働くなんて荷が重すぎます、私には無理ですよ。

「今電話しないと今後甘い物禁止にするからね!」
「今すぐ電話しまーす!」

ふぅ、一体何に怯えてるのでしょう、チャンスが有れば飛び付こうじゃないですか! あっ、これは甘い物禁止令が出されそうだから嫌々するんじゃないんですからね?

そんな私は、ぺたぁと炬燵にもたれ掛かりつつスマホを取り出します。
電話しろって言われたけど今してもいいんですかね? まっ良いでしょう……じゃぁ電話しましょうかね、チラシを見てお店の電話番号をぽちぽちぽちりっとタップする。
最後に通話ボタンをタップ……そしたらプルルルって鳴りました、直ぐに耳に当てて出てくるのを待つ、でっ出て来れるのかな? 誰が出てくれるのかな? 軽くぱぱっと電話したけど、もう少し考えてからすれば良かった。

うぅぅっ後悔しても仕方ないですよね?だっ誰が出てこようとも受けてたつましょう! 気合い入れの為にプリンを食べる……はぅぅ甘いぃ、よしっ緊張が解れましたっどんとこい!

『天塚だ、何か用か?』

ってうわわわ繋がった!

「はっはひっ桜塚でしゅっ今お時間大丈夫でしょうかっ」

あぁ思いっきり噛んじゃった……だだっだって緊張するんだもの噛むのはしかたないんですぅ。

『うむ時間は大丈夫だぞ』

電話に出たのは女の人でした、すっごく格好いい声の人ですね、えとっ名前何てっ言ったけ?忘れちゃいました。
ととっ兎に角用件を言わないと。

「そっそうですか、えと私あのえと、ちっちちっチラシをを!」

だっ駄目だ、緊張して上手く喋れない! 糖分とったのに緊張が解れません。

『落ち着け、取り合えず深呼吸しろ、すぅはぁってしろ』

と、電話相手さんがこんな事を言ってくれた、やっ優しい、よしっ深呼吸しましょう、すぅはぁってしましょう。

「すぅはぁ……」
『よししたな?緊張解けたな?』
「えっあっ、はい解けました! 多分」

なっ何か調子が狂ってしまいました、お陰で緊張は少し解れましたけどね。

『そうか解けたか、では用件を……と、チラシがどうのと言ってたな』
「あっはいそうです、チラシに書いてた求人が気になって電話しました!」

やっとの事で用件を話せました、ふぅこれで一安心ですね。

『おぉそうか、それは何よりだ』
「そっそれでですね、お話を」
『いや、それは直接会って話そうじゃないか』

あっ会って話す?でっでも。

「あっあのお店って、東京にあるんですよね?」
『そうだが?』
「あっ会うには難しいと思いますよ?」

だっだって此処、和歌山なんですから!

『そうだなお前は和歌山にいるんだよな、今特定した、ちょっと遠いな』
「そうなんです、ですから会うのは、えっ特定?」

なっなんか物騒な言葉がさらっと聞こえましたけど気のせいですよね? うん、気のせいです、だってふつー電話してて特定と言う言葉なんて出る筈が無いんですもの。
とっと言うかどうやって場所を特定したのか分かりませんから、きっきっと聞き間違いですよ、きっと。

『だが案ずる事はないぞ、私は社長だ、大抵の事は出来てしまう』
「そっそうなんですか、へっ社長?」

今社長とか言いましたよね? こっこれも気のせいですよね?

『だから私が直接会いに行く、場所は特定したから大丈夫だ!』
「えっえっ、えー!」

また特定って言ったぁ!えっなにこの人怖い! なっ何者なんですかこの人ぉぉ!

『何を驚いている?』
「だっだだっだって特定って」
『落ち着け、すぅはぁってしろ』

すぅはぁ……って深呼吸してる場合じゃない! 迅速かつ早急に素早くこの人が何者か聞かなくちゃいけなくなりました! 怪しい人なら即警察に電話しちゃいましょう。

「あっ貴女は何者なんですか!」
『ん?さっき言ったじゃないか、全く最近の若い者は……おっと、これを言うと私が若くない様に聞こえてしまうな、わっはっは』

なんか笑いだしましたよこの人、更に怖くなってきちゃいました。

『ならば今一度言おうじゃないか』
「おっお願いします」
『私は天塚長門、天川コンチェルンの社長で こんびに と言う店の店長と責任者をやっている者だ』

天塚、あまつか……っ!!

「しゃしゃしゃ社長ぉぉぉ!?」
『おい大きな声を出すなっ落ち着けすぅはぁってしーー』
「しても落ち着けませんよ!」

あっあわわわわっ、まさか社長と話していたなんてぇ……おっおちっ落ち着かないとととっ、取り合えずプリンっプリンを……あぁっもう全部食べちゃってますぅ!

『慌ててる所すまないが今から日程を言うぞ』
「えっえー!」

にっ日程!? 何を勝手に話を進めてるんですか!

