転生したら剣でした

棚架ユウ

第一章 大草原のぼっちな剣 (2)

 もしそうだったら、最悪だな。成金ソードだったら、自分から炉に飛び込んで、死のう(?)。

 しかし豪華な剣だよな。RPGだったら相当後に登場する感じの、神秘的な姿である。

『ただ、剣なんだよな』

 心の中で、ため息を吐く。

 生前、特に美形だったわけじゃない。と言って、目立つほど不細工だったわけでもない。まあ、どこにでもいる、モブオタだったわけだ。なので、生前の肉体に未練はない。転生して違う体になったとしても、特に文句はなかった。むしろ生まれ変わり希望だったのだ。

 とは言え、剣はないだろう。剣は。

 もう食事もできないし、ゲームもできない。童貞だって、捨てられない。

 そ、そうだ。俺ってば、賢者確定だ! もう一生、この十字架を背負って生きていかねばならないのだ。

『……』

 絶望だ。手足があったら、嘆きの五体投地確定コースだったろう。

 というか、スキルの魔法使いって、そういうことなのか? そう言えば。あのスキルだけ他と毛色が違う感じだし……。ふざけんな! 笑えないんだよ!


 どれくらい落ち込んでいたか、自分でも分からない。五分だったのか、一時間だったのか。暫く呆然としていると、なんか段々と馬鹿らしくなってきた。

『今の俺は剣なんだから、そんなこと気にする必要ないよな? なにせ剣なんだし』

 決して現実逃避ではないのだ。本当だよ?

 それに、転生しなければあの場で死んでいたことも確かだ。

 よくよく考えてみれば運が良かったのかもしれない。死んでいたはずなのに、こうして意識だけでも残せたわけだからな。

 そうだ。剣になるなんて誰でもできる経験じゃない。楽しまなきゃ損じゃないか?

 そう思ったら、何か色々吹っ切れた気がする。

 降ってわいた第二の人生。いや、剣生。どうせなら剣として頂点を目指してみるのもいいかもしれない。

 剣としての頂点とは何か? まあ、まずは誰かに使ってもらわないと、話にならないよな。例えば勇者とか? でもな、勇者の剣とか苦労も多そうだ。魔王なんかと戦ったり。場合によっては折れちゃったりして。そんでもって、伝説の鍛冶師(ドワーフ)に直してもらう訳だ。それに勇者って言ったら、正義馬鹿の暑苦しい細マッチョ。多分イケメン。俺とは対極の存在だな。正直、仲良くできるとは思えない。

 どうせなら、女性に使ってもらいたい。可愛かったらベストだが、不細工じゃなければいいや。脳筋勇者よりは数段ましだ。

 あとは、剣の腕だな。凄腕の剣士で、俺を使ってバッタバッタと敵を薙ぎ倒し、英雄になってもらう。そしてその愛剣として数百年後の教科書に載ったりするんだ。

 ……まあ、夢なんだし、語るだけならタダなんだ。でかくてもいいよな?

 とりあえずは、この平原からどうやって脱出するかだけど。

 さっき聞こえていた男性の声はどうやっても聞こえないし、今は考えないでおこう。


 さて、まずは周辺の状況を確認するか。

 俺がいるのは、古びた遺跡の様な場所だ。屋根なんかなく、だだっ広い大平原に、ポツンと存在している。俺は、その中心に設置された台座に宝剣よろしく突き刺さっていた。とりあえずは、この平原からどうやって脱出するかだけど。

 さっき聞こえていた男性の声はどうやっても聞こえないし、今は考えないでおこう。

 さて、まずは周辺の状況を確認するか。

 俺がいるのは、古びた遺跡の様な場所だ。屋根なんかなく、だだっ広い大平原にぽつんと存在している。俺はその中心に設置された台座に宝剣よろしく突き刺さっていた。その台座の四方には祠の様な物が鎮座している。苔生す――どころか屋根の亀裂から立派な木を生やした祠もあり、人々に忘れ去られ、放置されてきた時間の長さを感じることができた。

 これはあれか? たどり着いた者に与えられる伝説の武具的ポジションなのだろうか?  にしては、周辺にダンジョン感はないが。

 台座のせいで振り向くことができないので、背後のことは認識できない。だが、見渡す限り高い木の存在しない茂みと低木だけの平原が続いていた。

 目を凝らせば、遠くに時折動く影もある。動物だろうか。

『人っ子一人見当たらないんだが』

 自力で動けないか。

 いやまて、スキルに確か念動があったはずだ。もしかしてこれで動けたりしないか?

『むん』

 集中だ。念動念動。

 すると、俺の体がふっと軽くなった気がした。

 台座から刀身が僅かに離れた感覚がある。

 その感覚を大事に、剣が空を飛ぶイメージを思い浮かべた。

『おおお! 浮いたぞ!』

 イメージすれば自由自在だ。台座を離れた俺は、空中をスイスイと動き回った。

『アイ・キャン・フラーイ!』

 速さはあまり出ないが、今はこれで十分だ。自力で動き回れることが分かったしな。

 台座の周辺を動き回ってみた。やはり遺跡みたいに見える。

 元は煉瓦の様に茶色いブロックで組まれていたのだろう。

 だが、長年風雪にさらされてきたせいか色は黒ずみ、所々を苔が覆っている。

 広さは直径三〇メートルくらいだ。

『一体誰が作ったのか。俺の製作者だとは思うが……』

 これだけ古そうだってことは、俺は相当長い間放置されていたのだろうか。

 剣に転生と言っても、何もないところから剣がオギャーと生まれる訳もない。俺の体を作った人間がいるはずだ。まあ、肉体が何かの事故で剣に変質したとかじゃなければ、だが。

 その製作者が使用者の第一候補ということになるのだろうが、製作者がすでに死んでいたりしたらその可能性は消えてしまう。

 だが、俺の体である剣自体と、俺の刺さっている台座や、その台座の飾り布などには苔やほこりが付着していない。まるで、昨日今日ここに設置されたみたいに。

 という事は、製作者はまだ生きているのか?

『うーん?』

 周辺を観察しながら色々考えていたら、体に違和感が走った。

『……あれ?』

 なんか疲れが……。力が抜けていく感覚が剣の体を襲う。

 そして、落ちた。

『まじか!』

 必死に念動を使おうとするが、全く反応しない。

 高さは、推定で三〇メートルはある。

『浮け! 浮いてくれ!』

 だが奮闘虚しく、俺は地面に思い切り叩きつけられた。

 ガイイィィィーン!

 大きな金属音が響く。

『いた──……くはないけど。どっか割れたりしてないか? ひびとか』

 慌てて体を見てみるが、どうやら無事なようだった。

 体の感覚にも、おかしなところはない。

 あれだけの高さから落ちて無事とは、やはり名剣なのかもしれない。

『でも、どうして落ちた?』

 急に倦怠感の様なものが生まれ、念動が使えなくなった。

 異変の原因を探るべく、ステータスをチェックしてみる。

 原因はすぐに分かった。

『保有魔力がなくなってるな』

 保有魔力:0/200となっていた。多分、念動を使っている間、魔力を消費し続けるのだろう。

 倦怠感の原因もこれに違いない。

 魔力切れになっても、意識を失わないのがせめてもの救いか。

『五分は飛んでなかったよな。多分三分くらいだったはずだけど』

 俺は石畳の上で、暫く待ってみた。

 すると魔力が僅かに回復する。周辺から少しずつ魔力が流れ込んでくるのが感じられた。大気中の魔力を無意識に吸収しているみたいだな。

「転生したら剣でした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます