異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう

一章 知らない土地で生活をしなくちゃいけないみたいだけど如何すれば良いのだろう (1)

 


 森のざわめきが聞こえる。

 鳥の声らしきもの、獣の鳴き声、聞き覚えのあるようなないような。

 祖父に連れていかれた、山を彷彿とさせる状況に不安が募る。

「ここ、どこだよ……。あぁ、遅刻かぁ。無遅刻無欠勤だったのに」

 現実逃避気味に周りを見渡していく。

 んー。植生は日本だよな……。これ、クヌギじゃないのかな? ドングリも落ちているし。こっちはコナラっぽいのかな?

 祖父が農家兼業の猟師だったため、小さな頃から山には入っていた。ゆえに、見覚えのある木々の種類を見間違う事は無いはずだ。

「日本の何処かなのか? ここは」

 通常薪炭木が密集している場合、人の手が入った森の可能性が高い。

 であれば、近くに居住地があるはずだ。

 

「まずは、民家を見つけるのが先決か。最優先なのは所持品の確認だな」

 民家を見つけるまでどれだけ移動しなければならないか不明なため、取り急ぎ持ち物の確認を行う。

 鞄を開けて中を見る。

 ざっと見て、ノート三冊、ボールペン五本、ガスがほぼ満充填のライター二個、タオル二枚、ホテルの歯ブラシ二本、五百ミリの水筒一本、ブロック型の携帯食三個、ソーラー充電器二個、スマホ用充電池二個、工具セット等が見える。

 昼抜きになる事が多いため、携帯食を常備していたのが幸いした。後は仕事柄スマホの電池切れが頻発するため、充電系は充実している。

「スマホのアンテナは……駄目か。腕時計のコンパスは機能する。どこの田舎なんだろう、ここ?」

 木のマークの腕時計で、文字盤を上げると下にコンパスが入っている。何かあった時のためにと使わない機能をファッションとして持っていたが、今はありがたい。

 田舎の森となれば、それなりに危険な生物も多いため、護身具も必要となる。

 出るとすれば、蛇と野犬辺りか。工具セットに大振りのカッターナイフが入っていたな。取り敢えずその辺りで凌ぐか……。

 百二十センチ程度ある太めの生木の先を二股に加工し、蛇を取り押さえられるようにし、杖と兼用とする。

 蛭とマダニは勘弁なんだが。スーツだと無防備すぎるな……。

 ひとまず首筋の防御にと、タオルを巻いておく。

 何にせよ、無作為に進むのは危険だ。まずは道か何かがあるかどうかを調べる為、手近な登りやすい木を見つけ登る。

「木登りなんて二十年以上やってないな。丈夫なのを願おう」

 若干運動不足を自覚している身としては、登れるかがちょっと疑わしい。勘が働かず、重みで枝が折れて大怪我となるのだけは避けたい。

 ミシミシと鳴る音にドキドキしながら、二十分ほどかけて、ある程度見晴らしのいい所まで登ると、頭を上げて周りを見渡した。

「何これ?」

 絶句した。見渡す限り森が続いている。

 明らかに日本の地形ではないだろ。これだけ平地が続いているのであれば、何らかの開発が進むものだ。電波塔、電気塔の一本も見つからない。


≪……此方こなたより彼方かなたへ……≫


 インターフェースが呟いた台詞を思い出す。

「おいおい、日本じゃないのか、ここ……。というかどこなんだ」


 ひとまず冷静になってみる。


 1.現在地は日本ではない可能性がある。

 2.食料は最大限で三日分、水分は四半日分しかない。

 3.ここまで大規模な森であれば、そこそこ大型の野生動物が生息可能である。

 4.武器、防具の類はない。あるとすれば、大振りのカッターくらいか?

