クラスメイトが使い魔になりまして

鶴城東

プロローグ 仮初の主従関係からはじまる二人の話 (1)


「ふーん。ストーンゴーレム、ね。なんだっけ? 最低ランクの魔物だっけ?」

 声の主を探せば、つややかな黒髪が印象的な女生徒が壁に寄りかかって俺を見ていた。

 クラスメイトのふじわらかげだ。

 なんでお前がここにいるんだよ、と思いつつも、とりあえず無視して、試験監督の先生たちを振り返る。

 魔術師の古典的正装である、黒いローブをまとった中年の男性教諭が、小さく頷いた。

「よろしい。あしそう、召喚試験合格だ。第二学年への進級を認める」

 その言葉に俺は胸をろした。

 魔術師。

 それは魔力を扱い、超常的な現象を引き起こす者達の総称だ。

 魔力を扱える人間は世界的に少数派であり、そのため過去には世間様と色々ないさかいがあったとも聞く。けれどきよくせつを経て、近代では「珍しいけどいるところにはいる連中」くらいのイメージを持たれるまでに落ち着いていた。

「さて、と」

 床に描かれた召喚陣、その上に立つ石で作られた人型の魔物を見やる。

 ストーンゴーレム。たった今、俺が異世界から召喚した、初めての使い魔。

 使い魔を得たということは、召喚士の仮免を手に入れたということであり、同時に、国際魔術師協会付属学園日本校、境界干渉学部、その二年生に進級できたことを意味していた。

 つまり俺も、これにて魔術師としての第一歩を踏み出した、というわけである。

 ……うん。労働をいとう身としては、嬉しさよりも、モラトリアムが着実に目減りしていることへのだるさの方がよほど強い。

「待ちなさいよ」

 使い魔を連れて試験室から出ようとしたら、藤原に呼び止められた。

 あぁ、まだいたのか。

「そんなしょーもない魔物なんかを使い魔にしちゃって、恥ずかしくないの?」

 藤原は学年首席で、次期生徒会長の呼び声も高い才女だ。

 しかし、なぜか事ある毎に俺に絡んできては小馬鹿にして去っていく変な女でもあり、個人的に関わり合いになりたくない人物の筆頭格だった。今回に至っては、わざわざ俺の試験を勝手に見学してまで文句言ってくるし。

 ふつう、他人の試験、勝手に見るか?

「あ、もしかして俺に話しかけてた?」

「他に誰かいるわけ?」

 試験監督の先生たちがいるじゃないか。しかも三人も。よりどりみどりだ。

「いやだって、あの次世代の大魔術師の呼び声高いふじわらかげさんがだぜ? まさか俺ごときゴミに話しかけてくるとか夢にも思わないじゃん。もしかして暇なのか? だからって俺に絡んできてもいいことないぞ。時間は有効に使わないと駄目だ」

「あなた、そんな情けない使い魔で恥ずかしくないの?」

 自虐をスルーされるとやるせないな。

 それにしても面倒くさい。どうせまた、意識の高い説教を始める気だろう。

「別に。藤原はぶんそうおうって言葉知らないのかな? 俺にはこの使い魔で十分だってこと」

 藤原は舌打ちすると、いらったようにこぶしを握り、足早に俺へと近づいてきた。

 うわやば。俺は慌てて両手を上げる。

「待て、暴力はよくない! 話し合いで解決しようじゃないか! 何がそんなにお気に召さない? へへへ、必要があればこちらは額を地面にこすり付ける用意が……ひっ」

 藤原に胸ぐらをつかみあげられた。

「なんであなたはそう意識が低いの? どうしてもっと高みを目指さないの?」

「俺の意識が低いのは否定しないけど、物理的に高みに押し上げようとするのは勘弁してくださいぃ」えりくびをグイグイと持ち上げられながらうめく。「息が苦しぃ」

「私は今から魔人を召喚するのよ? 一流の召喚士でも難しいとされる偉業に、学生でありながら挑むのよ? それなのにあなたは低レベルな魔物でお茶を濁して、自尊心がないわけ!?

 魔人とは、強大な魔術を自在に操る人型の魔物のことだ。魔力はもとより身体能力も極めて高いため、魔術師が使役できる魔物の中では断トツの最上位に位置づけられている。

 現存する魔術師で、魔人を使役できる者は数人しかいないとされているほどだ。

 俺は鼻で笑った。

「自尊心で試験に合格できんの? 逆に無駄に頑張りすぎて失敗して、落ちたらどうすんだ? 藤原はさぁ、もっと力抜いて楽に生きなされ。俺みたいに」

 藤原の顔が引きつり、胸ぐらをひねりあげる力がゆるむ。かと思えばキッとにらみつけられた。

「呆れた。もういい、ここで私の試験を見てなさい! きっとあしくんみたいなボンクラでも、私の偉業を直接目にすれば意識の改革が起きるから! ええ、きっとそうに違いない! 特等席で私の偉業を目の当たりにする、その極上の幸運に打ち震えるといいわ! 特別よ!?

 ビシッ! と指を突き付けられた。

 うつとうしいのでそれを払いのける。

「つーか俺、今から友達と進級祝いの打ち上げだから。いえーい!」

「ホントそういうところよ!? なんであなたはそうっ……口だけじゃわからないってこと?」

「待て! やっぱ今の嘘! 嘘だし見学するからその拳を引っ込めてくれ!」

 慌てて懇願すると、こぶしを構えていたふじわらが殺気を収めた。

 ……っべー。沸点低すぎ。

 観念し、ストーンゴーレムを引き連れ、藤原から離れた壁際に立つ。

「絶対に見てなさいよ!? 逃げたら許さないから!」

 叫ぶ藤原に俺はひらひら手を振る。

 藤原は疑わしげに俺をにらみ、蛍光塗料に浸されたを手に取った。筆先を床に走らせる。

 描かれていくのは召喚陣だ。俺がゴーレムを召喚するために描いたものとは、比べ物にならないほど複雑な作りをしている。

 見ているだけで気が滅入る。きっと死ぬほど頑張れば、その構造をある程度なら理解することもできるのかもしれないが、そもそもそんな気になれないというか。

 しかし、ふぅん?

 ぼんやり眺めていると、召喚陣を完成させた藤原がドヤ顔を向けてきた。

「どう? 芸術的な召喚陣でしょう?」

「すごいすごい。ところでそれ、メインの魔導回路以外に補助で系統外の回路三つ使ってる?」

 何の気なしに疑問に思った点を尋ねてみると、藤原が目を丸くした。

「わかるんだ。やっぱり才能はあるのよね」

 藤原がジト目を向けてきた。

「自分でもったいないと思わないの? 努力することでその才能を開花させられたら、あなたはきっと素晴らしい魔術師になれるのに」

「俺にそんな大層な才能なんかあるわけねぇだろ。つーかやる気こそが一番重要な才能だ」

「人間ってしようが腐ると、善意のアドバイスすら素直に受け取れなくなるのね」

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