オオカミ御曹司に捕獲されました
オオカミ御曹司に捕獲されました / 同級生で、同期で、御曹司の彼 (1)

オオカミ御曹司に捕獲されました
同級生で、同期で、御曹司の彼
今日は嬉しい定時退勤日。
毎月、第一水曜日に開催される同期たちとの飲み会を断り、午後六時過ぎに会社を出た私は、二ブロック先の書店に向かう。
「あった!」
今日発売の少女漫画を手に取ってカウンターへ行き、素早く支払いを済ませた。
「ありがとうございました」
店員に本の入った買い物袋を手渡され、私はニンマリする。
六月上旬ということもあって、空はまだ明るい。
あ~、すぐに読みたい。
四ヶ月もこの本の発売を待ったのだ。早速、近くのカフェに入り、奥のほうにあるテーブルに座る。
ここなら会社から少し離れているし、ほかの社員には会わないだろう。
テーブルにやってきた店員にカフェラテを頼むと、さっき買った本を読み始めた。
五十嵐 梨花、二十六歳、独身、彼氏いない歴=実年齢。
日本で五本の指に入る、有名商社の杉本商事に勤めているOL。
杉本商事は国内外に六十五もの支社を持ち、世界に約三万人の社員を抱える国際的な大企業。私のいる三十五階建ての丸の内本社ビルには、約九百人もの社員が勤務していて、ロケットから赤ちゃんのおしゃぶりまで、多種多様な商品の開発や販売を行っている。
こんな華やかな環境にいるOLといえば、服装やヘアメイクに気を遣い、オシャレなオフィスで颯爽と勤務している、洗練された女性を想像するだろう。
だが、私はオフィスの隅っこでコツコツ仕事をしている地味OLだ。
身長は百五十三センチと低めで、朝のセットに時間がかからなくて便利、という理由で、髪型は黒髪のストレートボブ。目が二重で大きいせいか童顔に見え、よく高校生に間違われる。
ノーメイクでメガネをかけて大人しくしていれば、仕事以外で声をかけてくる人はほとんどいない。目立たず、静かにひっそり過ごすのが私のモットー。社交的ではない私は、そうして平穏な日々を送っている。
そんな私の趣味は、少女漫画を読むこと。現実世界の異性には興味がない。だって、漫画を読めば自分好みの最高の男性に出会えるんだもん。漫画を読んでいる、今この時が私にとって至福の時間。
同期会への参加を断って、早速読み始めているこの新刊も、私をときめきの世界に連れていってくれる。
あ~、生徒会長の片岡君素敵! 美園ちゃんに顎クイするなんて、ドキドキしちゃう~! 美味しいわ~、そのシチュエーション。
頭の中で美園ちゃんを自分に変換して、思いにふける。
胸をキュンキュンさせながら漫画を読んでいると、後ろの席から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「待ってください。私は……あなたのことが好きなんです!」
若い女の取り乱した声で、急に現実世界に戻された私。
ん? カフェで告白? 気になって漫画に集中できないんだけど! こっちは今、片岡君が美園ちゃんにキスをするかもって重要なシーンなのに。
「悪いけど、君には興味ないんだ」
男の申し訳なさそうな声が響く。
あれ? この声って……。
ある人の顔が頭に浮かんだその刹那、女が声を張り上げた。
「友達からでもいいんです!」
うわっ、声大きすぎ。痴情のもつれか? よそでやってほしい。
私が眉をひそめると、男も不快に思ったのか、ひどく冷たい声に変わった。
「見苦しいよ。俺のことを何も知らないくせに、好きだなんてよく言えるね。この俺が、お前みたいな金や地位目当てのバカな女の餌食になると思う?」
この毒舌……間違いない。絶対に彼だ。
「え? 今……なんて?」
女がビックリしたような声で聞き返すと、男は吐き捨てるように言った。
「聞こえなかった? 要するに、お前みたいなくだらない女とは付き合わないって言ったんだよ」
「な、な、なんですって!? 社長の息子だからって、偉そうなことを言うんじゃないわよ!」
女が怒って声を荒らげたと思ったら、後ろから何か冷たい液体のような物が私の背中にかかり、ビックリした私は「ギャッ」と声をあげた。
何? 一体、何が起こったの?
漫画を持ったまま、私はブルッと震えた。
うっ、冷たい! なんでこんなことに?
驚いて後ろを振り返れば、女が怒りの形相で空のコップを握りしめていて……。
ああ、水をかけられたのか。……って、こっちに水がかかってるんですけど!! いい迷惑!!
