転生したら剣でした

棚架ユウ

第一章 大草原のぼっちな剣 (3)

 頭の中で時間を数えながら待ってみたところ、どうやら一分で1回復するらしい。

 一時間待って60まで回復させると、俺は再び念動を行使した。

『よし、浮くな』

 問題なさそうだ。俺はそのままステータスをチェックした。ガンガン魔力が減っていく。

『念動を使っている最中は、一秒で1消費かな? それだと魔力200で三分程度っていう計算も成り立つし』

 また地面に叩きつけられてはたまらない。

 俺は魔力がなくなる前に急いで台座に戻った。

 刺さってみると、妙に落ち着く。

 

 

 

『ふぅ。戻ってこれたか』

 だが、これで下手に動き回るのは危険だと分かった。

 暫くは台座周辺から出るのは避けて、平原を観察して過ごすとしよう。

 平原を見ていると、色々な生物の姿がある。

 地球のサバンナの様に、哺乳類ばかりかと思いきや、どう見ても昆虫だったり、不定形だったりする奴らもいた。しかも、その大きさはまともじゃない。

 例えば、最初に見つけた蟻っぽい姿の影は、大型犬くらいの大きさがあった。もちろん、牛っぽかったり、蝙蝠っぽかったりする奴もいるけどね。大きさはやっぱり巨大だが。

 剣でよかった。少なくとも、餌として襲い掛かられることはなさそうだし。

『改めて、地球じゃないな』

 もっと遠くを見ると、より大きな獣の影もあった。

 目測でしかないが、一〇メートル近いだろう。

 少なくとも、ゾウよりはでかいと思う。

『いわゆる、魔獣って奴か?』

 それらを見ていて、一つ気になることがあった。

『あんなデカイ魔獣がいて、人間がここにたどり着くこととか、あるのか?』

 相変わらず、人の姿はない。


 転生二日目。

 なんか来た。

 台座の後ろから、足音が近づいてきている。それも複数。

「ゲヘゲハフ」

「アギャギョ」

「ゲギャ!」

 会話か? 会話してるのか? 意味は分からないが、何やらコミュニケーションを取っているようだ。

 声からすると、猿とか、そんな感じに思える。

 気配が近づいてくる。もう、真後ろだ。

 よし、もう少しこっちにこい。そしたら姿が分かるのだ。

 ザッザッ。

 あとちょっと。

 ザッザッザッ。

 あと一メートル。

 ザッザ──ピタ。

 ちくしょう。真後ろで止まりやがった。

「ギャギュ?」

「ギャルガガ」

「ギャンガ?」

「グルッハ~」

 なんだ? 何を言っている? 相談しているようにも聞こえるが……。

 そして俺の柄に、何かが触れた。

 明らかに柄を掴んでいる。その感触はごつごつしすぎているものの、人間の手の感触にも思える。

 どうやら、俺を台座から抜こうとしているようだ。

 ただ、何故か俺は姿も分からぬ相手に抜かれることに、妙な抵抗感を覚えた。

 別に抜かせてやってから姿を確認すればよいのだろうが……。

 なんとなく、念動を使って抵抗してみた。

 俺が抜けないことにより意地になったのか、謎の相手はさらに力を込める。

 だが甘い。全力で抵抗だ。絶対に抜かせてなるものか。

「ギャギャ!」

「ギュガガガ……!」

「ハガハフ!」

 仲間を応援するように、他の奴らも大声で騒ぎ始めた。そして、俺を抜こうと挑戦している個体の周辺を、踊るように回り始める。

「ギャルガ!」

「ゴルギャル!」

 そのせいで、こいつらの姿がばっちり目に入った。

 まじか。

 緑の皮膚。ゴリラをより凶悪にしたような醜い顔。頭部には短めの角が生え、身に着けているのは毛皮と棍棒。

『ゴ、ゴブリン?』

 そう、奴らはまさしくゴブリンだった。

 ゴブリンどもが俺を引き抜こうとしていたのだ。

 待て待て、ゴブリンはない! ゴブリンはないだろう! ゴブリンに使われる魔剣とか、終わってる。せめてゴブリン・キングとかなら良かったのに、どう見ても下っ端ゴブリンだ。

