クールな社長の溺甘プロポーズ
クールな社長の溺甘プロポーズ / プロポーズはふたりきりで (1)

クールな社長の溺甘プロポーズ
プロポーズはふたりきりで
天気のいい、日曜日の午後。
三月のぽかぽかとした春の陽気の中、青山にあるカフェのテラス席には楽しげな笑顔とおしゃれなランチが並ぶ。
高校から付き合いのある、気心の知れた友人たちと話すのはなにげない毎日のことや旧友たちのこと。
そんな時間は楽しい。けれどどうしても気になってしまうのが、皆の左手薬指に輝く指輪たちだ。
「もう毎日子供の世話で超大変。早く大きくなってほしいよ」
「えー? うちまだ旦那とふたりだからうらやましい~」
「結婚してるだけいいじゃん。私なんてまだプロポーズ待ちでもどかしくって……」
ドラマ、コスメ、洋服。そんな話題だったのは、今はもう昔のこと。
今、私たちの話題の中心は旦那、子供、彼氏のことばかり。
そんな中で私は、作り笑いで空気を読んで相槌を打つことくらいしかできない。
そう、なぜなら。
旦那、子供、彼氏なし。
私には、どれひとつとして縁などないから。
「ちょっと、澤口! 今週配信の商品ディスプレイの提案資料確認した!? セールリストもまだきてないし、戦略データの共有もされてないんだけど!」
「は、はい! 今すぐ確認します!」
窓の外には青い空が広がる、平日の午後。
広い室内に社員約五十名分のデスクがセクションごとに分けて並べられている。そのオフィスでは、あちこちから声が飛び交い、さらには資料が舞い、ドタバタと忙しない。私はその中でも一段と慌しく動き回る。
品川駅から徒歩十分ほどのところにある、大きなビル。
地上四十階、地下四階建てのそのビルの十一階から十三階を占めているのは、アパレルメーカー『ホールド』の本社。数多くのブランドを展開し、国内でも認知度が高く人気の企業だといえる。
社員総数は店舗スタッフを含め三千名。三十種類あるブランドは、レディース、メンズ、キッズなど幅広く、全国に三百店舗を直営している。
その社内で、主力ブランドというにはまだ少し弱いけれど、近年成長率を伸ばしているブランド「スノードロップ」。二十代から四十代と幅広い世代へ、デイリー使いのできる綺麗めファッションを提案するブランドだ。
そのブランドを運営するスノードロップ運営部という部署で、私、澤口星乃、二十八歳はブランドのコンセプトをまとめるセクションのチーフ……の補佐役として働いている。
新作のデザイン確認、トレンドチェックと来期の戦略、売場戦略、セールの値引き計画、店舗チェックなど、常にチーフより先に把握しておかなければならないことばかり。とにかくやることは山のようにあって、目が回るほど忙しい日々だ。
「柳原チーフ、来週の各店への納品数があがってきました。データ送ってあります」
「ありがとう」
私の言葉に、長身で黒いストレートヘアがよく似合う上司、柳原チーフは手もとの書類から、デスクの上のPCへ視線を向けて、物流データを確認する。
すると彼女は、思い出したように「そういえば」と口を開いた。
「昨日はどうだった? 高校からの友達と女子会、って言ってたけど」
「あー、はい。楽しかったです。話もたくさんしたし、お店もおいしくてアタリだったし」
「いいねぇ。私地方出身だから、同級生と都内で女子会なんてうらやましい」
柳原チーフは黒いアイラインで囲んだ目をPCの画面に向けたまま、拗ねたように口を尖らせる。
そう。私は東京が地元なので、高校時代の友達ともいまだに半年に一度くらいのペースで集まれる。それはすごく楽しいし、いいんだけど。
「けどまぁ、今回もあきらかに差を見せつけられたというか、なんというか」
「差?」
昨日の集まりでの光景を思い出すと、苦笑いになってしまう。
そんな私の表情に柳原チーフはこちらに顔を向けて、不思議そうに少し考えてから気づく。
「あ、わかった。友達はみんな結婚してたり子供がいたり、彼氏がいたりするやつだ」
軽い口調で言われた、『友達は』のひと言がグサリと刺さる。けれど柳原チーフは容赦なく言葉を続けた。
「澤口、結婚どころか彼氏もいないもんねぇ。あはは、さみしー」
「うっ……」
けらけらと笑われ、バカにされる。けれど、否定できないから余計悔しい。
昨日の友人たちとの女子会。昔は皆同じだったのに、今では母となり妻となり……ひとり身なのは私だけ。
それでも彼氏がいるとか恋をしてるとか、そういう話があればまた違うのだろうけれど、彼氏もいなければ恋の相手もいない。それどころか、ときめくような出来事すら最近経験していない。
結局昨日も皆から『婚活したほうがいいよ!』とか、『誰か紹介しようか!?』と口々に言われてしまった。その時のことを思い出し、苦笑いが出た。
「けど、澤口って半年前に付き合ってた彼氏と『結婚するかも』って言ってたよね。なのになんで別れちゃったんだっけ」
「……フラれたんですよ。いつものことですけど」
話しながらデスクの上の書類を手に取りまとめると、背後からは柳原チーフの「あー」と納得するような声がする。
「また言われちゃったんだ? 『星乃は仕事があればいいんだろ』って」
チーフのそのひと言でよみがえってきたのは、半年前に付き合っていた彼から言われたまったく同じ言葉。それに連動するように、心の奥底から引きずり出されてくる忌まわしい過去の記憶。
それをかき消すかのように、ぐしゃぐしゃと頭をかく。
「澤口、真っ直ぐだけど不器用だからねぇ。仕事と恋を両立させてこそ大人の女というもので……」
「はいはい! わかりました!」
柳原チーフとの会話から逃げるように、私は早足でその場を後にした。
仕事と恋愛。それを両立できたらいい、と思ってはいる。
どちらが大切かなんてそんなの決まっている。
もちろん、好きな人と過ごしていたい。その人といつか結婚したいとか、素敵な家庭を築きたいとか、心からそう思う。
けれど、たとえ好きな人と巡り合えたとしても、人によっては素直に恋愛に踏み込めないことだってあるのだ。
ずっと、アパレル業界で働くことが夢だった。
子供の頃の夢はショップの店員さん。高校生の頃は服を買うためにバイトに励み、卒業後に進んだ専門学校ではパターンやデザインなど服飾について学びながらアパレル店員として働いた。
そしていつしか夢は、服を売るほうから作るほうへと変わっていき、新卒でこの会社へ入社した。
たった一枚で気分を変えてくれる、服が好き。自分が着ることはもちろん、人にコーディネートを提案してそれを着てもらうこと、そしてその人にも変化を感じてもらうことが楽しくてしかたない。
そんな憧れの職に就けて、必死に仕事をこなすうちにチーフ補佐という立場ももらえて、充実した毎日を送っている。
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