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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中

月夜涙

プロローグ おっさんは燻っている (2)

「ニキータ。アップルパイ、美味しかったよ」

 エールを運んできたのは看板娘のニキータだ。たしか今年で十六になるはずだ。気立てのいい娘で、今も男たちの視線が彼女に集まっている。

「いえ、ありがとうございます! ユーヤさんに食べてもらえてうれしいです。あのアップルパイ、お父さんに教わって、がんばって作ったんです」

 俺は苦笑する。……この子は俺に憧れのようなものを持っている。

 この年代にありがちな、年上に対する無条件の尊敬のようなものだ。

「はじめてであの味か。すごいな、料理の才能があるんじゃないか?」

「そっ、そんな、ほめ過ぎです」

「ニキータの夫になる人が羨ましいよ」

 そう言うと、ニキータの表情が曇る。……遠回しに、自分はそうではないと言っているようなものだからな。俺に対するあこがれなど、早めに捨てたほうがいい。

「ニキータ、今日のおすすめは」

「えっ、あの、美味しい豚肉が安く仕入れられたので、豚肉料理がおすすめです」

 俺が昼間に納品したやつか。さっそく肉屋の親父が売り出したらしい。

「なら、煮込みと串焼きをもらおう。それとエールをもう一杯」

「はい、ただいま!」

 厨房のほうに走っていく。一人になると酒場に意識を向ける。

 ここには冒険者たちが多くいる。ダンジョンを所有する村ではよく目にする光景だ。

 若者が多い。冒険者なんて仕事、そう長くは続けられない。三十半ばで引退するのが普通だし……年をとる前に死んでしまうものも多い。

 若者たちは熱く夢を語る。今も若いパーティが気勢をあげていた。

「俺たちは、いつか必ず試練の塔を踏破する! そして英雄レナードのようになるんだ!」

「今はジャイアント・トードにも苦戦しているけどな」

「おいおい、それを言うなよ」

 そして、彼らは笑い合う。

 彼らの情熱に当てられて、少しだけ冷めてしまった心の奥が温まった気がした。

 料理が運ばれてくる。豚肉の串焼きと煮込みだ。

 うまい。ここの親父はいい腕をしている。ここほどの料理を出す店はなかなかない。

 エールをもう一杯頼もうか?

 そんなことを考えていると、目の前に男が座った。

 洒落た魔法金属の鎧を着込んで、これ見よがしに首から銀級冒険者の身分証をぶら下げている。高価な魔法金属の鎧も、一流冒険者の証である銀級冒険者の身分証も、この村には似つかわしくないものだ。

 見知った顔だ。その表情は若さゆえの根拠のない自信に満ち溢れている。

「探したぜ、師匠」

「……ブロウトに行ったと聞いていたが、アイン」

 彼は村出身の冒険者。彼の両親に泣きつかれて三年ほど冒険者のイロハを教えてやった。

 三年間でそれなりの冒険者になり、もっと高難易度のダンジョンに挑むと言って村を出た。

「ああ、ブロウトで四年間鍛えてきた。俺も一人前だ。だからな、試練の塔に挑もうと思う」

 カチリッ、思わずフォークを落としてしまう。

「なあ、師匠。俺と一緒に来てくれないか? 今ならあんたのすごさがわかる。あんたとなら、試練の塔だってクリアできる気がするんだ! なあ、いいだろう、師匠」

 俺は深呼吸する。……昔のことを思い出す。あいつも俺にそう言ったな。

 その答えはとっくに決めてある。そう、十年以上も前に。

「アイン、おまえが俺を頼ってくれたのは嬉しい。……だが、断る。俺は選ばれなかった」

 試練の塔。それは、冒険者なら誰もが憧れる場所だ。

 誰よりも強くなる。その願いを叶えるためにはけっして避けてはいけない場所。

 そして、十年以上前、俺が挑まずに逃げてしまった場所だ。

「そんなことを言わずに! 頼れる仲間が二人いる。そこに師匠の経験と技術、強さがあれば」

「……言っただろう。俺は選ばれなかったと。そういえば、俺のステータスを見せたことがなかったな」

 ステータスカードを操作する。ステータスカードは金の持ち運びができ、身分証明書として機能するほか、その名の通り、ステータスとレベルを表示できる。

「師匠、嘘だろ」

「言っただろう。俺は運が悪かったと。仲間と共に最強を目指した時期もあった。だがな、レベルが上がれば上がるほど、俺は絶望した。俺には無理なんだよ。当時の仲間が試練の塔に挑むと言ったとき、俺はパーティを抜けて……強くなることを諦めたんだ。それからは、こうして無理のない仕事をこなしている」

 俺のレベルは50。それは上限であり、それ以上レベルは上がらず強くなれない。俺は俺に許された限界まで強くなってしまっている。

 ステータスというものがこの世界には存在する。

 レベルが1上がるたびに、各パラメーターが1~3上昇する。期待値は2だが、当然、人によってばらつきがある。やり直しは利かない。

 ……そして俺は絶望的に運が悪く前衛職でありながら、筋力、耐久、敏捷で1を引き続けた。

 低いステータスを補うために、何十年もかけて剣技を徹底的に磨いた。ステータスに頼らない力の引き出し方を見つけた。血のにじむ努力を重ね、ステータス以上の強さを身に付けた。

 それでも、限界がきた。レベルが上がるほど、ステータスの差は(かせ)となり、共に最強を目指した仲間たちに追いつけなくなった。

 俺は一流の冒険者だと言えるだろう……だが、絶対に超一流には届かない。

 そして、最強になることを諦めて、初級~中級ダンジョンの専属冒険者になった。

「がんばれよ。おまえならクリアできるかもな。おまえは俺と違って運がある」

 アインは、戦士というクラスに見合うように前衛に必要なステータスが順調に上がっていた。俺の届かなかった先へと行けるだろう。

「すまない、ユーヤさん、俺、知らなくて」

「師匠と慕ってくれたアインに、情けない話をして悪かった。俺はそろそろ出よう」

 酒を飲める雰囲気じゃなくなった。

 少し多めの金額を机に置き、ニキータに声をかけて俺は酒場を後にした。

 ……まったく、嫌なことを思い出させる。口では諦めたと言いつつも、この胸のうちで、消しきれなかった炎が(くすぶ)り始めてしまったじゃないか。

 なんでだろう? 頭では諦めようとしているのに、心がその先へと進むのを諦めてくれない。

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