どうやら私の身体は完全無敵のようですね

ちゃつふさ

第一章 幼少編 (2)

「あぁうちっ!」

 今度は訳の分からぬ奇声をあげて自分の胸を押さえる父。

(毎度の事ながら何だろうね、このやりとり)

「ゴホンッ……旦那様、話が進みませんので」

 後ろに控えていた執事が小さな声で言葉をかけると、父は分かっているとにやけた表情を正した。

「メアリィよ、ついてきなさい。お前に会わせたい子がいる」

「私に、ですか?」

 先に述べたように、私は両親に多くを欲しがったことはなかったので、両親も無理に私に何かを与えようとはしなかったが、今日は違うようだ。

(っというか、父よ。ついてこいと言っておきながら、なぜ私を抱き上げて運んでいく。私は自分の足で歩きたいのに)

 きたえ上げられた父の腕にちょこんと座りながら、私は庭へと連れられていくと、そこにはすでに先客がいた。

 屋敷内にある綺麗な庭を一望できる場所に、贅沢な造りの机と数脚の椅子が置かれている。

 その一脚に腰掛けて、紅茶をたしなむ女性が一人。父は彼女の前まで来ると私を腕から下ろしてくれた。

「お母様ッ!」

「あらあら、メアリィったら、甘えん坊さんなんだから」

 自由になった私は一目散に母親のもとへと駆け寄ると、その膝にしがみつく。

 そんな私を怒るでも慌てるでもなく、優しい笑みを浮かべて見てくれる彼女の名は『アリエス・レガリヤ』。私、メアリィの母親だ。

 フワッと優しい風が舞い、母の綺麗な白銀の髪がたなびくと、私はその美しさに見とれてしまう。

 クリクリとした大きな金色の瞳で母を見つめていると、彼女は私の真っ白な髪を優しく撫でてくれた。

 ちなみに私の外見の特徴は、母譲りの白銀の髪(母より白い)と、父譲りの金色の瞳、全く日に焼けてない真っ白な肌と、ぱっと見病弱な感じがするものだった。まぁ、自分的な観点だが。

 おやのなんてことのないコミュニケーション。だが、私にとっては無菌室のカーテン越しでしか触れられなかった、母親の温もりがとても心地よかったので、このままずっとこうしていても飽きないだろう。

「オホンッ……あ~、ところでアリエス。今日はこの子にあの子を会わせようと思ったのだが」

「では、呼んで来させます」

 父が咳払いとともに発した言葉で、私の至福の時が終わりを迎える。

(はて、私に会わせたい子?)

 母から離れ、父を見上げていると、母が控えていたメイド長に何やら一言言い、彼女が一度席を外した。何だろうと父の隣に立ってキョトンとしていると、ほどなくして、向こうからメイド長とともに小さなメイド服を着た少女が近づいてきた。

(うわぁ! 小さなメイドさんだ。黒の髪と瞳が親近感湧くわね)

 白と黒を基調にしたフリフリのメイド服に包まれた少女はメイド長に促され、緊張気味に私の前へ歩みでると、両手を前に揃え、綺麗な角度でおじぎしてみせる。

「は、はじめまして、メアリィお嬢様。わ、わわ、私、テュッテと申します」

(しどろもどろになるところも可愛らしいわね♪)

「今日からお前の専属メイドになって、常にお前の身の回りの世話をする子だよ」

 彼女の自己紹介だけでは情報が足りないと、父が補足してくれた。

「私の専属メイド」

(何それ、めっちゃお嬢様みたいなんですけど。いや、まぁ、お嬢様なんだけどね)

