異世界チート開拓記
1 プロローグ / 2 《物質移動》 (1)






1 プロローグ
「オギャー! オギャー!」
その日、〝新大陸〟と呼ばれている大地で、一つの生命が誕生した。
――数週間後。
「嘘……坊やが……私の坊やが……嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
「カーラ…………。気をしっかり保って」
「だって、だってカインズ。私の、私たちの愛しい坊やが、私たちの赤ちゃんが……私とあなたのエニードが……死……ひ……あ……あぁ、あああああ……私、私、もう、い、生きていけな」
「エニードは――私たちの息子は、天に召されたのです。私たちは大切な息子を失ったことが、どれだけ辛くても、どれほど哀しくても、生きなければいけない……この子の分まで。この子が生まれ、たとえ、ごく僅かな期間でも生きた、この新天地で」
「でも……でも……うぅ……うううぁぁあ……ひ……うああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
双眸から涙を流し続け、嘆く妻。
目にうっすらと涙を溜めながら、血がにじむほど拳を握りしめ耐える夫。
1時間ほど前、夫婦の一人息子は、息を引き取っていた。
医療の発達していないこの世界では、赤子が突然死することはさほど珍しくない。しかし、だからといって、突然、子供を失った若い夫婦の悲しみが軽減されるわけでもなかった。
いつまでも我が子の死を哀しみ続ける妻と夫。
その2人の前で――。
ピクン。
死んだはずだった赤子の手が、微かに動いた。
2 《物質移動》
――……朧げだった俺の意識が、徐々に覚醒してきた。
意識が目覚めてから数時間後。
自分の小さな手を視認したり、両親(?)の会話などから、自分が赤子になっていることにも気付いた。どうやら、俺が母親の胎内から生まれてから、日数としてはすでに1か月以上たっているらしいが。
俺の身に起きたのは、〝生まれ変わり(転生)〟ってやつだと思う。
転生など前世では信じていなかったけどね。異世界転生や異世界憑依系の小説は好きだったが、本当にありえることだとは思っていなかった。
しかし、実際に自分の身に起きた以上、自分が転生したことを、受け入れるべきだろう。
もちろん最初は酷く狼狽し、動揺したけど、そのうちに受け入れられるようになった。
まぁ、転生でなく、ひょっとしたら憑依ってやつかもしれないけど。
俺が意識をとりもどし、目を開けたときの両親の喜びようはなかった。どうやら、俺は仮死状態だったようだ。
あるいは…………この身体の本来の主は本当に死んでいた、のかもしれない。
俺の目が開き息をしているのを見て、両親は「奇跡だっ!!!」「私たちの坊やが生き返ったわっ!!!」と、大喜びしていた。
それだけ喜ばれたら、俺も嬉しくなる。この人たちからは必要とされていると感じたりもしたので。
なにせ、前世の俺は、誰からも必要とされていなかったからな。
…………俺なりに頑張ってきたつもりだったが、前世では、余剰人員の解雇整理により会社から解雇された。俺は不要な人間、いらない人間だと突きつけられたわけだ。
相当なショックを受けつつ、実家に帰った。
その後、アルバイトをしながら就職活動をした。だが、どれだけ入社試験を受けても、正社員としては採用されなかった。不採用が続き、自分は社会に不必要な人間なのではと悩み、眠れない夜が続いた。そして寝不足が祟り、バイト先でもミスを連発して――クビになった。
精神的にかなり追い込まれていた俺は、バイトすら満足にできなくなった。
親に食わしてもらうニートとして過ごしていたら――両親がともに事故で亡くなり、しばらくは食べていけるだけのまとまった遺産が入った。
俺はその遺産を食いつぶしながら、ニートとして生きた。誰からも必要とされず、誰の役にも立たないまま生きた。
死んだように生きた。
ある日、日ごろの不摂生が祟ったのか、まだ若かったのに突然死した――はずだ。
そして――転生、あるいは、憑依により、意識が一度、闇に沈んだあと再び目覚めたら、赤子になっていたのだ。
◆ ◆ ◆
どうやら、俺は〝魔法〟のある〝異世界〟に転生(憑依)したようだ。
この2週間、ゆりかごの中で両親の会話を聞き、そう判断した。
魔法の心得がある母親が、俺のそばで実際に魔法を使っていたし。俺が夜泣きした際に、《明かり》の魔法で室内を照らしたり――とかね。
そうそう。俺が夜泣きする際の主な理由はお漏らしだ。
赤子ゆえ、漏らすのはどうしようもないのである。中身は成人なので、非常に恥ずかしいけどね。
母親は俺の糞尿を処理する際、直接触らず転送魔法を使って飛ばすこともあった。部屋の隅に置いてあった蓋つきのチェンバー・ポット(おまる)に、転送魔法で糞尿を飛ばしていたのだ。
魔法は俺もぜひ使えるようになりたい。
しかし、どうやれば使えるのかわからない。
母親に尋ねたくても、喉(声帯)の未熟な赤子ゆえ、喋ることはできなかった。
まぁ、生まれて数週間の赤子が喋ったら、大騒ぎになるかもしれない。だから、どのみち喋るのは自重したとは思うけど。
◆ ◆ ◆
翌日、転機が訪れた。
ゆりかごに入っている俺もいる両親の寝室で、母親のカーラが魔法の講義を始めたのだ。赤子の俺に――ではなく、カーラの夫であり俺の父親でもあるカインズ・クレインにだけど。
「じゃあ、カインズ。今日は基礎魔術の中でも特に簡単な、《物質移動》の練習をしてみて」
俺を抱きかかえながら、カーラが父親のカインズに促した。
ところで、カーラは非常に美しい。前世で、これほど美しい女性と接したことはない。
実年齢は知らないが、艶やかな黒髪をした十代後半の美少女に見える。髪を後ろに流しているが、後ろ髪が腰まである。
その容姿は完璧だ。
耳の先が少し尖っているが、容姿の完璧さを損なうものではなかった。
美しいだけでなく、気品や優雅さもあり、上流階級のお嬢様に見えた。
ただ…………胸がない。
まったくない。
断崖絶壁であった。
いつも抱きかかえてもらっている俺は、母親の胸のなさを実感していた。
赤子を産んだばかりなのだから、貧乳の女性でも普通なら、それなりに胸が膨らんでいるはずだと思う。しかし、新生児の母親でありながら、カーラは貧乳のままだった。
乳の出も悪いのか、俺に母乳を授けてくれるのも家政婦であった。
乳母兼家政婦のルイーナは、逆に巨乳だけど。
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