 俺は念動で抵抗しつつ、視界に入る二匹のステータスを確認してみた。


  名称:ゴブリン

  種族:邪人

  Lv:5

  生命:17 魔力:6 腕力:8 敏捷:12

  スキル:棍棒術1、穴掘り2


  名称:ゴブリン

  種族:邪人

  Lv:5

  生命:19 魔力:4 腕力:9 敏捷:10

  スキル:剣術1、警戒1、毒耐性1


 ほほう。同じ種族でも、微妙に違いがあるのか。

 まあ、そうだよな。武器も違えば、得意なことだって違うんだろうし。

 中々抜けないことに焦れて、正面に回ってきたもう一匹も鑑定だ。


  名称:ゴブリン・リーダー

  種族:邪人

  Lv:2

  生命:24 魔力:6 腕力:11 敏捷:13

  スキル:剣術1、生存術1、解体2、指揮1


 お、こいつはゴブリン・リーダーだ。Lvが低いのは、進化した影響か? まあ、少し強いな。本当に少しだけだが。

 どうするか。

 奴らが立ち去る気配は微塵もない。何とかして俺を抜こうと、今度はガンガンと叩き始めた。

 それでも駄目だと分かると、選手交代である。

 どうやらもう一匹死角にいたらしく、そいつが俺を掴んでいるようだ。「フンヌガガー」という、暑苦しい声を上げながら、必死に力を込めている。

 最大パワーで抵抗だ。

 力では無理だと悟るとリーダーは仲間の棍棒を借り、台座を叩き始めた。台座を壊して俺を手に入れようと言うのだ。だが、台座には傷一つ付かない。それがより一層苛立ちと怒りを煽ったのだろう。リーダーの顔は怒りに染まり、もはや抜こうとしているのか八つ当たりなのか分からない状況だ。

 所詮はゴブリン。行動が馬鹿過ぎる。

 暫く悪戦苦闘していたゴブリンだったが、苦し紛れに台座に蹴りを入れた。

 だが台座が予想以上に固かったらしい。つま先を押さえてコミカルに飛び跳ねている。

 くくく。いい気味だ。

 怒り状態のリーダーは、死角にいたもう一匹に棍棒を投げつけた。おいおい、仲間に当たるなよ。

 なんて思っていたら、ゴブリンの野郎。なんと俺に向かって唾を吐きかけやがった。

 刀身に汚い唾液が付着したことが感じ取れてしまう。

 ネチョっとする! ネチョーって! 気持ち悪っ! そして、屈辱だ。

 よし分かった戦争だ。やってやろうじゃないか。

 自分でも不思議な程に戦意が湧いてきたぞ。

 最初の標的は、目の前のこいつだな。

 俺は、ゴブリン・リーダーに代わって剣を抜こうと近づいてきた、剣術ゴブリンに狙いを定めた。力を込めたタイミングを計り、念動での抵抗を止める。

 スッポーン。

 急に抵抗がなくなった剣は、ゴブリンによってあっさり引き抜かれる。すっぽ抜けた勢いで、ゴブリンはバランスを崩し、無様に尻餅をついた。

 馬鹿め。隙だらけだぜ!

 念動を使って、さり気なく刀身を動かす。

 その刃は、無防備なゴブリンの喉笛をあっさりと掻き切っていた。

 事故に見せかけて、一匹撃破だ。

 驚いたことに、初めての殺しに、全く不快感を覚えなかった。むしろ、テンションはアゲアゲだ。

 というか、目の前のゴブリンを切ることが当然と思える。

 やべぇ。もしかして俺ってば呪われた魔剣とか、血を吸わずにはいられない妖刀とか、そう言った類の剣なのか? でも、もう止まれん。だったらこの勢いのまま行ってやる!

「ギャ、ギャゴォ?」

 事態が呑み込めないのか、残った奴らは慌てて駆け寄ってくる。

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