 5.近場に居住地らしきものは目視出来ない。目的地も決められない。


「おふ。詰んでる……」

 四つん這いになりながら、現状を悲観する。

「おいおい。IT土方が森ボーイデビューとか、無理だろ。爺ちゃんなら生き残れるだろうけど」

 四つん這いから回復し、このまま悲観していても埒が明かないので方針を決めてしまう。

 まずは、水の確保。それと食料だな。植生が日本に近いなら、食べられるものも近いはずだと考えられる。

 水源は川の生水は怖いから湧き水を探すか……。最悪は煮沸だけど、水筒がアルミだからそれで煮沸か。ゴムパッキンが外せたらいいけど。食料はわなりょうで小動物と鳥類、後は魚かな?

 少しずつ意識を上げて、生き残る手段を考えていく。

 祖父の薫陶で、小規模な罠の作成と獲物の捌き方はある程度は覚えている。

 後は本日の寝床の確保まで出来れば上出来と。

 今が……太陽の感じを見るに昼前くらいか。まずは水源確保だな。水がないとまず詰む。自噴する湧き水の池か、出来れば流水のままが望ましい。

 そこまで考えていると、背後から仄かに物音が聞こえた。大分低い位置からの物音からするに、小動物だろうか。

 二股の杖を構え、物音がする茂みをそっと開く。動くものが見えた瞬間、杖で押さえる。

「アオダイショウか?」

 二股の先でもがく蛇の長さは百五十センチほど。ただ色が赤褐色なのでアオダイショウとは言い切れない。

「あれ? 瞳孔が丸くない。でも頭の形はそうだよな」

 見覚えのある蛇の見覚えのない姿に戸惑っていると、大きく口を開け牙周辺から液体を噴出してきた。首を持って観察していたので口からの液体は関係のない方向に飛んでいく。噛まれるのが嫌だから、頭を前方に向けていて良かった。

「うぉっ。毒持ちなのか。え? アオダイショウって毒無いよな」

 無意味に反撃を食らうのも嫌なので、工具セットから千枚通しを取り出し、脳天を突き刺す。

 ビクビクと痙攣しながら、杖に巻き付きつつも徐々に力なく垂れ下がってくる。

 完全に命が尽きたと思われた瞬間、聞き覚えのある電子音声が頭の中に響いた。


≪スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『隠身』0・03。該当スキルを譲渡されました≫


「えっ?」

 全く予想もしなかった状況に頭が真っ白になる。

「何これ? 『獲得』? スキルの譲渡?」

 まとまらないまま、疑問を呟く。


≪スキル『識者』より告。初めまして未設定者。私は『識者』。貴方が対話を望んだため、話しかけました≫


 また、電子音声が聞こえる。こちらはまだ、会話が可能な雰囲気を感じた。

「しきしゃさんですか? インターフェースさんが付与した、スキルというものでしょうか?」

 正体が全くわからないため、丁寧な口調になってしまう。


≪その認識は是です。スキル『識者』は見識あるものと認識して下さい。スキル『識者』はインターフェースより未設定者に付与されたものです≫


 なるほど、識者か。呼び方と思われるのが未設定者なんだけど、どんな意味があるのかな?

「未設定者とは何でしょうか?」


≪スキル『識者』は未設定者の個体識別をする手段がありません。ゆえに仮称として未設定者と呼称しています≫


 あぁ、名前がわからないから未設定者なのか。

「私の名前はまえかわあきひろです。彰浩と呼んで下さい」


≪認識しました。今後、未設定者は呼称、彰浩と登録されます。末永くよろしくお願い致します≫


 まともなコミュニケーションが取れる。インターフェースさんとは大違いだ。

 で、最初の疑問に戻る。

「『獲得』からスキルを譲渡した旨、報告されたんですが、これは一体何ですか?」


≪解。彰浩はインターフェースより、三つのスキルを付与されています。その内の一つが『獲得』となります。彰浩は全ての情報及び経験を得る事を希望したため、該当スキルの付与がなされました。該当スキルの能力は、自身で経験した事象をスキルの形に消化し、その身に得る事となります≫

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