無言で彼女をじとっとひと睨みするが、あることに気づき、思わず目を丸くした。
やだ、あの人、よく見たらうちの専務秘書の佐藤さんじゃない!
長い茶髪に、完璧なまでにメイクが施された顔。ひと目でブランド物とわかるスーツを着ているけど、はっきり言ってスカート丈は短いし、秘書としての品位に欠けていると思う。
端から見ても高慢で高飛車な彼女は、私の苦手なタイプだ。
私のすぐ後ろに座っている男のほうは、やはり私と同じエネルギー関連事業部の杉本君だった。後ろ姿だけど、今日、彼が着ていたのも同じ濃紺のスーツだし、髪型や背格好、雰囲気からわかる。
彼、杉本 学は高校時代の同級生で会社の同期、おまけにうちの会社の社長令息。
百八十センチを超える長身に柔らかいダークブラウンの髪、俳優顔負けの端整な顔立ちは、少し甘さをともなった王子様系。会社ではエネルギー関連事業部のエースで、将来は社長。彼の有能さは高校の時から変わらない。成績は常にトップだった。
私たちが通っていた帝和学園は、良家の子女が通う有名私立高校。生徒会長としてその頂点に君臨していた杉本君は、学園内で特別な存在だった。世界に名だたる大企業の御曹司で、眉目秀麗、文武両道、品行方正……と四文字熟語のオンパレードのような完璧人間で、性格も優しくて誠実で先生や生徒からの信望も厚かった彼。
女子に大人気でファンクラブまであった杉本君は、ファンの子に『学様』って呼ばれてたっけ?
同じ高校に通っていても、杉本君と私は住む世界が違ったんだ。
私は外部入試で入った、学園では少数派の奨学生だったけど、彼は幼稚園からエスカレーター式で上がってきた、生粋の帝和生徒。彼の取り巻きはみんな大企業の御曹司で生徒会役員。一般生徒の私からすると、天上人のような存在だった。
生粋の帝和生徒ってだけでも近寄りがたいのに、そのうえ生徒会長だなんて恐れ多くて、クラスが一緒でも親しく話すなんて全くなかったな。
まあ、それは杉本君が一般生徒でも同じだっただろう。だって私は高校時代も、今回みたいな場面に遭遇していたから。
つまり、王子様から悪魔に豹変するのを目の前で見たのだ。壁に隠れてこっそり覗いていたから、彼は私に見られたなんて気づいていなかったと思う。
最初は、あの優しくて完璧な杉本君が……って信じられなかった。何か幻でも見ているんじゃないかって。
『はっきり言って迷惑だから。君のような頭の悪い女と付き合う気なんてないよ。もう金輪際、俺につきまとわないでくれる?』
氷のような冷たい目に、人を見下したような容赦ない言葉。
言われた女の子は、顔面蒼白でその場を去っていった。
今でもその光景をはっきりと覚えている。何度も目をしばたたいて見たけど、それはやっぱり杉本君で、彼には普段、人に見せない裏の顔があると、その時悟ったのだ。
私が杉本君を避けているのは、それだけが理由じゃない。
「オオカミ御曹司に捕獲されました」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
相愛前夜 年の差社長の完全なる包囲網
-
61
-
-
焦らされ御曹司がストーカーのように求婚してきます
-
61
-
-
Only with Your Heart~烈炎の騎士と最果ての恋人~
-
125
-
-
溺れるままに、愛し尽くせ
-
132
-
-
政略結婚のその後は?~敏腕秘書は囚われの君を諦めない~
-
44
-
-
身ごもり契約花嫁~ご執心社長に買われて愛を孕みました~
-
75
-
-
あぶない御曹司がぐいぐい迫ってきます!?
-
19
-
-
王妃のプライド
-
975
-
-
極甘同居~クールな御曹司に独占されました~
-
42
-
-
この世界のイケメンが私に合っていない件
-
18
-
-
冷徹ドクター 秘密の独占愛
-
33
-
-
僕の愛しい妻だから
-
37
-
-
昨日までとは違う今日の話 ドSな彼は逃がさない
-
28
-
-
傲慢社長の求愛ルール
-
70
-
-
イケメンおじさま社長は、××な秘書が可愛くてたまりません!
-
53
-
-
専属秘書はカリスマ副社長の溺愛から逃げられない
-
32
-
-
極上彼氏の愛し方~溺甘上司は嫉妬深い~
-
437
-
-
溺愛注意報!?腹黒御曹司に懐柔なんかされませんっ
-
27
-
-
残り物には福がある。
-
778
-
-
ワケあって本日より、住み込みで花嫁修行することになりました
-
13
-