せっかくチートを貰って異世界に転移したんだから、好きなように生きてみたい

ムンムン

第一章 始まり (1)

第一章 始まり


「……着いたか。一瞬だな」

 気がつくと俺は、雑草の生い茂る中に座っていた。

 立ち上がると、雑草の高さは膝ぐらい。

 あちらこちらには、一抱え以上ある石の塊が顔を出している。

 自然のものではない、石材だ。

 ただいずれも古く、表面は風化している。

 昔々に建てられた石造りの建物が崩れ、そのまま放置されたのだろう。

 周囲を見回してみると、ここは小さな丘の上である事がわかった。 

 草原と森、それにやや遠くに町らしきもの、街道らしきものが見える。

 まったく馴染みのない風景だ。

 町らしきものは周囲に城壁を備えており、中世ヨーロッパのような風情である。

 音は、そよ風に揺らされる草と木々の葉の立てるもののみ、車の走行音など一切聞こえない。

「まずは、貰った魔法の確認だな。さっきは時間がなくて、詳しく見られなかったからな」

 俺は自分の声が出るのを確認するように、独りちる。問題はないようだ。

 貰ったはずの本は手元にない。だが、焦る気持ちはまったく湧かなかった。

 なぜなら自分の頭の中に、その存在を感じていたからである。

 頭の中で、本を開いて読むイメージをすると……読めた。


 我は、当本を貸与された者に、下記の力を貸し与える。

 当本は、貸与された者の命が失われた時点で、力と共に返却される。

 貸与する力

  根源魔法アカシック・マジックのうち、以下の物

  怪我治療(S~F)

  病気治療(S~F)

  状態異常回復(S~F)

  怪我治療薬作製(S~F)

  病気治療薬作製(S~F)

  状態異常回復薬作製(S~F)

 ※一 根源魔法アカシック・マジックとは、過程を得ずに結果だけを現出するものである。

    呪文の詠唱、魔法陣の作成、素材の準備、天体の相関位置等、通常発動に要する一切の外的 要因が不要である。

 ※二 一日に使用可能な回数は、すべての計で以下の通り。

    なお、使用可能回数に必要なのはあくまで日をまたぐ事であり、睡眠時間は関係しない。

  S  一

  A  三

  B  六

  C  十

  D  十五

  E  二十一

  F  二十八

 なお、貸与された者には支度として以下を与える。これについて返却の必要はない。

 人族の一般的な公用語の能力(D)

 一般的な旅人装備一式

 金貨九枚

 銀貨十枚

以上


(……あの石像、意外に親切だな)

 それが、読んだ後の印象だった。

 まず、魔法の確認から始める事にする。

 S~Fというのは、おそらくランクの事だろう。

 回数から言って、Sが一番上、Fが一番下。

 この世界の標準がわからないが、おそらくとんでもない力だという事は推測出来る。

 なにせ神が自分で、『世界最上位の魔法』と言っていたのだ。

 病気の治療Sの魔法を使えば、不治の病だろうとも治せるはず。

 怪我の治療Sなら、死んでさえなければ、体真っ二つからでも回復させられるかも知れない。

 それに各種薬、ポーションが作れるという事は、余った使用回数でポーションを作製しストックしておけるという事だ。そうすれば、いざという時大量に使用出来る。

 売って金にしてもいい。

 それに親切というか気が利いているというか、言語はともかく装備と現金を準備してくれているとは、ありがたい。

 いかにチート能力を持っていても、金も何も無しからでは大変だ。

 仮に転移者が、食べ物、飲み物、現金無しの状態で到着したとする。

 いかに強大な力があっても、当座の命がつなげない。

 何とか人里にたどり着いたとしても、金は無い。

 そして腹は減っている。人里に食べ物がある。そして転移者は強い力を持っている。

(……不幸な未来しか、想像出来ないな)

 そこまで考えた時、気がついた。

 あの石像が、俺以外にも同じような依頼をしていただろう事に。

 幾度かの不幸な事件を経て、この初期装備になったのではないかと思えたのだ。

 そう考えると、勧誘の時から手慣れてる感は、確かにあった。

 俺は一人納得する。

(しかし、人族の一般的な公用語の能力Dか)

 人族と明記してあるという事は、人以外で言語能力のある奴がいるという事だ。ここが別世界であるという事を、改めて感じる。

(言語能力のDって、喋れるがF、読めるがE、書けるがDって事か?)

 もしそうなら俺に与えられたのは、読み書きが出来る最低限という事だ。

 考えつつ、脳内の本のページをめくる。

(む?)

 次のページは白紙だった。さらにめくるが、やはり何も書かれていない。文字が書いてあるのは、最初のページだけだ。

(無駄に厚く、ページ数もある。しかしこれに何の意味が?)

 首を傾げる。

 しかしこれ以上詮索しようもないので、装備品の確認に移った。

 布製のバックパック。

 中には水筒と、ショートブレッドみたいな食べ物がいくつか入った袋が一つ。

 試験管にコルクの栓をしたような形状のガラス瓶が二本。中には薄赤い色の液体が入っている。

 旅人装備一式という事だから、おそらくこれは怪我か病気の治療薬なのだろう。

 身に着けているものは、

 フードつきの厚手のマント。

 布製の上下の服、それに下着と靴下。

 革の手袋に同じくブーツ。

 腰ベルトに短剣が一振り、貨幣の入った革製ポーチもついている。

 残念ながら、身分証みたいなものはない。

(町へ入る時求められたりするのが定番だよな。ここまで気を使っているから、あると思ったのだが)

 逆に言えば、なくても何とかなるという事だろう。

 装備品の確認後は、魔法を試す事にした。

 実際どんな感じなのか、把握しておきたい。

「鑑定!」

 近くの草を睨みながら、鑑定をイメージしつつ叫ぶ。

 ……何も起きなかった。

「ステータス・オープン!」

 自分の胸に手を当てながら叫ぶ。

 ……今度も、何も起きなかった。

 鑑定やステータスを見る能力は、残念ながらないらしい。

 改めて怪我治療薬作製Fをイメージし、魔法を発動させようとした。

 すると、自分の中で何かカチリと、引き金を引いたような感触が走る。

 同時に目の前に、ガラスの瓶が一本出現した。試験管にコルクの栓をしたような形状で、中は薄赤い液体で満たされている。

 驚きつつも、草の上に落ちる前に右手でキャッチする。

 容器ごと出現とは予想外だ。

 想像していたのは、薬液だけがバシャッと出て来る、水の入った瓶に手をかざさないと魔法そのものが発動しない、などである。

 まさかポーション瓶ごととは。驚いたが、嬉しい驚きでもある。

 これなら瓶を準備しなくてもポーションを作れる。

(説明書きにあった素材不要とは、容器の事まで及ぶのか)

 俺は感心する。こういった点も、石像が慣れている事を実感させた。

 町へ向かうにあたり思うところがあったので、怪我治療薬Fをさらに二本、病気治療薬Fと状態異常回復薬Fを三本ずつ、さらにこの三種のEを一本ずつ作製する。

 病気治療薬Fは薄青い色、状態異常回復薬は薄緑色をしていた。

 Eはそれぞれ、若干色が濃くなった感じである。

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