そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中

月夜涙

プロローグ おっさんは燻っている (1)

 

プロローグ おっさんは燻っている

 

 冒険者という職業がある。世界に(あま)()存在するダンジョンに潜り、宝を得る。あるいは、魔物を倒してドロップアイテムを持ち帰り換金する。

 それなりに実入りはいいが、同時に危険が付きまとう仕事だ。

 そして、俺もその冒険者の一人。二十年を超えるベテランだ。

 今日もダンジョンに潜り、狩りに精を出していた。

「ラスト、一頭!」

 草原の中、獲物と向かい合う。

 ワイルド・ボア。茶色の毛皮を持つ大猪の魔物だ。

 突進の速度は凄まじく、するどい牙を持つことから危険視されている。

 中級冒険者ですら、一歩間違えれば命を落とす。

 今回受けたクエストは肉集め。もっとも多くギルドに持ち込まれる依頼の一つだ。

「グモオオオオオオオオオオ!」

 ワイルド・ボアが突進してくる。

 大地を踏みしめ、奴の突進に合わせて、両手剣を振り下ろした。

 ワイルド・ボアの突進と俺の剣が衝突し、鈍い音が響き渡る。

 立っているのは俺だけだ。ワイルド・ボアは頭を割られて絶命する。

 しばらくすると、死体が青い粒子になって消え、店頭に並んでいるような木の皮に包まれた肉の塊だけが残された。

 どういう仕組みかはわからないが、魔物というやつは死ねば青い粒子になって消え、運が良ければドロップアイテムが手に入るのだ。

「猪だろうが、豚だろうが、オークだろうが、まとめて豚肉だからな」

 ドロップアイテムを拾う。

 豚肉(並)。おそろしくわかりやすい名前のアイテム名だ。

 ちなみに、魔物のレベルが上がるごとに品質が上がっていく。豚肉(並)だと、普通の家畜と大差ないが、豚肉(上)や豚肉(特上)にもなると、この世のものとも思えないほど美味になり、とんでもない高値で売れる。

「依頼の品は、豚肉(並)を十個。これで終わりか」

 拾ったアイテムは、大容量の魔法袋にしまう。

 かつて冒険で手に入れた大容量の魔法袋だ。これ一つで家が買えるだけの価値がある。

 俺は念のため依頼書を読み直し、収納した豚肉(並)の数を数えてからダンジョンを後にする。割のいい仕事を終えた。

 今日は、うまい酒が飲めそうだ。

 

◆ ◆ ◆

 

 魔法の扉を抜けて、ダンジョンから村に戻る。のどかで平和な村だ。村で唯一の精肉店に立ち寄り、豚肉(並)を納品してからギルドに向かった。

「おかえり、ユーヤさん」

 なじみの、受付のおばちゃんが笑いかけて手を振ってきた。

 大きな街のギルドだと受付嬢に綺麗どころを揃えるが、この村ではそんな贅沢は言えない。

 若い奴らは酒場で文句を言っているが、仕事をしっかりしてくれるなら、男だろうが、おばちゃんだろうが構わない。

「ただいま。おばちゃん、肉の採取クエストが終わったよ。これが証明書」

 おばちゃんに書類とステータスカードを渡す。

 おばちゃんはすばやく目を通して、印鑑を押して書類を片付ける。

 そして、ステータスカードにクエスト報酬を振り込んでくれた。

 ステータスカードを返してもらい、振り込み額を確認。規定通りだ。

「ユーヤさんは仕事が早くて助かるよ。どんな仕事も嫌な顔一つしないしさ」

「それが仕事だからな。……それより、期限がやばい依頼はもうないのか?」

「これで最後さ。あっ、そうだ。ユーヤさんにって、アップルパイを預かっているんだ。ほら、どうぞ。ニキータからだよ」

 ニキータは、酒場の看板娘だ。村の男たちの中には彼女を狙っている者も多い。

 俺は彼女がいる酒場をよく利用している。だが、アップルパイなんて頼んだ覚えはない。

 怪訝な顔をしていると、おばちゃんがにやにやと笑いかけてくる。

「ほら、あんたがこの前、マルータ病を治すポーションの材料、クルナッタ石の採取クエストをこなしたじゃないか。おかげで母親が助かったんで、そのお礼ってさ。あんた、その年齢で独り身だろ。ニキータをものにしてしまいなよ。あんたに惚れてるし、あの子は器量がいいよ」

「ニキータなら、こんなおっさんじゃなくて若くていい男をいくらでも捕まえられるさ。アップルパイは受け取っておく。明日も来る。やばそうな依頼は残しておいてくれ。最後だしな」

 クエスト報酬はしっかりいただいているので、アップルパイまでもらうのは悪い気はするが、断れば彼女をがっかりさせてしまう。ありがたく、ちょうだいしよう。

「あのさ、ユーヤさん。……本当に契約の更新はしないのかい? 私も他のギルド職員も、あんたには来年以降も、この村の専属冒険者でいてほしいと思っているんだ」

「すまないな。俺も三十六だ。冒険者を続けていくのが辛い。貯金も十分あるし、田舎に戻ってゆっくり畑でも耕そうと思う。安心してくれ、後任のベックは信用できる奴だよ。なにせ俺が育てたんだからな」

 悩んでいたが断ると決めた。専属冒険者は、ギルドと契約をして、期限が迫っているのに誰も受けたがらないクエストをこなす義務を負う。その代わり、毎月給料が支払われる。

 ありとあらゆるジャンルのクエストをこなさないといけない都合上、俺のようなベテランが選ばれるのだ。いろいろと面倒ではあるが嫌ではない。

 極端に高難易度のものには拒否権があるし、冒険者生活から一番ほど遠いはずの安定した生活が手に入る。なにより、村のみんなから感謝される。

 そんな専属冒険者の仕事を断るのは、今言ったような年齢による体の衰えもあるが……燃えなくなったからだ。

 俺は一流の冒険者ではあるが、超一流にはなれなかった。

 野心に燃える冒険者たちとは異なり、超高難易度ダンジョンを目指さず、それなりの仕事をこなしながら、後輩たちを育てる日々を送っている。

 無理をせず堅実に仕事をこなして、金は十分貯まった。

 この金で余生を静かに暮らしていく、もう、俺の冒険は終わりにする。そう、決めた。

 

◆ ◆ ◆

 

 剣と皮鎧の手入れを終え酒場に向かう。

 自分ひとりのために料理をするのもバカらしいし、一人で食事をしていると気が滅入る。

 酒場に行くと、隅にある二人席に座る。

 いつのまにか、そこが俺の指定席になっていた。何も言わなくてもエールが運ばれてくる。

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