お試し結婚はじめました。イケメン従兄にめちゃくちゃ甘やかされています
お試し結婚はじめました。 イケメン従兄にめちゃくちゃ甘やかされています (2)
香菜美の父はふむふむとうなずいている。慧は香菜美の両親からのウケがとてもよい。東京でしっかり仕事をこなしていること、テレビや雑誌にも出たことなどが香菜美の父を感心させていた。
「いい話じゃないか。香菜美、ぜひ慧くんに甘えさせてもらいなさい」
「いまどき、こんなにいい条件はないわよね。都内は社員寮なんてめったにないんでしょう? お家賃もかからないし、いいじゃないの」
「お父さん、お母さん、ちょっと待ってよ。そんな……図々しいでしょ」
両親は乗り気だが、香菜美はあせった。
図々しいというのもあるが、いくら「いとこ」とはいえ、慧は大人の男性だ。同じマンションの部屋に住むというのは、どうなのか。しかし香菜美の両親も慧自身も、そんなことはまるで気にしていない様子だ。
「香菜美、条件にどこか不満があるの? 遠慮しないで言ってごらん」
不思議そうに首をかしげる慧に、香菜美はあわてて返事をする。
「ううん! それはないよ、うん。ありがとう」
「そう? じゃあ、そういうことで」
「……うん」
香菜美が慧に女としての興味など持たれるわけがなかった。慧と自分の関係は、ただの親戚で、ただのいとこ。慧も香菜美の両親もそう思っているから、慧のマンションに住むという話を進めているのだ。
何があるわけでもないのなら、とてつもなくよい条件ではないか。
大学を卒業後、東京での就職にあこがれるも内定は取れず。あきらめて小田原にある機械の製造会社に就職して事務を担当した。だが、実家を出て社員寮に入り、自由にすごしていたのもつかの間だった。
(だから東京で働いて、生活ができるというのは魅力的だけど……)
考えこんでいる間に、何やら母が支度をしてきた。
「お父さん、お夕飯の買い物に車を出してくれる?」
「ああ、いいぞ」
「慧くん、お夕飯食べていくでしょ?」
「いいの?」
顔を上げた慧が母にたずねる。こういうときの慧は、いかにも甥っ子らしい甘えた表情をする。それは昔から変わらない。その表情に香菜美も母も父も弱い。
「もちろんよ。お礼に、といったらなんだけど食べていって。こちらこそ香菜美のこと、本当にいいのかしら?」
「香菜美さえよければ、僕には願ってもないことだから」
慧の言葉が引っかかった。願ってもないこと……?
「香菜美。お父さんたちが出かけている間に、慧くんにいろいろ聞いておきなさい。慧くんは酒を飲んでもかまわないか? 今夜は東京に帰るのか?」
お茶を飲みほした父が立ち上がる。
「いや、実家に泊まるつもりだから……少し飲ませてもらおうかな」
「あら、それだったら今夜はうちに泊まっちゃいなさいよ。どうせ姉さんは忙しいんだろうし、帰ったらこき使われるわよ?」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
笑った母につられて慧も笑う。父も上機嫌だ。
ふたりきりになってしまった。
家のなかに慧と自分だけという状況は何年ぶりだろう。妙に緊張する。テレビでもつけようか。香菜美がリモコンを取ろうとすると、慧が先にそれを取り上げた。
「慧くん?」
リモコンを持ったまま、こちらを見ている。テレビはつけるなということらしい。
「本当は何があった?」
「何、って」
香菜美の心をのぞきこむような視線から、思わず顔をそらした。
「会社を辞めた理由だよ。おじさんとおばさんに言えないなんて、よっぽどのことがあったんだろ? もしかしてブラックな会社だったのか?」
「そんなことないよ。ただ」
「ただ?」
「……なんでもない、ごめん」
慧に知られたら父母にも伝わるかもしれない。香菜美は口ごもった。
「ふたりには内緒にしておくから、僕には言ってごらん?」
慧の声が優しく誘う。
この状況を誰にも話したくはなかったはずなのに、慧の声が香菜美の心をゆるませてしまった。
「本当に、お父さんたちには言わないでいてくれる?」
「僕が香菜美に嘘をついたことある?」
「ううん、ない」
「だろ?」
年の離れたいとこ。本当の兄のように親しみ、幼いころからよく遊んでもらった。
両親には言えなくても、遠すぎず、近すぎない関係の身内になら少しくらい甘えてもいいのではないか。
「絶対に言わないって約束してね」
「ああ、約束するよ」
うなずいた慧を見つめ、香菜美は頭のなかで言葉を選び始めた。
「……実は、私──」
中学、高校と女子高で、大学も女子の多い学部だった香菜美は男性とつきあう機会がなかった。なんといっても、いとこではあるが身近に慧のようなステキな男性がいれば、比べてしまうのも当然だった。香菜美はそのせいで理想が高くなっていた。
社会人となった香菜美は、そこでようやく現実に目覚めたのだ。慧のような人はなかなかいないのだと。
そして……初めてできた彼氏に熱を上げた香菜美は周りが見えず、彼に尽くしすぎてしまった。今の仕事の他に自分には追いかけている夢がある、だから好きなように使えるお金がないと言った彼。香菜美はそんな彼のほしがる物をなんでも買ってあげ、食事をおごり続け……つき合って一年も経たずに、とうとう貯金をほぼ食いつぶしてしまった。
香菜美ばかりがお金を使うことに疑問を持たずにいる彼。香菜美はその状況をおかしいと感じにくかった。彼が香菜美と結婚するまでは大切にしたいと言って、手を出してこなかったせいだ。彼を誠実な男性だと勘違いした香菜美は、夢を追いかける恋人のことを信じきっていた。
だが彼は香菜美の同僚に手を出していた。イコール、自分には女としての魅力はなく、ただ都合のいいATMだと思われていたにすぎなかったのだ。彼はお金のために、夢があると言い、誠実さを演じていただけなのだろう。
「まったく……悪い男がいたもんだな」
事情を聞いた慧は、大きなため息をついた。
彼氏にフラれただけならまだしも、貯金まではたいていたなどということは、絶対に両親には言えなかった。ふがいない娘のことを知ったらどんなにショックを受けるだろうか。もしくは心底呆れられるか。
「そいつのせいで香菜美が会社を辞めることになるなんて割にあわないな。寮も引き揚げたの?」
「うん」
「頑張って働いたお金も、全部なくなったのか」
「……うん、ほとんど」
あらためて人から言われると心にのしかかるものがある。自分の行いがバカだったとしか思えない。
「大丈夫だよ、香菜美。もうそんな目には絶対にあわせないから」
落ちこむ色を見せた香菜美に、慧は優しく言った。
「でも本当にいいの? なんだか申し訳なくて」
「気にしないでいいって。ちょうど人手が足りなくなったのは本当なんだから」
「じゃあ、ある程度お金が貯まったら出ていくね。それまでは部屋を借りさせてください」
「おじさんたちの前だから言ってなかったけど、条件はもうひとつあるんだ」
慧の表情が曇る。
「……え?」
「香菜美がいずれ僕の部屋を出ていくっていうなら、仕事のことも部屋を貸す話もナシになるけど」
「えっ! どうして?」
不機嫌な声に変わった慧に、香菜美は声を上げた。
「香菜美が僕と結婚することを前提に、東京にきてほしいんだ」
「……は?」
香菜美は耳を疑う。
いま、ふたりの会話にまったく関係のない「結婚」という言葉が聞こえた気がするのだが……
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