クールな御曹司は新妻に溺れる~嘘から始まった恋で身ごもりました~
1 出会い (2)
とてもじゃないが、パーティーにずっといるなんて耐えられない。
だいたい見知らぬ人に話しかけられても何を話せばいいのかわからないし、下手に会話なんかしたらそれこそバレてしまう。
「入れ替わる?」
茜はいまいちわかっていないようだ。
私はそんな茜に自分の計画を説明した。
「そう、ピアノを弾く寸前に入れ替わるの。だって私たち双子なんだから絶対にバレないでしょ? それでピアノを弾き終えたらまた入れ替わって私は先に帰宅。どうかな……」
茜はしばらく考えると大きく頷いた。
「確かにそのほうがより安全かもしれない。でもそうなると同じ服を用意しないといけないね」
「そうか……」
流石に服装の問題があった。
この案は却下……そう思ったが。
「うん、やっぱりそれにしよう。私が無理言って明日香にお願いするんだから、服ぐらいなんとかする」
「本当?」
これで私はピアノだけ弾いて帰ればいいということになる。
ずいぶん気が楽になった。
だが、そんな私を見て茜はため息を吐いた。
「そんなことでホッとしないでよ。明日香だってほんの少しのコミュニケーション能力があれば、今よりもっともっと友達も増えて、彼氏だってすぐにできると思うのにな〜」
茜の言うとおりだ。確かにコミュニケーション能力があれば苦労してない。
もし彼氏ができたとしても、恋愛経験もなく、不器用な私には、上手に付き合っていける自信はない。
だけど姉とその彼氏の楽しそうにしている姿を見ているとやっぱり羨ましいと思う。
「はいはい。ところで何曲弾けばいいの?」
「一曲でいいよ。でもできればみんながすごいと思うようなのがいいな〜」
全く、調子がいいんだから。
「そんなこと言って後で自分の首を締めることのないようにしてね。それとこんな頼みは今回だけだからね」
念を押すように言うと「わかってるよ〜ありがとう〜我が妹よ」と抱きついてきた。
だけど……実際うまくいくのだろうか。
私には不安しかなかった。
そして迎えた当日。
仕事を終えた私はまっすぐ家に帰った。
「ただいま──」
目の前に立っていたのはライトカーキのビスチェ風ロングドレスでドレスアップした茜だった。
「おかえり。何そんなところでぼーっと突っ立ってんの? 支度するから、早くこっちにきて」
「ねえ」
「何?」
茜が面倒くさそうに返事をする。
「私もこのドレス着るの?」
茜は呆れた顔でため息を吐いた。
「当たり前じゃない。入れ替わりを提案したのは明日香だよ」
「そうだけど……」
デコルテ部分は透け感のあるチュール素材。スカート部分はシフォン素材で、タックが入っているので立体感があり、ウエストのリボンがアクセントになっている。
でも、そんな綺麗なドレスをうまく着こなせる自信がないというか……。
「もう、ネガティブに考えるのは無しね。いい? 今から明日香は私に変身するの。ほら座って」
茜は私をドレッサーの前に座らせた。
「まずはメイク落としからね」
そう言ってメイクを落とし、化粧のノリが良くなるようにと電子レンジで温めたタオルでホットマスク。
BAだけあって手際がよく、気持ちがいい。
それから肌を整えてメイクを施す。
「これ、この春の新色なの。パーティーメイクだから、気持ち濃い目につけるよ〜」
茜はすごく楽しんでる。
きっと今の仕事が大好きなのだろう。
普段はあまりしないチークを頬につけ、ホワイト系のハイライトで立体感を出すようにTゾーンと顎にのせる。
眉も綺麗に描いてくれた。
「明日香は自前のまつ毛で充分だけど、ちょっとマスカラ乗せて思いっきり上にあげるね」
そう言ってビューラーでまつ毛を上向きにしてからマスカラを塗る。
唇には保湿効果のある下地をつけ、赤に近いオレンジ系の口紅を塗った。
その上にキラキラ輝くグロスを塗ると唇がプルプルしてきた。
確実に普段の茜に近づいてきた。
それから茜と同じ色のピンクベージュのマニキュアを塗ってくれた。
メイクだけではなく髪も緩やかなウェーブをつけて綺麗にセットしてもらった。
「髪の毛は下ろしておこうね。ホクロがないって指摘されると困るから」
実は仕事以外で外出する時、私は伊達メガネをかけることが多い。
知らない人と目を合わせて話をするのが苦手な私にとって、レンズがあるというのはそれだけで人見知り防止になるのだ。でも茜には不評のようで……。
「わかってると思うけど、今日はいつもの伊達メガネ禁止よ」
「わかってるわよ」
渋々返事をし、差し出されたドレスに着替えた。
着替えが済むと私と茜は姿見の前で並んだ。
双子だからもちろん似ているんだけど、こうして並んで見てみると、見分けがつかないほど似ていることがよくわかった。
「完璧じゃん。双子ってすごいね」
茜が呟いた。
「私が茜になっちゃった」
「土台が同じようなものだからね。あと靴は玄関にあるからね。あとは……ピアスだね」
茜は少し大ぶりなピアスを私に差し出した。
「これで完成。あとは堂々として私になりきれば大丈夫」
「そこがいちばんの問題じゃないの?」
「確かに……」
「とにかく砕けた話し方をして。例えば……『こんばんは』じゃなくて『こんばんは〜』ってちょっと語尾を伸ばす感じ?」
「努力はするけど……」
「いや、そこはやると断言してくれないと」
「……うん」
「それでいい」
段取りはこうだ。まずは茜が会場に入る。
私は時間ギリギリに着くよう家を出る。
そして乾杯をしたところで茜が私にメールをする。
私は誰にも見られないようにお手洗いで待機、そして茜と入れ替わってピアノを弾き、終えたらもう一度茜と交代する。
もう、ここまできたらやるしかない。
私は時間差でタクシーに乗り会場へ向かった。
ほとんど家と教室の往復で、あまり寄り道をしない私にとって、ネオンの耀く夜は眩しすぎる。
ネオンより星が綺麗な方がいいなと思いながら、タクシーの窓から東京の夜を眺めていた。
パーティー会場はとある大きなビルの中にあった。
一見バーのような雰囲気のお店で、壁にはワインや洋酒がずらりと並び、店の中央にはグランドピアノが置かれているのが離れたところからでもよく見える。
すでに店に入りきらないのか、何人かの男女が店の外でお酒を片手に歓談している。
茜はもう中にいるはず。
私は気づかれないように店から離れた所で待機していた。
すると「乾杯しますのでみんな入れそうなら中に入ってください」という男性の声が聞こえた。
私はその隙にビルの中のお手洗いへと向かう。
茜から「挨拶だけはして」と言われていたので、お手洗いの中でメモに書いておいたセリフを確認する。
「直樹さん、お誕生日おめでとうございます。では私から一曲プレゼントします。ラヴェルの『水の戯れ』です。直樹さん、直樹さん……よし」
ブツブツと名前を繰り返していると、笑い声と共に誰かがお手洗いに入ってきた。
私は慌てて口をつぐんだ。
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