賢者の弟子を名乗る賢者

りゅうせんひろつぐ

プロローグ (2)

 どんなスキルがあるのか、どんな事まで出来るのか。術を駆使した新しいスポーツを発案した者、海賊というロマンを実現した者、大陸中の情報を一手に集めて、情報屋として危ない橋を渡る者。プレイヤー達は様々な事に挑戦し、あろう事かそのどれもが成功した。

 そんな中、溢れる沢山のスキルを種類ごとに分け統計したスキルリストを作成した者がいた。各プレイヤーのもとを訪れて、技術についての詳細を聞き本にまとめたのだ。技能大全として出版されたその本は、大ベストセラーとなり巨万の富を築く事になった。

 実はダンブルフも特殊な技術をいくつか開発した偉人であった。一つは後衛職である欠点を補うために試行錯誤した結果の技能。それは、セカンドクラスとよばれる二次職業の開発。ダンブルフは、メインである召喚術士の他に術士系近接クラスの仙術士でもある。滝に打たれる、木に逆さ吊りで一日耐えるといった修行により、仙術士は術を習得出来る。

 ちなみに、サービス開始から一ヶ月と少々で判明した魔術士の魔術習得方法は、触媒と対になる魔法陣が描かれた紙を一緒にして初期魔術【火炎】で燃やすという方法だった。

 そんな奇跡的なゲームを始めて四年、鑑は九賢者の一人という国の重鎮となっていた。


 ある日、所属する国の国境付近に現れた魔物の群れの討伐をする事となった。このような任務は良くある事で、同じ国に所属するプレイヤーと当番制にして遂行している。そして今回、その当番が回ってきたという訳だ。

 拠点として使っている塔から出て、気だるそうに国境へと向かう途中、現実世界からのコール音と妹の甲高い声が夕飯の時間だと告げる。

 夕飯後、再び仮想現実にダイブする。するとその時、メールが来ている事に気付いた。開いてみると、その内容は、ゲーム課金分のネットマネーがもうじき期限切れで失効するというものだった。

 アーク・アースオンラインにも、他のネットゲームと同じように課金アイテムが存在する。扱われているのは、ちょっとしたゲームプレイをサポートするようなものだ。

 その課金アイテムの一つに、全プレイヤーが購入しているといっても過言ではない定番商品がある。『化粧箱』というアイテムだ。それは一つ五百円で、使用するとアバターの容姿の再設定を行えるというものである。これが売れる理由は、その選択パーツの豊富さだ。

 ゲーム開始時に無料で選べるものでも数千とある容姿パーツだが、化粧箱を使った再設定では数万に及ぶパーツから選ぶ事が出来た。全プレイヤーは、まず適当にアバターを作ったあとログインし、化粧箱を使い好みの姿に再設定するというのが常識といってもいい程だった。


 化粧箱の他、もう一つの定番課金アイテムに『浮遊大陸』がある。百メートルトラックがある校庭くらいの広さで、敷地に収まる範囲でなら大抵の事が出来る便利アイテムだ。更に空を飛んで移動出来るので、地形を無視した乗り物としても活用されている。この『浮遊大陸』が二千円。課金は千円ごとでしか出来ないので、化粧箱代を差し引いた残り五百円が失効対象だ。流石に四年前の五百円なので大した未練もないが、貧乏性ゆえか勿体無く感じて課金アイテムリストを開いた。

 生産関連の上等な道具が揃った職人部屋、千円。浮遊大陸を含め、そこに置ける建築物や湖などの地形関連、二千円。このラインナップに『化粧箱』が加わり全てとなる。

 結果、選択肢は化粧箱しか無かった。化粧箱しか買わなくても最低千円課金しなくてはいけない仕様である。これが大人の世界。

 そのまま失効するのも勿体無いと化粧箱を一つ購入。VRマネーは残高0になった。

 それから討伐任務を遂行するべく、ゲームをスタートさせた。腕輪型の端末を操作してアイテム欄を開く。そこには先程購入した漆塗りの小箱、課金アイテムの化粧箱が入っている。これを使ったのはもう四年前の事だ。

 当時は、理想の男性像である今のアバターが作れるかどうかしか頭になく、他にどのようなパーツがあるのかまったく記憶に無かった。

 そこで少しだけ興味が出た。化粧箱を使い、実に四年振りのアバター作成画面を開く。

 パーツは「活発」「控え目」「強気」「弱気」など他色々とある印象カテゴリや、「ミステリアス」「荘厳」「陰気」「陽気」などの雰囲気カテゴリといった括りで検索が出来る。

 そんなパーツ一覧を眺めながら感じた事は、やはり今のダンブルフは最高だという確信だった。

 このアバターを超えられる者は存在しない。なんといっても自身の思い描く理想を作り上げたのだから。鑑がかつての自分の偉業を満足そうに見つめていると、目端にある一文字が映った。

 男、というアバターの性別を表す文字だ。その時、脳裏にふとある思いがよぎった。それは、理想の男性像は完璧に再現出来た。では、理想の女性像はどうだろうと。

 性別を男から女へ変更すると、ダンブルフが少女に変わった。同時に少々こそばゆい気持ちが胸に込み上げる。ゲームとはいえ、少女の姿をまじまじと見つめるのはなんとも言えない気恥ずかしさがあったからだ。

 そこをぐっと押し込め、……むしろ少々興奮気味にパーツを選ぶ。「強気」でソートしたパーツを一つずつ吟味していった。


 理想の女性像を作り始めてからどれくらいの時間が経っただろうか。充分に満足出来る仕上がりとなったアバターをニヤケ顔で見つめていると、朝食を告げるコールが鳴り響く。

 気付けば時刻は朝の九時を示していた。

 直後、猛烈な睡魔に襲われた。メニューのログアウトに触れようとした時、世界が暗転し、急速に意識は遠のいていった。

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