『日程は12月31日だ、恐らく午前中には着くだろう、ではまた会おう』
「ちょっ勝手に……切れちゃった」

反論しようと思ったらプツンっと切れた……あっあははっどどどっどうしよう。


 と言う事があって今に至ります、どうした?かなりドタバタしてたでしょう?

「社長……か」

電話して声を聞いて思ったけど、親しみやすそうな人っぽいですね、なんか洒落た言葉使いでしたし、きっと初対面の私でも優しく接してくれるんでしょう。

さすが社長器が違いますね。

「はふぅアイスおいひぃ」

そんな事を思ってアイスを一口……この甘さが全身に染み渡るんですよねぇ、でも随分溶けてしまいました……やってしまいたね、でも全部美味しく頂きますよ?

あっ、これから社長が来ると言うのにやけにリラックスしてるなぁと思いました? ふっふっふっ……電話した時は緊張しましたがもう大丈夫です、何故なら慣れたからです!

社長と電話すると言う貴重な体験を成し遂げた今、直に会うと言うのはちょろいもんなんです! あっ、ちょろいは言い過ぎました、半分位? いや55%大丈夫です!

「ふふっ来るなら来て下さいって事ですよ」

そんな事を口にした時だ。

ぺんぽーん……とインターホンが鳴った。
家のインターホンは ぴんぽーん でなく ぺんぽーん と鳴る、実際にそう鳴るんだから仕方無い。

「はーい」

もしかしたら社長が来たかも知れない、いや別の人かも知れないですね。

でっでも今日来るって言ってましたし、そっそそそう思ったらききっ緊張して来ました、いやしてない、緊張してない大丈夫!

心の中で何度も復唱していざ玄関へ、あぁ寒い寒い。

玄関に辿り着いたら深呼吸、すぅはぁ……よし決心が着いた。
さぁ、別の人か社長か……どっちですか!

「はーい、おまたせしま……し……た?」

ガラッと扉を開けたら驚いた。
だってガタイの良い男の人が黒服着てサングラス掛けてたんだもの、しかもかなり身長が高い、一気に私の顔が固まってしまいましたよ、こっ怖すぎて……。

「此処、桜塚 胡桃さんの家で間違いありませんかい?」

更にドスの聞いた声と来た、これあれだ、きっとあれだ、きっと`や`の付く自由業の人に違いありません、こっここはしらを切りましょう。

「いえちがいます、わたし桜塚ちがいます」
「えっ? ふふっご冗談を、此処に桜塚って書いてるじゃねぇですか」

しまった、ネームプレートの存在忘れてた! しかもカタコトで話してしまいましたぁっ。

「どうやら此処が桜塚家で間違い無いみてぇですね、さっ、 社長前へ」
「うむ」

あぁ何か知らないけど綺麗な女の人が後ろに隠れてた!

暖かくて高級そうな服を着てます、艶のある黒髪の長い髪、しかも高身長、眼が眠た目で黒い瞳、なっ何か凛とした立ち姿できれーですね、ってそんな事思ってる場合じゃないでしょう!

「あっあの」
「初めましてだな、貴様が桜塚胡桃か?電話の声と同じだからそうだろう?」

何か話そうとしたら話し掛けて来ました、だったら此方も話さないといけないですね、こっ怖くて話したくないですが。

「そっそうです、わっわわわ私が胡桃です」
「そうかやはり当たっていたか、私の聴力と記憶力も馬鹿には出来んな、わっはっはっ」

いっいきなり笑っちゃいましたよこの人! んう?何かこの感じに覚えがありますね、んー。

「こほんっ私は天塚長門だ、電話で言った通り話をしに来た」
「えっあっしゃっ社長でしたか! えっ遠路はるばるご苦労様です」

ぺこりと頭を下げておく、だって本当に遠い所から来てくださったんですから、それに社長なんですからぁ!

「そんなに畏まらなくて良いぞ」
「そっそうですか」
「うむっ、楽にしろ」

そう言われたので頭を上げる……はっそろそろ家に入れてないと駄目ですね!

「あっあの!寒いので家にどうぞ、炬燵がありますっアイスもあります!」
「ほぉ、それは嬉しいな、どちらも頂こう」

にこっと微笑んだ天塚社長……なんかどきっとしてしまいました。

「では、あっしはこれで」
「えっ」

怖い男の人も家に案内しようと思ったら、ささっと何処かに行ってしまいました。

「気にしないで良い、彼ならまた会う事になる」
「へ? あっはい、分かりました」

あっ会う事になると言うのは意味が分からないですけど気にしないでおきましょう。

「あっ、どうぞスリッパです」
「うむ」

と言う訳で家に入った天塚社長……直ぐに炬燵のある部屋に連れて行きましょう。

そんな時だ、天塚社長が私の服を引っ張って来ました。

「なっ何でしょう」
「すまない、言い忘れた事があった」
「えっ」

言い忘れた事、いっ一体難でしょう?

「これから面接するからそのつもりでいてくれ」
「……………はえ?」

こっこれが私と天塚 長門さんの出会いでした。
はっはは、ははは、どっどどどっどうしよう!? 面接なんて聞いてませんよぉぉー!!

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