 私はもう一度、小さなメイドさんを見る。年の頃は私より上だろうが、そんなに離れているようには見えない。まぁ、精神年齢では私の方が上だろうけど……。

 私が好奇心旺盛な金色の瞳でマジマジと見ながら彼女に近づいていくと、彼女は姿勢を正して、こちらを見ていた。

「私はメアリィ、これからよろしくね、テュッテ♪」

 私はお嬢様言葉ではなく、あえて友達のような感じで話しかけた。

 ウキウキする。だって、同年代の子供と話をするのはこれが初めてかもしれないからだ。

「は、はい! お嬢様!」

 緊張しっぱなしでテュッテがお辞儀をし終えると、さっそくとばかりに私は彼女を連れて庭を散策することにした。

「お父様、お母様、私、テュッテと庭を散策して参ります」

 気分はすっかり友達感覚だった。

 それでも、父も母もメイドさん達も何も言わなかったので、私はそのままテュッテを引き連れてその場を離れていく。

「お、お嬢様! 走られると危ないですよ」

(いやいや、あなたの方が危なっかしい走りだから)

 私は速度を落とし彼女の前を歩きながら、くるりと顔だけ向けて後ろを見る。

「テュッテはいくつになるの?」

「え、あ、はい。今年で八歳になります」

 急に話を振られて慌てたのか、一呼吸おいてから彼女が答える。

(八歳ということは私と五歳違いか。それにしても幼い顔立ちよね)

 私の好奇心旺盛な目にさらされて、テュッテの可愛い黒い瞳がキョロキョロと泳ぎ、少し日に焼けた顔が桃色に染まっていた。

(面白い♪)

 今まで冷静な大人達としか接したことがなかった私には、この幼い反応がとても楽しかった。

 しかも、どこにいても必ず私のそばにいてくれる。それが前世で味わってきた私の孤独感を払拭させてくれると思うとさらに嬉しくなってくる。

「フフッ、ちゃんとついてきてね、テュッテ♪」

「お嬢様~、お待ちください~」

 私は再び駆けだした。何とも情けない言葉が後ろの方から聞こえてくるが、それもまた追いかけっこをしているようで、楽しい。

 私は、どんどん進んでいき、一つの納屋を見つけるとその中へと身をひそめた。

 所謂いわゆるかくれんぼだ。

 前世では全くできなかった行動が、今では普通にできる、許される。それが嬉しくて、支離滅裂な幼い行動に拍車が掛かったのだろう。

「お嬢様、どこですか~、ここは危ないですよ」

 息を切らせて、テュッテが納屋へと入ってくる。私は近づいてきたら脅かしてやろうとたんたんとその時を待った。


 私はこの時、有頂天だった。

 だから、自分が隠れた周辺が無理に積み上げられてバランスが微妙な木箱達だということに気がつかなかった。

 そして、彼女が近づいてくると、私は声を出し、飛びだそうとして木箱の一角にぶつかった。


 ゴシャッ!


 私は何の障害もなく前に飛び出したが、その代わりに木が粉砕する音が鳴り響く。

「危ない! お嬢様ッ!」

「えっ?」

 青ざめていたテュッテの顔がやけにスローに見え、私はそのまま彼女が見ている後方を振り返る。

 私の目の前には自分を包み込むほどの大きさの木箱達が雪崩なだれのように襲ってきていた。

 こんな物をまとも受けたら私は押し潰されてぺしゃんこだ。

(危ない! 止めなきゃッ!)

状況を認識できたのは良かったが、私は逃げるという判断ではなく、止めるというおおよそ見当違いの判断をしてしまった。そして、咄嗟に自分を守ろうと片手をなだれ込んでくる木箱達へ、もう片方の手を自分の顔へと持っていく。

 目をつぶり、衝撃に体を強張らせる私に、何かがぶつかり、そして──

 ゴシャァッ!

 重い木箱が何か硬い壁にでも叩きつけられたように、大きな音を立てて粉砕された音がした。

 何事かと目を開ければ、そこには落ちてくる木箱が何もしていないのに私の目の前で次々と壊れていく光景が繰り広げられていたのだ。

(えっ、どういうこと?)

 あっにとられ、私は状況を確かめるように周りをよく見ると、落ちてきた木箱が私の差し出した手に触れた時、まるで壁にでもぶつかったかのように粉砕されてしまっている。

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